火山の麓⑦♦
火龍は先程掘った垂直の穴の前に着地すると、ここに来るまでに見付けて拾って来た巨大な岩を、穴の横に置いた。
シヴは膝を曲げて穴を覗き込み、そのままの姿勢で火龍に尋ねる。
「この先にあんのか?」
「ええ、水没してる状況なんだけど大丈夫かしら?」
「構やしねーよ、薙ぐ訳じゃねーからな。」
そう言うとシヴは剣を握り、穴の中に飛び込んだ。火龍もすぐに後を追う。
穴の中を落ちて行くと途中に水面があり、落下の勢いを吸収してくれる。
(ここからは泳ぎか。)
そう思ってシヴが頭を下に向けるとそれを見た火龍が、尻尾と脚で自身を支え、シヴの脚を目一杯の力で押し出す。
(くそ! 先に言っとけや!)
火龍に全力で飛ばされ水中を猛スピードで進むシヴは、打ち合わせも無く行われたこれに一瞬戸惑ったが、すぐに対応して冷静になる。
速度が緩やかになった辺りで、視界にそれらしい壁が見えた。
(あー、確かにこりゃ金剛石だな。)
金剛石の前に立ち、触って確かめる。火龍からの情報でマグマまでの距離は大体だが把握しているが、そこまで一塊なのか、それとも何枚かあるのかというのはわかっていない。
火龍もシヴに追いついて、破壊できそうかと身振りで伝える。
(予想よりでけーがなんとか何だろ。)
腕を曲げ、その肩を叩いて任せておけとでも言った顔を見せたシヴは、愛剣の切っ先を金剛石に付けると精神を集中させた。
左足を前に出して腰を落とし、ゆっくりと剣を引いて溜めを作る。
右足に力が伝わり、腰の回転と同時に右腕を伸ばすと、見事シヴの愛剣は金剛石に突き刺さった。
(こいつは薄くねーな、次はもうちっと強めにいくか。)
手応えからおそらく、この金剛石はマグマまで繋がっている固まりだろうと推察したシヴは、刺さった剣を抜くともう一度先程と同じ構えを取る。
構えは同じだが先と違う点は、金剛石との距離だった。
(随分近いわね~、あれ力入るのかしら?)
今のシヴの位置で同じ事をやれば、一番力が加わる状態になるまえに、剣は金剛石とぶつかる事になる。
しかし実際に目の前で、自分では歯が立たない忌々しいこの壁に剣を突き通したのは事実、任せる他はないだろう。火龍はそう思い、次に来る自分の仕事に集中して静観する。
何度も繰り返し削っていく手もあるのだが、シヴはそれを面倒臭がる。先程開けた小さな穴はこの金剛石のへそ、幼い頃父親に厳しく何度も何度も教え込まれた技。
(どんな硬てぇもんにも……、必ず!)
シヴは剣を逆手に持ち変えると右足への力の伝達を最大限に、一瞬反った腰を捻りながら左足を金剛石に当て、先程の小さな穴に寸分違わず愛剣の切っ先を突き込む。
勢いは衰えず、更に加速しながらその刀身をめり込ませ、巨大な剣のその殆どが視界から消えたところで止まったが、まだ突き抜けた訳ではない。
(あの剣の長さでも向こう側までは届かないものね……。)
物理的に突き抜ける事は不可能だとわかっているが、そこまで穿てれば後は自分の爪でもどうにかなるかもしれない。火龍はそう考えていたが、すぐにシヴを甘く見ていたと思い知る事になる。
シヴは剣を引き抜くと、慌てて火龍の方を見て早く非難させろと手振りをするが、火龍は息継ぎでもしたいのかとシヴを見つめているだけ。
(こいつ! 殺す気かよ!!)
火龍が動かないのでシヴは上に向かって泳ぎ始めた。火龍はゆっくりとシヴの後を追おうとして、ふと金剛石に目をやると、シヴが剣を引き抜いた穴から少しずつヒビが広がり始めている事に気付く。
(うそでしょ!? まさか!)
火龍は地面を蹴り、弾丸のように水中を空に向かって突き進む。途中シヴに追いつき追い越すと、シヴは予定通り火龍の尾を掴んでそのまま地上まで一気に飛び出した。
「岩ぁっ!」
シヴの声と同時に火龍が岩で穴を塞ぐ。
金剛石のヒビはその後もどんどんと広がり、火龍とシヴが地上に飛び出したのと同時に、決壊寸前まで来ていた金剛石はマグマの圧力に耐えきれず砕けた。