火山の麓④♦
「誰かいるのかー?」
人が住んでいる気配は感じないが、誰かが居るのは間違いない。他意はなく、純粋に興味本位だけで集落に足を踏み入れるシヴ。
「この集落の客だろうか、避難した事を知らずに来てしまったのかもしれんな。」
ドルフが腰を上げ、シヴの元へ向かう。
「私は隠れてるわね。」
姿を変えるのも面倒なので火龍は身を隠した。
シヴとドルフがお互いを視界に捉え、手をあげて挨拶をし距離を縮める。一応警戒はしているが、両者共自分の腕には自信がある為、素性を先に検めるような無粋な真似はしない。
「ようこそ、この集落に用向きだろうか。」
先に口を開いたのはドルフだった。
「いや、用があるって訳でもねーんだけどよ。廃集落みたいなのに人がいんだなって思ってな。」
「そうか。実はそこの山がもうじき噴火しそうでな、私が避難させたのだ。廃集落となった訳ではないから、荒らしに来たのなら立ち去った方が身の為だぞ。」
「あ?」
ムパシ山を指差しながらのシヴを火事場泥棒とでも言いたげなドルフの棘のある言葉に、少し苛立ちを見せるシヴ。ドルフ自体は、火龍に迷惑をかけてはいけないという思いで早く追い出したいだけだったのだが、これが逆効果となってしまう。
「じゃあ何でお前さんはここにいんだよ、ここと一緒に死のうって腹か?」
「そうではないが、それをお前に話す義理も無い。見た所行商人のようだが、ここで商売は不可能だと言っている。」
シヴが大きな風呂敷を首に巻いている姿を見て商人だと判断したドルフは、先程の威圧で退かないシヴにそう説明しなおした。
「へっ、俺が商人とはな。無理もねーが笑っちまうぜ。」
「いいから早く立ち去れ、旅人は迎え入れてやりたいが今は無理だ。」
「わーったよ、邪魔したな。」
そう言ってシヴが元来た道を引き返し始めた時、二人の声を聞いて目覚めたピーニャが、家から姿を現した。ピーニャは目を擦りながら二人に近付くと、シヴを見て笑顔になる。
「あ、トールの友達にゃ!」
「何?」
「よう。」
ただの胡散臭い行商人かと思えば、娘の恩人の友人であるという。ピーニャとシヴは直接話はしていないが、町で何度か会っているのでお互いの顔はわかる。
「何してんだこんな所で?」
「パパとママが迎えに来たにゃ。」
「んん? って事はあれがお前さんの親父か?」
「そうにゃよ。」
「確かお前さんの親父は王様じゃなかったか?」
「そうにゃよ。」
シヴは振り返りドルフを見る。ドルフもじっとシヴを見つめていた。
「何だよ王様ならそう言えよ。」
知らずに殴ってたかもしんねーだろ、シヴは次いでそう言い掛けたが言葉を飲み込んだ。
「すまんな、娘の知り合いだとは思わなかったものでな。」
こうなってしまっては無下に追い返す訳にもいかなくなり、どうやって火龍の存在を隠すか、ドルフは平静を装いながらそればかりを考えていた。
「腹が減っているのなら食事位は出そう、ここで待って欲しい。」
「いや、さっき食ったから腹は減ってねーけどよ。お前さん達本当にここで死ぬつもりじゃねーだろうな?」
「火山の事なら心配いらない、噴火すると言うのは嘘だからな。」
「嘘? じゃあ何でここにはお前さん達以外居ねーんだ?」
「それは……。」
「火龍さんが助けてくれるらしいにゃよ。」
ドルフが説明しあぐねていると、ピーニャが答えてしまった。
「火龍……? ってあの千年クラスの火龍の事か?」
「何の事を言っているかわからないな、とにかくこの集落には何もないから、早く出て行ってくれ。」
食事が要らないと言うのなら、これ以上余計な情報を与えずに追い出す事が正解だと判断するドルフだったが、次のピーニャの一言で驚く事になる。
「アレンは一緒に来ていないのかにゃ?」
トールの友人だと思っていたが、まさかアレンとも繋がりがある、それも一緒に来ていないのかという口振りから親しいという事がうかがえる。
「ああ、あいつは今回の仕事と関係ねーからな。それこそ火龍に会いに行ってる筈だぜ?」
「待て、今何と言った? アレンが火龍に会いに行った事を知っているのか?」
そこまで知る目の前のこの男は一体何者なのだろうかと興味を持つドルフ。
「知ってるも何も一緒に住んでるからな、これに会った時にキイからお前さん達の事も聞いてるよ。」
ピーニャを指差してそう言うシヴに対して、火龍の存在を隠す必要がないとわかったドルフは手を伸ばし握手を求める。
「すまない、全て話そう。」
「ん? お、おう。」
よく理解できないまま急に態度が変わったドルフに困惑しつつ、シヴはその手を握り返した。