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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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メイドが帰ってきました⑧

 ローランも偽ココノエを引き渡した後、大した聴取もなくすぐに帰って来た。

「いいのか? そんな簡単に済ませて。」

 エヌの髪を結んだり解いたり、色々と試しながらローランは答える。

「ええ、当然役人の中にも領主館や国王陛下の息のかかった者は多くおりますから。ハバキ様から連絡が来ると言われて、勝手な事をするというのはありえませんよ。」

「あの者もギルドで処理すれば良かったのではないのかの?」

 キイがエーギルにしたように、偽ココノエも世界中のギルド関係者に晒し物にすれば、まあ堂々とは生きられなくなる。普通に暴行事件として役人に捕まった方が余程幸せな人生になるのは間違いない。


「キイ様には残念なお知らせになるのですが、ハバキ様の裁きの方が重くなるのは間違いございません。」

「なんじゃと?」

 顔いっぱいに不満を露わにするキイ。クロウにいつ私刑を加えられるかと怯える日々を過ごすだけでも十分だろうに。


「とはいえエーギルの方は、領主館に対して直接的にも間接的にも危害を加えていませんからね。女王様自ら突き出したのですから減刑は望めませんし、彼はギルドでの処理が一番でしょう。あの黒ハゲはハバキ様の部下である私に暴行を働こうとし、領主館の執事長の名を騙り、殺人を生業とする者だと自供迄しております。」

 最後二つは同じだと思うが。

 しかしローランが言うように、ハバキがギルドより重い罰を課すとしたらどうなるんだろうか。まさかあれくらいで極刑とまでは行かないと思いたいが。

「俺はこれ以上関わって来なければ別にいいんだけどな。」

「罪に対して罰は必要じゃ、どちらにせよその場で放免というわけにもいかんじゃろ。」

 まあそうだな、他人事みたいだけどしっかり罪は償ってくれ。エルフの女王誘拐未遂と領主館への反逆罪。


 外は夕暮れ、何かとごたごたがあった今日だったが、肝心のナギは今日も現れなかった。来るとしたらいつも午前中から昼過ぎまでには来るらしいので、おそらく今日もはずれだ。俺達は夕飯の買い物をして家に帰る事にした。


「食材は何が残っていますか? 出る時に確認し忘れたので。」

「そうじゃな、確か……」

 キイが冷蔵室の中に残った物を思い出しながら、ローランに教えていく。ローランは相槌を打ちながら聞いている。今日の献立を考えているんだろう、ローランは時折顎に手を当て、考える仕草を見せる。

 そういえばハバキと一緒に食べたパンが甘くて美味しかった事を思い出した。

「あの時の甘いジャムみたいな奴、あれは作れないのか?」

「あの時?」

「ほら、ハバキの所から山に向かうときに持たせてくれたやつだよ。あれは美味かった、キイにも食べさせてやりたいんだけど。」

 俺がそう言うと、少し考えてローランはポンと手を叩いた。どうやら思い出してくれたようだ。

「何じゃ、何か珍しい物でも馳走になったのかの?」

「珍しいと言えば珍しいのですが、キイ様はご存知だと思いますよ?」

 キイも興味を示したが、ローランはそれを知っている筈だという。もしかしてあれはエルフ料理だったのだろうか、だとしたら逆に今までキイが俺達に教えなかったのが不思議なのだが。

「む、甘くてジャムのような食感で、アレンもハバキも知らずにワシが知っている物というと……。」

 何故か言葉にどんどん覇気が無くなっていくキイ。見るとローランはにっこりと微笑んでいる。


「な、なんだ、何か変な物食べさせたのか?」

 恐る恐るローランに尋ねても、答えは返ってこない。不安になってキイを見ると、キイも微笑んでいる。但し、憐れむような目をしているが。

「別に変な物ではない、きちんと食用として扱われておるから心配は無用じゃ。ワシは食べるつもりはないがの。」

「ちょっとなんだよ!? 何だったんだあれは?」

「シヴ様は知っておられますかね?」

 俺を無視してキイに聞くローラン。

「どうじゃろうな、シヴならあれを見ても何の躊躇も無く口に入れそうじゃが……。」

「何だよ、教えてくれよ……。」

「滅多に見つからないので、奇跡的にまた見付けたらお教えしますよ。」

「そうじゃな、滅多に食べられないという意味では、お主はかなり貴重な経験をしたのじゃ。」

「気持ち悪いから教えてくれよ。」

「私、食材を買いに行ってまいります。」

 そう言ってローランは俺達の前から姿を消す。

「キイ、おしえ……」

「よし、屋敷まで競争じゃ。」

 今は教える気はないようで、キイも話をはぐらかして走り去ってしまった。

 嫌な予感しかしないが、見付けたら教えると言っていたので諦める事にして、すぐにキイの後を追いかけて俺も走り始めた。

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