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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
141/209

監査室の女♦

 ヒルダに続いてギルドの監査室に入ったキイは、不機嫌そうに依頼書をめくるヒルダを見る。

「何か不満でもあるのかの?」

 依頼書から視線を外さず、ヒルダは答える。

「別に。仕事はきっちりやるわよ。」

 とは言いつつも、知り合いの下着を今から確かめるというこれからに対する不満が、その声にはっきりと表れていた。


「はいじゃあ一つ目から順に読み上げるから、その中から同じ物を出してくれる?」

「わかったのじゃ。」

 キイは風呂敷を開け、その中身を大まかにいくつかの山に分け、床に置いた。



 ヒルダの読み上げた物を探し、テーブルの上に置くと、ヒルダが依頼書に〇を付けていく。それを繰り返していく中で、面白くなさそうにしていたヒルダが身を乗り出した瞬間があった。

「何じゃ、続けぬのか?」

「いえ、それ可愛いわね。」

 そう言ってヒルダが指差した下着を、キイは持ち上げる。

「これかの? 欲しいのか?」

「冗談でしょ、あんたのお古なんて気持ち悪い。」

 装飾は気に入りはしたが、これらは要は実家から持ち込んだ衣類。好みの物でも他人の身につけた物を貰うなんて、と、あからさまに嫌な顔をするヒルダ。


「いや、ここにあるのは殆ど着た事は無い物じゃが?」

「どうだか。」

 鵜呑みにはしないが、もしそれが本当なら買い取ってもいいかな。そうヒルダは思案する。

「その嘘でワシに利があるとは思えんのじゃが。」

「それもそうね。」

 わざわざエルフの国から持ち込んだ自分の下着を、嘘をついてまで他人にあげようという変人。流石にキイがそこまでとはヒルダも思っていない。

「言い値でとまではいかないけど、常識の範囲内なら買い取るわ。」

「こんなのもあるんじゃが。」

 キイは別の下着を取り出しテーブルに広げる。そしてこれもまた、ヒルダの好みに合致した。

「あらこれもかわいいわね。あなたこういうのが好きなの?」

「いや、貰い物じゃよ。ワシの好みではないから使っていなかったのじゃが……、折角新しい気持ちでここに住む事にしたのじゃ、食わず嫌いもやめてみようかと思っての。」


 その後も、下着に限らずいくつかヒルダの気に入る物があったのだが、そのどれもがミームからキイへと贈られた品であり、ミームとヒルダの好みが似ている事にキイは内心で驚いていた。

(ミームに贈る物は今後ヒルダに選ばせるとするかの。性格は合わなそうじゃが……。)

 ミームにヒルダを会わせる事があったとして、常に怒りに震えているヒルダと、そんなものどこ吹く風と挑発を続けるミームの姿しか頭に浮かばないキイ。

「何よ?」

 思わずヒルダの顔を見つめてしまっていたが、ヒルダのその一言で我に返る。


「いや、気に入ったのなら全てお主にやろう。好んで着てくれるのならワシも嬉しい。」

「あんたに借りなんて作りたくないわ、買うわよ。」

「構わんがワシは元女王じゃぞ? お主に払えるかのう……?」

 眉を片方上げ、わざと憎たらしい表情を作ってキイはヒルダを見る。

「んなっ!? 何よそれ、馬鹿にしてんの?」

 咄嗟に手が出そうになるが、ヒルダは堪えてそう返した。

 するとキイは微笑み、ヒルダの気に入った服を集めてテーブルの脇に置く。

「冗談じゃよ、からかい甲斐のある奴じゃ。」

「はあっ?」


 一度堪えたばかりのその手をやはり出してしまおうか、と悩むヒルダに睨まれるが、キイは意に介さない。

「まあワシもこれがいくらするのか知らん、友達になった記念にやろうと言っておるのじゃ。」

「いつ私とあんたが友達になったってのよ!」

「何じゃ、ワシはとっくにそうじゃと思っておったがの?」

「そんな訳! ……くも、ないけど……。」

 実はヒルダもここ数日でキイと過ごした時間は楽しかったのだが、自分の勘違いの喧嘩から始まっている関係性なので、いまいち素直になれなかった。


「よく聞こえんのじゃが?」

 対してキイはその心情は見通しており、また、キイ自身もいずれは気の置けない友人として付き合っていきたい、そう願っての行動だった。

「わかったわよ! 友達になってあげるわ、でもとっくにじゃない、今日からよ。あと服くれるから仕方なくよ。」

「いいじゃろう、お主の友情は金で買えるのじゃな。」

 これは皮肉ではなくキイなりのお礼なのだが、ヒルダはキイもまた、素直じゃない部分があるのだと理解する。

「はー……、ほんとあんたいい性格してるわ……。」

「ワシは嬉しいがの。」


 ご満悦のエルフと、後に無二の親友となる人間の監査作業はその後も続き、シヴの仕事が達成条件を全て満たしていると判断された。

 依頼料の残りをキイがギルドに支払い、そこから手数料を抜いた報酬がシヴに支払われる。


「あんた達馬鹿なんじゃないの?」

 その無駄にヒルダは呆れるばかりであった。

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