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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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メイドが帰ってきました⑤

 俺を睨む男を一瞥して、怪訝な表情でキイが俺に問う。

「何じゃアレンこやつは。知り合いか?」

「てめえ、ローランさんだけじゃなくこんな綺麗なエルフまで……。」

 エルフまで何だよ。よくわからないがキイを見て逆恨みの度合いが更に上がった気がするな。


「アレン様、面倒なのでもういっそ殺してしまいましょうか?」

 冷たい笑顔でローランが言うが、殺すのは駄目だろ。気持ちはわからない事もないが。

「ローランさん、こんな奴より俺の方が上だってすぐに教えてあげますから。」

 キメ顔でローランを見つめる男。仮に俺の方が弱いとしてもキャーカッコイイとはならないと思うんだけどな、アレン様弱わ……、くらいは言いかねないけど。


 スノドさんは何が起きたかよくわからず固まっているし、エヌは怯えて近くにいたキイの後ろに隠れてしまった。

「取り敢えず外には出ようか、エヌ達には迷惑でしかない。」

 そう皆に聞こえるように言った。男にではなく、皆に。というか俺達にとっても迷惑でしかないんだけどな。

「いい度胸じゃね……」

「うるさい。」

 何か俺を褒めてくれようとしてたみたいだが、会話するのも鬱陶しいのでさっさと外に押し出す。

 ローランはまだしもトールさんにも弱いと言わしめたこの男は、俺が少し強めに押しただけであっさりと体勢を崩してふらつきながら外に出る。


 俺が出ると続いてローランも出て来て、後ろ手で戸を閉めた。

「キイ様はエヌと残っております。」

「うん。」

 外にはトールさんから聞いていた通り、禿げてて色が黒くて、自慢の筋肉を見せつける様な服を着た大男が立っていた。うん、間違いなく素手の俺よりは強いな、そいつが腕を組んで俺を睨んでいる。

「こいつなんですよ、俺の女に手を出した奴。」

 俺を指差しながら大男の横に移動する男。小物中の小物って感じだな、何でこんな奴に絡まれなきゃならないんだ……。

「いつ私があなたの女になりました? まさか他でもそうやって吹聴して回っているんじゃないでしょうね?」

 ローランが俺の横に並んでそう言った。声はいつもの感じだし、顔は笑顔。といってもあの仮面みたいな笑顔なんで、多分かなり怒ってるな。


「結構な上玉じゃねえか、俺が貰っちまってもいいか?」

「だ、駄目ですよ! あの中に綺麗なエルフがいましたからそっちにしてください!」

 勝手な事を……。

「エルフはまだ抱いた事ねえな、早く終わらせちまって楽しむとするか。」


「清々しい程の屑ですね、まるで絵に描いたかのように。」

 少し呆れた声が混ざるローランにそう言われて、俺もこいつらなら殺してしまってもいいんじゃないかという気がしてくる。

「町の事を報告してるんだろ? こいつの事は知らなかったのか?」

「ええ、最近町に流れて来たのではないでしょうか。若しくはエーギルがどこかで雇ってきたか。」

 エーギル……? ああ、あの男の名前か。

 しかしどうしたものか、何時間もかけていいなら多分勝てるけど、そうもいかないよな人目もあるし。

「アレン様、どうなさいますか?」

「どうするって何が?」

 解決する方法が他にあるなら是非教えてもらいたいものだ。

「私があの黒ハゲを担当致しますか? それともアレン様が?」

 え、ローランも戦うつもりなのか。うちの大事なメイドに何かあったら困るんだけど……。


 答えずに考えていると、エーギルとかいうのがニヤけながら声をあげる。

「今更謝ってもてめえがボコボコにされるのは変わらねえからな! この人はあの伝説のアサシンだぞ!」

 エーギルに紹介されて不敵な笑みを浮かべる大男。

 伝説のアサシンって一人知り合いにいるんだけど、そこらへんにぽろぽろ落ちてるもんなのか?

「知ってるか?」

「いえ、技は覚えましたけど私はアサシンではありませんから。」

 そっか、そうだった。

「びびっちまったのかあ? てめえの命はすでに終わってんだ、ココノエさんに勝てる奴なんかいねえんだよ!」


「聞いた?」

「ええ、確かに聞きました。」

「そんなに有名だったの? 俺の中では恰好付け過ぎ爺さんって認識なんだけど。」

「ふぶっ! なんですかそれうぷぷぷ。」

 恰好付け過ぎ爺さんがそんなに面白かったのか、軽く吹き出したローラン。

「内緒な、紅茶くれた恩もあるから。それよりあいつ、間違いなく騙ってるよな?」

「そうですね、師匠は五年前に裏の世界から消えました。いつから名乗っているのか知りませんが、本当に死んだと思って名前を利用しているのでしょう。」

 有名人ってやつはこういう被害も受けちゃうんだな、シヴがなるべく名乗らないのはこういうのが湧くかもしれないってのもあるからか。


「しかしこれで正当な理由ができました、師匠の名を騙るような不心得者、弟子の私が見過ごす訳にも参りませんね。」

 嘘つけ、状況が違えばココノエさんにいつ禿げたんですか? とか何とかからかって笑うくらいしかしないだろ。


「怪我はしないよな?」

 力量差を大体把握するくらいの事は出来る筈だ。見た目だけで言えば黒ハゲの方がシヴより強そうに見えるんだけど、シヴには勝てる気がしないって言ってたローランが今は涼しい顔してるし。

「さあ? あれが本物のココノエさんなら命の保証はありませんけど。」

「心配するな、偽物だよ。」

「じゃあ多分大丈夫です、許可をいただけますか?」


 随分余裕がありそうだな、遠慮なく任せるか。

「許可も何も……、俺じゃなくて師弟の絆に関する事だ、好きにするといいよ。」

「ありがとうございます。」


「てめえ! か弱いローランさんを盾に使うなんて人間じゃねえな!」

 一歩歩いて俺の前に立つローランを見てエーギルがわめくが、知ったこっちゃない。ただ、武器が無くても殺す為の技であることは間違いないんだろうし、ぎりぎりで生きてますみたいな状態にされても困るから注意はしておこう。


「潰すとか剥がすとか千切るとかは禁止、折るは二回まで許可するけど、後遺症が出るような場所は不可。いいか?」

「アレン様、いくらなんでもアサシンに対して妄想が過ぎますよ……。」

 え、そういう技だけで構成されてるんじゃないの?


「と、とにかくあんまり派手にやっちゃ駄目だぞ。ローランが怪我するくらいなら殺した方がマシだが。」

「そういう所が好きですよ。」

 そう言ってローランは大男の前につかつかと歩み寄ると、腕を組んだまま馬鹿にした笑みを浮かべている大男の前でスカートをゆっくり捲りあげて行く。


「おいおい最高じゃねえか! 降参代わりに女寄越しやがったぞあいつ!」

「ふざけんな! ローランさんに何やらせてんだ!」

 いや、本当だな、何やってんだローラン。色仕掛け?


 ……と考えたが、そういえばローランが紙とペンをスカートの中から取り出した事を思い出す。身体中に武器がびっしり隠してあるとキイが言ってたな、屋敷の移動の時には仕事道具を全て持ち運ぶってのはローランが言ってた。そして今日はうちの屋敷に戻ってきた初日、つまりあのスカートの中は……。


「降参なんかしませんよ?」

 そうローランが言うと、辺りが小さな爆発音と同時に黒煙に包まれた。

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