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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
121/209

火山の麓①♦

 キイとアレンがエヌの元へ訪れ店内の清掃を始めた同じ頃、獣人の願いを聞き入れ、集落を救う事を目的に、西の山から火龍が飛び立った。

 高速で飛行する火龍は、人では不可能な時間で目的地へと降り立つ。

 ムパシ山の麓に位置する獣人の集落の一つ、すでに非難は終えており誰も住人はいない。火龍は集落からムパシ山の火口を見る。

(この位置だと間違いなく飲まれるわね~。)

 そう予想しながら、持って来た食料をその場に置いた。


 噴火の規模は現在不明。だが、千年生きる火龍にはこの山が噴火した時の記憶がある。

 それはもう500年以上も前。その時は大きな爆発こそなかったが、低い山から流れ出る溶岩に一帯は焼け野原となった。

(まずは火口を確認しておかないと。)

 火龍は大地を踏みしめ空に飛びあがると、すぐに火口近くまで移動する。

 そうして火口の縁に立ち、溜まったマグマを見下ろした。

(あと三日もすれば……、ってところかしらね~。)


 以前見た時より随分と高い位置にマグマが上がって来ており、獣人達の心配通り、噴火が近いと火龍も判断した。

(逆方向に流すだけなら簡単なんだけど、このままだと爆発も強そうね~……。)

 溜まりきった水蒸気の爆発の規模までは流石にわからない。が、溶岩の流れる方向を整えてやるだけでどうにかできるという状況ではなさそうだと、火龍は考えていた案を一つ消した。

 それと同時に、そのまま何の躊躇もなく火口に身を投げる。


 それから数時間に渡り、周囲の壁を触って確かめながらマグマの中を潜航を続け、やがて大きなマグマ溜まりを見付けた火龍は、潜るのをやめその場に留まった。

(この辺なら何とかなるかもしれないわね~……。)

 壁に手を触れさせたまま今度は横方向に移動して規模と方角を確かめていく。

 視覚はないので、触覚を頼りに頭の中でこの場所の形を描いていた。


 やがてこのマグマ溜まりの把握を終えると、今度はゆっくりと火口に向かって上がり始める。

 再び火口付近に戻ってきた火龍は、マグマを身体から滴らせながら壁を登り、縁へと腰掛けた。


 暫くそこで火口を見ながら過ごした火龍は、身体に付いたマグマが冷えて落ちなくなった事を確認すると立ち上がり、翼を広げて飛び立つ。

 そうしてまた獣人の集落に舞い戻り、集落の中央にある集会場のようなところで横になった。


(結構時間かかっちゃったわね、続きは明日にしましょう。)

 来た時に置いた食料を尻尾で拾い、口に入れる火龍。

 喉を鳴らして飲み込むと、丸くなって目を閉じた。




 時折揺れる大地等気にもせず、翌朝までゆっくり睡眠を取った火龍は、自分を照らす朝日で目を覚ます。

 所々固まった火成岩が付いているが、赤い鱗が光を反射し、神々しく美しい龍の姿がそこにあった。

(よく寝たわ~。)

 火龍が立ち上がり伸びをしていると、背後から声をかけてくる者が居る。

 ムパシ山へ向けて走り続けた獣人の王と王妃、ドルフとノノだった。

「遅くなった、俺達が頼んだ事なのにすまない。」

「早い方だと思うわよ~? 疲れたでしょう?」

 火龍は顔だけ振り向いて二人を見る。

 ドルフとノノは本来の火龍を見るのは初めてだが、宝石のように赤く輝くその姿に、恐怖心等は露程も抱く事はなかった。


「早速で悪いのだが、状況はどうだろうか。」

 ドルフは縋る様な眼差しで火龍を見る。

「心配通りよ、噴火は多分近いわね~。」

「やはりそうか……。止める事は可能だろうか?」

「普通は無理ね。」

 火龍はそう言って身体ごと振り返る。

 ドルフとノノの顔に悲壮感が漂うが、すぐに火龍は言葉を続けた。

「私は普通じゃないからできるんだけどね。」

 火龍としては笑顔で冗談を言って和ませようとしたつもりなのだが、今は本来の姿をさらけ出している。その爬虫類然とした顔に表情はない。


「……すまない、もしや冗談なのだろうか?」

「え? あっ。」

 そう言われて火龍もようやく自分が姿を変えていない事を思い出す。

 アレンと会った時のように、すぐに姿を消してもう一度現れ直そうかとも考えたが、思いとどまった。

「えーっと、ごめんなさい。この恰好なの忘れていたわ。」

「いや、いいんだ。こちらこそ変な事を言ってすまない。」

「……。」

「…………。」


 気まずい空気がその場を支配し始めた頃、静観していたノノが口を開いた。

「取り敢えず食事の用意を致します、火龍様にいただいた魚のお礼はさせていただきませんと。」

「そ、そうだな、そうしてくれノノ。」

「え、ええ、遠慮なくいただくわね~。」

 住人の避難は終わっているが、運べる物には限りがある。

 獣人は狩りをして暮らすので、保存食をわざわざ運ぶ事無く放置されている家も多い。

 ここが助かった後、住人には説明するつもりでその備蓄を借りようとノノは考えていた。

 懸命に取り繕う火龍とドルフを少し微笑えましく思いながら、ノノは近くの家に消えて行った。


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