強さ談義
夕食が並ぶテーブルを囲んだ俺達は、誰ともなく今日あった事を報告しあう。旅をしていた頃、別行動を取った後は必ず行っていたので癖で自然とそうなるだけなのだが。
取り敢えず昨日は疲れていてざっくりだった報告も、今日は細かく行われる事になったので、別れていた間のお互いの行動が全て把握できた。……筈。
「……つーわけでよ、オウルへの正式な依頼として闘技大会の審判をする事になった。」
「それはいいけど、まさかナインハルトがハバキ領の代表だとは思わなかったな。」
試験の時しか剣を持った姿を見た事はないので、いまいちナインハルトの強さが想像できない。
ローランはココノエさんの弟子で、ココノエさんには勝てないと言っていたな。ナインハルトと正々堂々戦えば勝てるかはわからないとも。そうなると俺の周りではシヴ、ココノエさん、ナインハルト、ローランの順になるんだろうか。
「シヴから見てナインハルトはどうなんだ? 優勝が狙えるのか?」
興味が無かった闘技大会だが、ナインハルトはもう友人みたいなものだし、その友人が出るとなると俺も応援したくなる。シヴが出ても強すぎて退屈なんだが、その分逆に審判として立ってるんなら安心して観戦できる。
「さあな、他の面子を知らねーから何とも。いや、何人かは知ってるっちゃ知ってるけどよ。」
「ワシは誰を応援すれば良いのか難しいところじゃな。」
そりゃ勿論自分の国を応援した方がいいに決まってるだろ……。と思うが、おそらくヒルダさんの事もあるんだろう、親友になれるかもしれないと嬉しそうに話していたし、その親友の思い人を応援しないというのも義理堅いキイからすれば頭が痛いよな。
「そんなもんどっちも応援すりゃいいじゃねーか、そいつらがぶつかった時だけ黙っとけよ。」
身も蓋もない事を言わせたらシヴの右に出る者はいないと思う。
「ローランはどう思う? 確かナインハルトには勝てるかわからないって言ってたよな?」
「闘技大会の規則に従った場合は間違いなく私が負けますね。」
何でもありなら勝てる……、と言いたいのか。
「じゃあココノエさんが元気だったとして、舞台が闘技大会ならどう?」
「あのジジイの方がつえーよ、間違いねえ。」
どちらとも実際に戦った事があるシヴがそういうなら間違いないんだろう。ココノエさんは普通に戦っても強いのか。
「じゃあココノエさんより下でローランより上なのは間違いないんだな、俺からしたらローランの動きもだいぶおかしかったんだけど……。あれより上なら期待が持てるな。」
面白くなってきた。火龍が偶然闘技大会の間に睡眠を取って体力回復をしたいとシヴに提案してくれていて助かった。
「ワシとヒルダはどのくらいじゃろうな、油断さえしなければあやつもかなりの使い手じゃが。」
「お前さんは近接は苦手だからなあ。」
「闘技場だとしたらどうじゃ?」
「そらナインの奴の方がつえーだろ。森ん中ならあいつの負けだ。ローランは知らねー、目の前にいるけど俺より弱いって事しかわからねーわ。受付のねーちゃんも同じだ。」
俺もヒルダさんが強いと言われてもピンとこない。怖いっていうのなら納得なんだけど。
「お、俺は?」
「最弱。」
「だよね。」
一応聞いてみただけだ。いいんだ、強くなりたいわけじゃないし。
「まあ負けはねーけど、お前さんには絶対に勝てねーから厄介なんだよ。」
褒められてはいないな。こういう時は代わりに良いところを教えてあげるもんだろ。ハバキの剣の事密告してやろうか……。