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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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メイドが帰ってきました⑦

「ほら、もう塞がってるだろ?」

 キイが消えた後、薬屋の中に戻って休んでいる俺達。

 ローランに傷の塞がった左手をひらひらと見せながら、心配そうにしているエヌの頭を撫でてやる。

「痛みは無いのですか?」

「まだ少し痛いかな、どうも外側から優先して治るみたいなんだよ。」

「おそれながら、その修復の遅さでは不死とは言い難いのでは?」

「いや不死は不死だよ、どれだけバラバラにされてもいつかは治るから。というかこれみたいに、普通の人が受けても死なないような傷だと遅いんだよ。」

 理由は俺にもわからないが、それは死ぬだろ……、って傷を負うと治るのが早い。


「アレンお兄ちゃんすごいね……。」

 エヌが俺の左手をさする。

 天使の種が俺に寄生したら、俺は天使を生み出す事ができるんだろうか。

「安心しました……。それでは私はあの黒ハゲを役人に突き出してまいりますね。」

 偽ココノエは完全に意識を失っていたが、万が一目覚めて逃げられたら面倒なのでと、ローランがスカートから取り出した細い金属の糸で手足を縛って炎天下の中放置してある。

「突き出すって、本当に役人にか?」

「そうです、まさか師匠の所に連れて行くとでも思いましたか?」

「いやいや、まさかだろ?」

 まあそう思ったけど。考えてみれば距離があるから大変だな。


「何て言って連れて行くんだ?」

「勿論強姦魔としてですよ。私が襲われそうになった所をアレン様が助けてくれた、とでも言っておけば後はどうとでもなります。」

「助けてないけど。」

 いいのか虚偽の報告なんかして。

「すぐにハバキ様に報告しますので、領主館からお沙汰が下る筈です。取り敢えず入牢させておけば問題ありません。」

 まあココノエさんを騙ってるのが一番の問題だからなあいつの場合。下手をすれば本当のココノエさんとして本物のココノエさんに始末されかねないぞ。


 ローランが店の脇にあった荷車に偽ココノエを乗せようとしていたので手伝い、運んで行くのを見送った。

「アレンお兄ちゃんは行かなくていいの?」

 エヌはそう言うが、エーギルの仲間が他に居ないとも限らないので誰かが残る方がいい。それはローランもそう思っている筈だ。

「いいんだ、怖い人がまだいるかも知れないだろ?」

 エヌと店の中に戻り、キイとローランの帰りを待つ。


 そう言えばここが薬屋として営業再開するとして……。スノドさんの調合の腕は確からしいが、薬に使う素材なんかを仕入れる余裕はあるんだろうか。近場で手に入る物なら俺が集めて来る事も出来るけど。

「薬の材料ってこの辺でも結構採れるんですか?」

「簡単な物なら作れますが、この辺の物は質が良いとは言えませんでね。昔は息子夫婦がティオまで仕入れに行っていたもんです。」

「ああ、ティオではそんな物も買えるんですね。」

 まあここからなら護衛が無くても、街道を行けば安全に辿り着けるからな。キイが闘技大会の応援に行くならついでにお使いを頼むのもいいかもしれない。

「近いうちに世界樹方面に行くんで、あっちでしか手に入らない物とか、見付けられたら幸運だみたいな材料があれば教えてください。時間に余裕があれば集めておきますよ。」

「まだここを再開するかも決めておりませんのに。」

 そう言うが、スノドさんは嬉しそうだ。流石にエヌが治ったらあんな破格で解毒薬は買わないぞ、再開して貰わなくちゃ困る。


 集められるかは別として、世界樹の周辺にどんな素材があるのかをスノドさんに聞いていると、窓から外を眺めていたエヌが声をあげる。

「あ、キイさん戻って来たよ! ヒルダさんも!」

「返り血で真っ赤とかじゃないだろうな?」

 冗談半分でそう言いながら俺も窓を覗くと、ヒルダさんと並んでキイがこちらに向かってきているのが見える。随分と仲が良さそうだが、こうしてみると確かにどちらも綺麗だな。クロウ達が派閥争いしていたという話も頷ける。


 エヌがお迎えに出て行き、やがて店内に入って来た三人。

「待たせたのじゃ。」

「あなた左手大丈夫?」

 ヒルダさんにも話したらしく、少し心配された。なのでもうとっくに治った左手を見せて、大丈夫だと無言で伝える。ヒルダさんはそれを見て少し眉を寄せた。

「凄いわね……。」

 それだけ言って椅子に座る。まあ実際に見た訳じゃ無いし未だ半信半疑だろうな。


「どこまで連れて行ったんだ?」

「何がじゃ?」

 とぼけるキイ。

「エーギルだよ、役人に渡したのか?」

「いーえ、あれならうちの管轄って事にしたわよ。」

 ヒルダさんが代わりに答えた。うちの管轄? という事はギルドで処理したという事か?

「そんな事できるんですか?」

「出来るも何も、あなたまだクロウの登録消してないわよね?」

 クロウの登録? あれって消さないといけないのか?

「え、何ですかそれ。あれ? キイは?」

「ワシは依頼を出す時に全て済ませたのじゃ。」

 シヴは当然やってるとして、俺だけ何にもしてない状態だったのか……。ていうか言ってくれよ。

「じゃあクロウとして仕事請けられるんですか?」

「それは無理よ、この町に居住してるんだもの。他の町でならまだ請けられるわ。」

 何だよそれ面倒だな……。

「ここで請けたければオウルになるか住民登録を抜く事ね。とにかく、あなたはまだクロウとして登録されているから、クロウに対する強盗事件として今回の件はギルドが動く事になったわ。」


 クロウに対する強盗とは……、随分と捻じ曲げたものだ。最終的に入る場所は同じとはいえ、ギルドが裁くとなると全クロウ、全オウルにエーギルの情報が周知徹底されることになる。つまり世界中に敵を作る事になる訳だが、失恋した逆恨みでナイフ刺したくらいで、ちょっと可哀想な気もするな。

「あなたに何かあるたびに毎回この馬鹿が怒鳴り込んで来るんじゃ堪んないわ、早く登録は抜いてちょうだい。」

 キイはエーギルをギルドまで引き摺って行き、俺はまだクロウの筈だからエーギルに厳罰を与えろと言ってきかなかったらしい。

「す、すいません……。ナインハルトが止めてくれたら良かったんですけど……。」

「マスターは止めるどころか、率先して手続きしてたわ。一億以上も稼いでるクロウを襲うだなんて、ギルドに喧嘩売ってんのと同じよ。勿論あんたがクロウって知ってて襲ったんならだけどね。」


 ヒルダさんは多分話が全部見えてるな、今回のこれが下らない因縁だって事も。

「当然の報いじゃ、ワシの家の者に手を出したのじゃからな。」

 まあキイが王族だって事も考えれば、今頃エーギルの首が飛んでてもおかしくはないんだけど。ナインハルトはその辺の対外的な事も含めて、キイの言う事を聞いてたんじゃないかって気もするな。


「言いたい事言ったらすっきりしたわ。とにかく、私がギルドの職員として伝えに来たのはそれだけよ、エヌの顔も見れたし戻るわね。」

「わざわざすいません、なるべく早く登録は抹消しに行きますから。」

「さっきはむかついてたからああ言ったけど、別に消さなくてもいいのよ? まあ残しててもあまり意味はないけど。」

「じゃあ考えときます……。」

 エヌに手を振ってヒルダさんが帰って行く。綺麗だけど相変わらず怖い人だ……。

 取り敢えずクロウに登録していると何が不利になるか、後で聞いてから抹消しよう。ナインハルトに。

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