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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
142/209

オサモンの配慮♦

 昼食後キイはギルドへ出掛け、アレンはシヴをエヌの所に誘ったが、シヴはそれを断った。朝は忘れていたが、ティオの町の件をナインハルトと話す必要があるからだ。

 アレンはローランと二人でエヌの元へ向かい、シヴはキイからかなり遅れて家を出た。

(流石にもう終わってるだろ。)

 キイとヒルダの監査は、二人が服の好みで盛り上がったせいでこの時点ではまだ終わっていないのだが、その事を知らないシヴは報酬を貰う為ギルドの戸を潜る。


「お前さん、何してんだ?」

 ヒルダが未だ監査室から戻らないので、代わりに受付に座るナインハルトを見てシヴはそう言った。

「申し訳ありません、実は未だ監査が終わっていないものでして。」

「嘘だろ、もうかなり経つぞ?」

 キイが出てから寄り道せずにここに来て、すぐに始めていればとっくに終わっていてもおかしくはない。まさか依頼未達成という結果もあり得るのかと、少し心配になるシヴ。

「今のところ未達の報告は上がって来ていないので大丈夫だとは思いますが……。」

 シヴの心情を察してナインハルトは答えるが、そう言いながらも内心ナインハルトも怯えていた。


「そ、それよりシヴ様にお聞きしたい事がございまして。」

 ナインハルトは脇に置いておいた紙を取り出し、受付に広げる。それはオウルのみという条件付きの依頼書だった。

(マジかよ、下手すりゃそっちも未達になっちまうぞ……。)

 現在高難度の依頼進行中等の特別な理由が無い限りは、オウル指名の依頼書は断る事が出来ない。無論ギルドも何でも受け付けている訳ではないので、可能である、若しくは期限内に間に合う可能性があると判断した場合しか依頼自体を通す事はない。現状シヴが請けている依頼は無いので、これは間違いなく達成の可能性があると認められた依頼、という事になる。


「シヴ様……?」

「ん、お、おう。すまねえが俺にものっぴきならねえ用ってのがあってな……。」

 オウルとしては駆け出しの立場で、請ける前から未達を出すのは気が引けるシヴだったが、ここでオサモンを裏切る訳にもいかず曖昧な返事をする。

「そうですよね、エルフの国へ苦も無く行けるシヴ様なら可能な範囲であると判断しましたが……。戻ってすぐにティオの町へというのは……」

「今ティオの町って言ったか?」

 ナインハルトの言葉に目を丸くするシヴ。

「ええ、ティオの町で闘技大会が行われるのはご存知かと思いますが、その責任者のモンという男からの依頼でして。」

「ちょっと貸せ。」

 シヴは依頼書を取り上げ、内容を確認する。そこにはオサモンからの依頼で、明後日から行われる闘技大会の審判として、誰も死者を出さずに終えさせて貰いたいという旨が書かれてあった。


「私もその大会に出るので御一緒出来ればと思ったのですが、ティオにはティオのオウルが居る筈なので、その依頼はギルドの手違いとして処理を……」

「待て待て待て待て、今度は何つった?」

「ギルドの手違いとして処理するので未達にはならないと。」

「そうじゃねーよ、お前さんがこれに出るって?」

 シヴは依頼書を手の甲で叩きながら問いただす。


「え、ええ。知らなかったのですか?」

「知るかよ。お前さんここは放っといていいのか?」

 シヴのもっともな疑問に、難しい顔をしてナインハルトは答える。

「大会と言っても二日間ですから、移動を含めて四日。ヒルダは優秀なので、それくらいの間なら実務の方は任せられます。何よりハバキ様から領の代表として出ろと言われましたので、断る訳にもいかず……。」

 勿論ここを空ける事に危険性が無いという訳ではない。ないのだが国王直下の組織とは言え、領主の方がギルドマスターより領内では立場が上という扱いなので、無下に断る事も出来ずナインハルトは渋々引き受けたのだった。


「もっと早く言えや、請けるぜこれ。」

 途端に態度が変わり、強気で請けると言い出したシヴに、ナインハルトは面食らう。

「いや……、それは有難いのですが……。しかし良いのですか?」

「何がだよ?」

 安心しきり、込み上げて来る笑顔を隠そうともせず、緩んだ顔でシヴは聞き返す。


「どうしても外せない用事があると先程……。」

「ああ、あれはいいんだ、忘れてくれ。他の依頼が来る前にさっさと手続きしてくれ、間違いなく達成してやるからよ。」

「はあ……。」

 上機嫌なシヴと、狐につままれたような気分で依頼確定の手続きの準備を始めるナインハルト。

 そこに丁度ヒルダが戻り、キイの依頼がつつがなく達成されていたという報告をする。


「そうか、良かった。では達成の方の手続きを頼む、私はこちらをするから。」

 ナインハルトはヒルダにそう指示すると脇にそれ、代わりにヒルダが椅子に座る。

 キイが重そうに風呂敷を持って受付に現れると、シヴに気付いてその風呂敷を渡した。

「お主、よくこんな物持って走ったものじゃな……。」

「そう思うなら最初から馬鹿な依頼するなよ。」

「許可を出したギルドに言うのじゃな。」

 キイはそれだけ言うと、ヒルダから差し出された書類に取り掛かる。全て書き終えた後、クロウの頃の貯金からシヴへの報酬を払う手続きも済ませた。


 ナインハルトによりその承認作業が終わると、今度はシヴへと書類が渡される。

「シヴさん、これで問題ないかしら?」

 キイから支払われた金額からギルドの手数料、およそ三割程を引かれた額面の書かれた達成承認書。ナインハルトと新しい依頼の手続きをしながら、碌に目も通さずそこに自分の名を書いたシヴにヒルダは呆れる。

 同じ家に住んでいて、ギルドの仕組みも理解しているであろう筈の二人が行ったこの行為。

 オウルが無闇に私用で動けないのはわかるが、ただギルドに金を渡しただけのようなこの茶番が、ヒルダは理解できないでいた。

「あんた達馬鹿なんじゃないの?」

 書類を棚に仕舞いながら、心からヒルダはそう言った。

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