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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
123/209

火山の麓③♦

 辺りが茜色に染まる頃、ドルフ達親子は集落に戻った。眠気を訴えるピーニャを入り口近くの家で休ませ、夫婦は獲物を料理しながら火龍の帰りを待つ事にする。

 出来た料理からピーニャの分を取り分けノノが運ぶと、ピーニャはすでに深い眠りに落ちていた。


「どうだった?」

 料理をピーニャの傍に置いて戻ってきたノノに、ドルフが聞く。

「寝たわ。少し無理をさせたわね。」

「そうだな……。」

 二人は黙って作業に戻る。



 夕日がほぼ沈み夜が訪れ始めると、予定の四割程を掘り終えた火龍が火口から顔を出す。縁に立って身体に付いたマグマを出来るだけ落とすと、大きな鳴き声をあげながら上空へ。空から湖に飛び込んで残ったマグマを冷やした。



「今のは火龍の声だな。」

「そうね、帰るという合図かしら?」

「きっとそうだ。さあ、準備を終わらせよう。」

 何も手伝えないのなら、せめて火龍には快適になってもらおうと二人は寝床を用意する。集落内を走り回り何度も往復してかき集めた藁を敷き詰め、虫が嫌う草を散らした。それが終わると二人は地面に座り、火龍の帰りを静かに待つ。



 二人の予想通り、帰還を示唆する為の火龍の咆哮だが、それを聞いた者がもう一人居る。エルフの国から大きな荷物を抱えて走る中年の剣士、シヴだ。

(聞いた事のねー鳴き声だな、それも馬鹿でけえ。)

 シヴはキイの予想通り、整備された街道を走っていた。


 エルフの国から自分の町まで直線で結ぶとムパシ山を通る事は無くなるのだが、そうするとピーニャが火山鳥を獲った巨大な森を突き抜けなければならないので、荷物の安全を第一に考える今の状況では迂回を余儀なくされる。

 街道は森を避けムパシ山の麓へ伸びており、当然シヴもそちらへ向かっていた。

(相手にもよるが……、この状況で襲われるのは勘弁願いたいぜ。)

 平時なら気にもしないが、魔物の強さによっては非常に厄介な事になる。シヴは祈りながら街道を走った。



 湖で火成岩を取り除いた火龍は再び空へ舞い上がると、ドルフ達の待つ集落へ戻り、二人の姿を確認して近くに着地する。

「ただいま~、上手くいきそうよ~。」

「本当か? 有難い!」

「ここは助かるのね……。」

 火龍からの良い知らせに二人は喜ぶ。

「でも一つだけ問題があるのよね~……。」

 不安を煽る火龍の一言でドルフ達の表情が曇った。

「……それは失敗も考え得る程の問題なのだろうか?」

 少し考えた後、火龍は地面に座りながらドルフの質問に答える。

「私にも壊せない岩というのがあるのよねえ……。」

「その岩が埋まっている……と?」

「それはまだわからないわ。ただ、小さな物だけど少しずつ混ざってるのよね……。」

「それを避けて通る事は出来ないのか?」

 壊せないのなら迂回すればいいだけなのではないか、そうドルフは問う。

「そうね~、規模と埋まり方次第ね。湖に繋がらなければ意味が無いから。」

「だから運が絡むと言っていたのだな。」

 ドルフとノノは腕を組んで、その火龍に壊せない岩という物が存在しない事を天に願った。


「わからない事を今考えていても仕方ありません、火龍さんお腹が空いたでしょう?」

 ノノは暗くならないように、努めて明るく振舞おうとする。

 火龍はノノの用意した料理を受け取り、口に運んだ。

「あら美味しいわね~、あなた達が火山鳥って呼んでるあれの肉ねこれ?」

「わかるのですね、娘が捕まえたんですよ。」

「そういえば娘さんは町に置いて来たのかしら?」

 火龍はドルフ達が娘を迎えに町に行くと言っていた事を思い出した。

「いや、実は向こうの家で寝ているんだ。」

 ドルフはバツが悪そうに答える。

「あら~、じゃあ朝紹介してくれれば良かったのに。」

「いや、それはそうなんだが……。」

「娘はまだまだ子供なので、火龍さんに失礼があってはいけないと思ったので。」

 どう答えればいいのか考えているドルフに、ノノが横から助け舟を出す。正直に伝えればいい、そうドルフは言われた気がした。


「そうなんだ、竜すら見た事の無い娘だ、魔物と勘違いして突然襲い掛かりかねないと思ったのだ。」

「う~ん、そういえばこの恰好じゃそうかもしれないわね~……。」

 火龍が腕を広げて自分の体を見て納得していると、突然集落の入り口の方から人の声が聞こえてくる。

 三人は一斉に声のする方を見た。


 声の犯人はシヴ。

 灯りの無い集落から料理の匂いがする不自然さが気になって寄った、それだけの事だった。

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