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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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火山の麓⑥♦

 翌日、早朝から火龍はまた火山に向かい、昨日の作業の続きを始めた。

 四人は集落で待機しており、陽が真上に昇り切る頃、シヴは火龍の住む山で起きた事をドルフの口から聞いていた。

「……という訳で、アレンに会っていなければ俺達は今頃、あの偽の巣穴で死んでいたかも知れないんだ。」

「ほーん、あいつも中々やるじゃねーか。」

 シヴは素振りをしながら満足そうにする。


「昨日の残りを使って作りました、シヴさんもどうぞ?」

 ノノが昼食を用意してシヴにも声を掛ける。

「ああ、遠慮なくいただくぜ。」

 そう言うとシヴは素振りをやめ、昨晩と同じ場所に座り椀を受け取った。



 時を同じくして火山の内部では、予定通り掘り進めていた火龍がついに恐れていた事態に直面してしまう。

(もう少しなんだけどな~……。)

 ついに金剛石の塊にぶつかってしまったので迂回を試みたものの、かなりの大きさである事がわかった。これを避けると今度は湖の中に穴を繋げることが難しくなってしまう。

 昨晩はシヴの手を借りるかもしれないとは言ったが、出来ればそれは避けたかったのが本音であった。


(仕方無いわね~……。)

 火龍は湖に向かうと、今度は水中から先程の巨大金剛石目指して掘り始める。数刻かけてそこまで辿り着くと、今度はそこから真上に穴を伸ばし始めた。


 地上まで伸びた穴から火龍が顔を出し、夕日を背に集落へと戻ると、相も変わらず畏まって自分の帰りを待つ獣人の王と王妃が目に入る。

「ただいま~。」

 火龍は二人の前に降りると、シヴとピーニャの姿を探すが見当たらないので、不思議に思い二人に尋ねる。

「あの二人はどこかしら?」

「ピーニャなら狩りに行った、いずれ戻るだろう。シヴならそこの家で寝ている。」

「緊張感ないわね~……。」

 ドルフが指差した家の入り口を眺めながら腰に手を当てる火龍。

 緊張感を感じられないのは火龍もそうなのだが、ドルフは言葉を飲み込んだ。


「シヴを探して戻ってきたという事は、やはり順調にはいかなかったんだな?」

「そうね、そういう事……。昨日話した通り、シヴ君に斬ってもらうしかないみたい。」

「シヴが居なかったらどうするつもりだったんだ?」

 シヴが金剛石を斬れると言うので、シヴありきの作戦で進めてはいるだけなのだが、この場に居合わせたのは偶然でしかない。

 もしいなかったとしたら別の案があった筈だが、そちらでは駄目なのか。ドルフはそう言いたかった。

「シヴ君が居なかったら噴火させてるわよ、火口を大きく削って湖の方へ流れるようにね。」

「ではそうすればシヴが危険な思いをする必要もないのではないか?」


 シヴをマグマに入れるつもりかとドルフに言われた火龍から、昨晩聞いた提案はこうだ。

 途中で金剛石に突き当たれば、逆方向から金剛石迄掘り進めてみる。

 いくつもあれば話はまた変わるのだが、運よく金剛石を挟んだ状態で穴が繋がれば、シヴが金剛石を破壊、すぐに火龍がシヴを安全な場所まで移動させる。

 実際火龍の判断が遅れても、火龍がマグマでどうにかなる事はないが、シヴは間違いなく死ぬ。ドルフはそこに恐怖を抱いていた。


「噴火させた上で、その後の被害を抑えるのはそんなに難しい事でもないんだけど、噴火の時の被害はどうにもできないのよ。」

 流れ出る溶岩が元で起こる災害は食い止められる。つまりこの集落が飲み込まれる事態は避けられる。

 しかし噴火の際の爆発がどれほどの物か想像がつかない以上、溶岩だけに気を遣えばいいという訳ではない。

「しかしだな、シヴとこの集落は何の関係もないのだ、やるなら私が……」

「お前さんにゃ斬れねーよ、コツがあるんだ。」

 欠伸をしながらシヴが家から出て来る。ドルフが何かを言おうとしたが、シヴはそれを手で制した。


「火龍のねーちゃん、待たせちまったな。エルフのとこで多少は飲んだが、昨日は深酒もしてねーし絶好調だぜ。」

「聞いてたんならわかるでしょうけど、やめると言っても誰も止めないし、多分恨まれることもないわよ~?」

「逆だろ、今更止めやがったら俺はそいつをぶん殴るぜ。」

 火龍を見ながら言ってはいるが、間違いなくシヴのその言葉はドルフとノノに向けられた物だった。

「流石ね~、聞いてた通り。」

 火龍はシヴに近付いて、尻尾をシヴの前に伸ばす。

「……? どうしろってんだ?」

 目の前の尻尾を見ながら顎に手を当てるシヴ。

 ドルフとノノは、何も言えずに見ているしか出来なかった。


「すぐに向かうから、尻尾に掴まって貰えるかしら?」

「ああ、そういう事か。背中に乗ったりは出来無さそうだもんな。」

「あら、アレン君より物分かりがいいのね~。」

「一緒にすんな。」

 シヴが火龍の尾を掴んだと同時に、まるで落下しているのかと思える速さで火龍が空へ消える。

 集落には無事を願いながら、自分たちの不甲斐無さに歯ぎしりを立てる獣人の夫婦が残された。

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