色々手続きします①
ゆっくりゆっくりと街を歩き、宿に戻るころにはキイも少しずつ自分を取り戻していた。
「酷い目にあったのう……。」
「今までは噂であの恥ずかしい名詞を聞くだけだけだったからな、シヴがちゃんと戻ってくるといいけど。」
バカ王から直接聞いたとか言ってたなナインハルト、一応名前は伏せる約束だけは守ってるみたいだが……。
荷物を部屋に置いて食堂に行くと、タークスさんが笑顔で迎えてくれた。
「お待ちしておりました。」
「思ってたより早かったですね、お待たせしちゃってすいません。」
「いえいえ、今来たばかりですよ。丁度よかったです。」
タバコの吸い殻十本くらいあるんですけど……。随分待たせたみたいだな。
「早速で申し訳ないのですが、こちらが契約書となっております。」
「未だお金払ってないのに契約書が先でいいんですか?」
「先程ギルドの方がみえられまして、キイ様だけでなくアレン様も国王様のお知り合いだとの事で。お連れのシヴ様はオウルになられるというのも伺っております。何の問題もないでしょう。」
「そうですか、他には何か聞きましたか?」
キイが固まったのが視界の隅に見えた。
「? いえ、他には何も? 最初にお教えいただければもっと別の方法もあったでしょうに、お伏せになるなんてお人が悪い。」
「わざわざ言う事でもないと思ってたんで、すいません。」
ナインハルトは他言無用を守ってくれているようだな、今のところは。
「いえいえ、あの名君と謳われる王のお知り合いの方と取引させていただけるなんて光栄です。」
名君、名君ねえ、まあそうかもしれないけど。
「そうですか、できればこちらはあまり知り合いにはなりたくなかったんですけどねあの人とは……。
あ、お金はギルドから受け取っていない残高がありますので、そこから支払いという形にしたいのですが。」
「クロウをされていたと聞いていたのでそうかもしれないと思い、一応書類を用意してございますよ。」
タークスさんは代理請求権利書を取り出してテーブルに広げた。
クロウはすぐに報酬を受け取ってその日暮らしをする者が多いが、大量の現金を持ち歩く事になる為、クロウ狩りを考える悪人もいる。報酬が金銭の場合のみ、ギルドからの報酬受け取りを保留することができるシステムがあり、数少ない【魔法を使える者】の手で作られたカードで管理されている。
魔族には魔法を使える者が(人間よりは)多いからか、最近は魔族が人間の世界で働くには手っ取り早い就職先になっているようだ。
カードには魔法で持ち主との紐付けが行われており、どこのギルドでも使用が可能だが、他人が使う事は出来ない。
「これが代理請求権利書ですか、初めて見ました。」
「私共ではあまり使う物ではありませんからね、これも倉庫から引っ張り出して来た最後の一枚でございますよ。」
本人以外が報酬の受け取りをする際には、魔力の込められたこの紙を使わなければならない。
どこのギルドも常に現金を大量に置いている訳ではないので、大金だと卸してハイ! という訳にもいかず、これにサインしておけばあとは請求者とギルドとのやり取りで、こちらの煩わしさは無くなるのだ。まあこれが一番使われるのは借金の取り立てなのだが。
「では、こちらとこちらに、署名と血判をお願いします。」
「そうだった……、これ血判でしたね……。」
「はい、申し訳ございませんが……。」
紐付けされた情報を呼び出すのに血を使うので血判となっている訳だが、痛いのは嫌だなあ。