獣人と町へ②
「もう遅いし今日は泊っていくか?」
美味そうに肉を頬張るドルフに尋ねると、ドルフは首を横に振った。
「いや、気持ちは有難いが夕食が済んだらすぐにムパシ山へ向かうつもりだ。」
「そっか、まあのんびりしている訳にもいかないよな。」
風呂から出たドルフ達を連れて町の料理店に来ている訳だが、火龍より先に現地に着いていたいという気持ちがあるのだろう、ドルフは夜の内に出発すると言う。
「もし火山の事が早く片付いたなら、どうせティオの町で会える。お前たちは出るのか?」
ティオの町といえばあの水の町だよな。
「出る? 何にだ?」
「闘技大会に決まっているだろう。何故か今回は獣人にも招待が来たのだ、どうも他の種族も巻き込んで大々的に行うようだな。」
そうなのか、闘技大会って昔シヴがあっさり優勝したあれだよな。
俺は闘技場から落ちて予選で負けたからキイと応援しかしてなかったけど。
「悪いけど知らなかったな。獣人族は誰が出るんだ?」
「俺が出る。と言いたいところだが、そうもいかなくてな。ピーニャが出る。」
「えっ!? 危ないっすよ!」
トールさんが目を丸くして身を乗り出した。
闘技大会は真剣でも飛び道具でも、観客を巻き込むような爆発物とか毒だとかじゃなければなんでも有りだった筈だ。
自分の娘なのにピーニャが出る……、なんてあっさり言ったもんだな。
「心配するな、ピーニャは親の贔屓目を抜いても狩りの天才だ。戦闘だけなら俺と渡り合えるぞ。」
とてもそうは見えないが。
ピーニャに目をやるとひたすらがつがつと料理を口に運んでいる。
「でも女の子っすからねえ……。」
トールさんは納得がいってないみたいだが、口出し出来る様な間柄でもないからそれ以上強くは言わなかった。
「他種族という事は、エルフにも招待が来ておるのかの。」
それでも何か言いたそうなトールさんを抑えるように、キイが割って入る。
「だと思う。全ての種族が対象だと書いてあったからな。」
「ふむ、じゃとしたらあの馬鹿が食いつかない訳はないのじゃ。おそらくセバス辺りが出て来るじゃろうな。」
あの馬鹿ってのは妹のことだろう。セバスという人は知らないが、口ぶりから察するにかなり強いって事だろうな。
「どのくらいの範囲に配ってるんだろうな、各種族一人って事はないだろうし。」
「ああ、種族ごとに参加人数の上限が違うとは書かれていたぞ。俺の所はピーニャだが、他の集落からも何人か出る筈だ。」
「エルフは外に村などは無いからのう。狩り専門の者達はおるにはおるが、戦いを好む者自体はそうおらんし、兵士が何人か出るくらいじゃろうな。」
まあ確かに好戦的なエルフって聞いた事ないな。
キイは技術は凄いが、不要な戦いを避けられるなら避けたいって感じだし。
後は魔族と俺達人間だが……。
「タイラーが出てきたらどうするんだ?」
それを聞いてドルフとキイの動きが止まる。
「流石に魔王が自ら出てはこんじゃろう……?」
と言いつつも、あいつならやりかねんって顔してるな。
「体術なら負けはしない……、と思いたいのだが、魔法に関しては俺達は無知だからな。魔王だけじゃなく魔族自体が脅威なのは間違いない。」
まあその時の気分次第だろうが、再戦を誓ってたからシヴが出るとかだったら……。間違いなくタイラーも嬉々として参加してただろうな。
「俺達に話が来てればシヴが担ぎ上げられてたかもしれないよな。」
「そうじゃな、そうなれば魔王も姫も間違いなく参加表明しとるじゃろう。」
「この町唯一のクロウだし、町を離れる訳にもいかないからどの道不参加なんだけどな。」
「シヴというのは何者なのだ?」
キイと俺が面倒事に巻き込まれずに済んだと暗に確認しあっていると、ドルフがシヴに関して聞いてきた。
クロウ時代も名前を売らないようにやってきたからな、その上ドルフ達は獣人だし知らないのも当たり前だ。
「一言で言うと汚いおっさん……かなあ。」
「それが魔王と何の関係があるのだ?」
そうなるよな。
「ごめん、面白くない冗談だった。シヴっていう俺達の仲間は、昔魔王タイラーとの闘いに勝ったことがあるんだ。」
「何だと? そんな者がいるのか?」
ドルフが驚くが、かなり興味を引かれる話だったらしい。俺達を真剣に見ている。
「そうそう、だいぶギリギリだったみたいだけど何とか勝ってたよ。それで魔王の娘に気に入られちゃってさ。」
「シヴは知らんかったが戦った理由が姫の婚約破棄じゃったからの、トビーの策にまんまと嵌められたとはいえ……。あの時はシヴが自分を救った王子様にでも見えたんじゃろうか。」
「お前達もその場にいたんだな。俺もそのような強い者には一度会ってみたいが……。」
なんでこう武人って顔を合わせたがるのかね。
実際会ったらお手合わせの一つでも……、ってなるんだろうどうせ。
「残念だけどシヴは町を離れられないからなあ、オウルだし。」
「そうじゃな、ないとは思うが魔王タイラーか娘のニイルが出るような事になれば、ティオの町が崩壊するのを防ぐ為に派遣されるかもしれんがの。」
キイが紅茶の入ったカップを口に運ぶ。
ドルフもそれに合わせて水を飲んだ。
「俺達はまずはムパシ山が優先だからな、実際に出られるかどうかはそれ次第なのだが……。」
火龍の自信満々なあの態度を思い出す。
何とかしてくれるんじゃないかな、あいつなら。