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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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メイドが帰ってきました④

「ローランお姉ちゃん!」


 短剣を受け取った後、ローランに火龍の牙を見せたり、ドルフ達や火龍との事、トールさんが馬の餌やりを忘れていた事等を話した。その後、綺麗になった薬屋を見に行こうという流れになり今に至る。

 闘技大会の事はローランは知っていたのだが、俺達も当然知っているだろうと思っていたらしく、何故か驚いていた。驚いたと言ってもすでにハバキ領から出場する者は決まっているので、どちらにせよどうでもいい話でしたね、とすぐにその話は終わった。


「エヌ、お友達が増えたんだって?」

 ローランはスノドさんに会釈をしながら、優しくエヌの頭を撫でる。

「うん! アレンお兄ちゃんにキイさん! それとヒルダさん!」

「そう、良かった。この髪はどうしたの?」

「これはね! ヒルダさんが付けてくれたんだよ!」

 エヌはローランに一度後頭部を向けると、すぐにまた振り返ってはにかみ白い歯を見せる。

「うん、綺麗に隠れてる。こんな物があるのね。」


 かつらは一部の貴族や芸術家が使っているから何となく知ってはいるが、つけ毛という物は俺も知らなかった。ヒルダさんがクロウだった頃にどこかの地方の町で見付けた物らしいが、俺達の旅では見た事が無い。

「その状態だとどうしても膨らんでるのが分かるんだけど、外に出る時は大きめの髪飾りで隠してるからそこまで目立たないんだよ。」

 フードなんか被らなくても一緒に外出しているという事をローランに伝えてやると、それを聞いていたエヌは髪飾りが沢山入った箱を持って来てローランに見せる。

「ほらこんなにたくさん! 可愛いでしょ!」

「うん、可愛いわね。どれがエヌのお気に入りなの?」

 ローランは膝を折り目線をエヌに合わせると、箱の中の髪飾り達を指差した。


「え、えーとね……。それは……。」

 何故かばつの悪そうな態度に変わり、悩んでいるエヌ。

「どうしたのじゃ? その白い花のやつじゃろう? まさか妙な形の羽根の奴ではないじゃろうな?」

 キイが箱の端の方にある白い大きな花を模した髪飾りを指差した。これは一昨日ここに来る時にキイがお土産で買って来たやつだな。自分だけ手ぶらというのも嫌だったから、俺もその時に一応買ってはみたんだが……、小さな女の子どころか大きな女の子が喜ぶ物もわからないので、鳥の羽根が綺麗だったという理由だけで何かフワフワした羽根飾りにしてみた。キイが言ってるのはまさしくそれの事だ。


「あら、この羽根のやつ、私は可愛いと思いますよ?」

 ローランがそれを取り出し、掲げて見上げている。嬉しい事を言ってくれるな。

「うん、それは可愛いよ! でもね、一番はこれなの……。」

 そう言ってエヌが取り出したのは銀色の布に血のように真っ赤な花。その付け根からは細く小さな鎖が垂れ下がっており、金属の網を葉の形に模した物が取り付けられている。


「あ、それってヒルダさんが持って来たやつじゃないか。」

 昼の休憩時間にギルドを抜け出してわざわざ様子を見に来ていたヒルダさん。口実としてなのか本当に渡したかったのか、それともその両方なのかはわからないが、その時にエヌに渡していたのは確かに見覚えがある。

「おのれあやつめ……、ワシの方が先にエヌと友達になったというのに……。」

 よくわからない対抗心を滲ませキイが独り言ちる。

 キイと俺が悲しむと思って答え難そうにしていたんだな、かといって嘘もつきたくないから歯切れが悪かったんだろう。


「エヌは可愛いのより格好良いのが好きなのね。」

「うん!」

 ローランがエヌから箱を受け取り、手に持った羽根飾りを箱にしまいながら微笑んだ。

 箱を返すと立ち上がり、ゆっくりと中を見回す。


「確かに見違えましたね、これを見たら以前のここを知る方は驚くでしょう。」

「そうだろ? 古い棚なんかは買いかえればいつでも営業再開できるよ。」

 ローランはそれを聞くと俺とキイの方を向き、深いお辞儀をした。

「アレン様、キイ様、感謝の言葉もございません。」

「いいんだよ、乗りかかった船だし。それにエヌは友達だからな。」

「お主それではスノドの面目がないのではないか?」

 言われてみれば確かに。スノドさんの店だったここ。

「いえいえ、孫の為にと動いてくださる皆様に文句などあろうはずがございませんよ。」

 スノドさんはそう言いながら飲み物を差し出してくれた。


 俺達はそれぞれ思い思いの場所に腰掛け、それからしばらくは飲み物を片手に他愛もない談笑を楽しんでいた。

 しかし急にローランが出入り口の扉を凝視し、不機嫌な顔になる。

「どうしたんだ?」

「来ますね。」

 来る? まさかナギだろうか? 往診に訪れるかも知れないと思い毎日ここには来ていたが、結局現れなかったナギが今日こそ現れるのか? 余計な事を言って勘付かれてはまずい、冷静になっておかないとな。


 そう思い俺が深呼吸をして落ち着いていると、突然扉が開いて、見た事のある人間が顔を覗かせる。

「探したぜてめえ!」

 見た事のある顔と言えば見た事のある顔なんだが、幸か不幸かそれはナギではなく、ローランに恋心を抱く例のあの男だった。

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