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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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獣人は帰りました

 食事を終えてドルフ達三人を見送った後、トールさんがティオの町への行き方を聞いて来たので一応場所だけは教えた。

 というかあんなに有名な町を知らないのか、商人のお兄さんが居るだろうに。

「ピーニャが心配かの?」

「そりゃそうっすよ、女の子っすからね。」

 まあ気持ちはわかるが、獣人の王様が自分と同じくらい強いって言ったんだし、いざとなれば観客席からでも止めに入るだろう。

 殺意剥き出しで闘ってるような感じの大会でもなかったしな、前行った時は。

「本当に腕試しに来ただけって感じの人も多かったし、事故でも殺しちゃったら失格なんで大丈夫だと思いますよ。」

「だといいんすけど……。」

 普通に応援しに行くのを止めるつもりはないけどな、どうせなら楽しめばいいのに。


「お二人は行かないんすか?」

「う~ん……、俺はあんまり興味が無いってのが正直なところなんだけど、知り合いが出るとなるとなあ。」

 そう言ってキイを見ると、キイも悩んでいるのが見て取れた。

「ワシもアレンと同じじゃが、エルフが出ると確認が取れたら行かない訳にも行かなそうじゃな。」

 そうだよな、知らなかったなら仕方ないが、知ってしまったら薄情な事はできないよな。


 三人並んで闘技大会の話をしながら歩いていたが、噴水広場に差し掛かるとトールさんが何か思い出したように立ち止まった。

「どうかしました?」

「いや、馬に餌あげるの忘れてたっす……。自分はここで失礼します、これローランには内緒で頼むっす!」

 そう言ってトールさんは旧事務所の方に駆けて行った。


「内緒で……、って。」

「怒られるんじゃろうなきっと。」

「…………ぷっ」

「ふふ、想像してしまったのかお主?」

「キイもだろ、ニヤけてるぞ。」

「大の男が馬の餌やりを忘れただけでメイドに怒られておるところを思い浮かべるとの……。」

「だよな。」

 ケラケラと笑いながら、二人になった俺達は家を目指す。



「それで、さっきの話だけどさ。」

 込み上げて来る笑いも収まったので、話の続きをしようと思ってキイに話しかけた。

「ん? 何じゃ。」

 キイはまだ少しニヤけているが、まあいい。


「興味なんか持たないだろうけど、シヴだけ置いて行くのも何か悪い気がする。」

「うむ、それはそうじゃな……。そういえばシヴは今どの辺じゃろうな。」

「俺はしばらく会ってない気がするけど、いつ出発したんだ?」

「お主がハバキの屋敷に向かった日の夜じゃよ。」

 夜って事はハバキの馬で屋敷から出たくらいかな?

「二日で着くって自分で言ってたからな、言った通りなら明日の夜には着くんじゃないか?」

「要らぬ心配じゃとは思うが、無事に着くといいの。」

「シヴだし大抵の事は平気だとは思うけど。」

 呑気に構えていても大丈夫って思うくらいにはキイだって信頼してる筈だ。


「しかしお主達の話ではムパシ山が噴火するかも知れんのじゃろ?」

「うん、でも火龍がなんとかするって約束してくれたし、助けが欲しいみたいな事は言われてないから信じて待つしか出来ないんだよな。」

「ここからじゃとムパシ山はエルフの国と同じ方角なのじゃよ。」


 そうだったのか、そういえば山の場所は聞いてなかったな。

 でも方角で言えば同じってだけで、多分位置的にはかなり離れてる筈だ、キイが焦ってないから万一噴火したとしてもエルフの国に被害が及ばないのは読み取れる。


「わざわざ火山見物なんかしないと思うけど、どこを通って帰ってくるかまでは知らないもんな。」

「いや、ある程度予想は出来るのじゃ。」

「予想って言っても直線だろ?」

 シヴは一直線に行くと言ったら本当に一直線で行くような奴だし、帰りも来た道を戻ってくるんじゃないかな。

「お主は知らんじゃろうから無理もないのじゃが、シヴに依頼した品がちょっと多くての。整備されてない森などは抜けられん筈じゃ。」

「服以外に何を頼んだんだ?」

「服だけじゃよ。但し100着程の。」

「馬鹿……。」

 俺達の肌着程度なら100着でも何とかなるだろうが、おそらくドレスとかも含んでるよなそれ。

 重量はシヴからしたら気にする程のものじゃないんだろうけど。


「とにかく、それだけの物を持って帰ってくるのじゃ、なるべく平坦な道を選んでくるじゃろう。となるとじゃな、ムパシ山の近くを通るおそれは非常に高いのじゃ。あそこは整備された街道が伸びておる。」

 何事も無く帰ってくる。

 火龍が失敗して噴火に巻き込まれる。

 火龍は成功するが巻き込まれる。

 火龍と闘う。

 どれもありそうだな……。

「無事だといいけど……。」

「うむ……、やはり慣れ親しんだ服がいいからの。」

「え、シヴの心配をしてたんじゃないのか?」

「あやつに心配する要素があるか、殺したって死なぬわい。服が燃えなければいいのじゃがのう……。」

 呆れた……。

 呆れたけど、シヴに対する信頼が俺より大きいのはわかった。

 これじゃ失礼なのは俺の方なのかキイの方なのかわからないな。

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