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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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キイの疑念

 ヒルダさんの誤解を嘘を交えて半ば強引に解いた後、火龍の牙を確かめたいと言うキイと家に戻り庭へ向かう。

 一応道中でドルフ達の事は話したが、キイは何か考え事をしているようで、気のない返事しか返ってこなかった。

 庭にドルフ達は居なかった。ピーニャを迎えに行ったんだろう、そのまま庭を通り風呂の裏へ。

「この辺に置いておくように言ったんだけど……。」

 桶はすぐに見つかったが、肝心の火龍の牙が無い。

「どうしたのじゃ?」

「いや、火龍の牙が桶に入ってないんだ、まさか盗んだりする筈は無いと思うけど。」

 ドルフ達に限ってそんな訳はないし、かといって泥棒がわざわざこんな所探して持って行くとも思えない。

「埋めてあるのじゃろう。」

「埋める? どうして?」

 何故わざわざそんな事を? 用心の為か?


「獣人にはよくある事じゃよ、ほれ。」

 キイは近くの地面を指差した。

 確かにそこだけ草が無く、一度掘ってから埋めた形跡がある。

 近付いてよくよく見れば、何か太い毛のような物が突き立っている。

「これって……、髭?」

 多分だけど、ドルフは目印に自分の髭を一本刺して言ったんだな。

 いやわかるかこんなもん……。


 手頃な木で掘り返してみると、確かにそこに火龍の牙は埋まっていた。

「あったあった、気付いて良かったよ。」

 直接手で持つ訳にもいかないので、何とか木の上に乗せて桶に落とす。

「これが火龍の牙か、意外と小さいんじゃの。」

 俺の背中から桶をのぞき込むキイ。

「そうなんだよ、でも桶の水がすぐに温まるのは実験済みだから、効果は保証するよ。」


 火龍の牙の入った桶を俺が、入っていない桶をキイが持って二人で風呂へ向かう。

 風呂の栓は二人で協力すれば何とか抜けたので、水の流入が止まるまで待って栓を落とす。

「さて、この量の水がお湯になるまで正直どれくらいかかるかはわからない。取り敢えず投げ入れておいて、交代で様子を見にこよう。」

 そう言って火龍の牙を桶から水に落とした。

「楽しみじゃな。」

「そうだな。でもそれよりキイ。」

「何じゃ?」

「何をずっと考えてるんだ?」

 天使の種の事を説明した辺りから少し元気がないように感じる。

 俺が世界樹に登る事が原因かとも考えたが、思い返せばその話が出る前から様子がおかしかった。

「そうじゃな……、お主には話しておいた方がよいの。」


 浴場を出て、庭の見える部屋へ。

 キイと向かい合うようにテーブルについて、キイが話し始めるのを待った。


「何度も悪いとは思うが、もう一度だけ確認させて欲しいのじゃ。」

「何だよ?」

「エヌの頭のあれは、確かに天使なんじゃな?」

「火龍に聞いた限りではそうだよ。」

 それが何なのだろうか。

 キイは俺の言葉を聞いて溜息をつく。

 そしてテーブルの上で腕を組み、話を続けた。

「実はじゃな、今朝早くにお主から言われた通り、ワシはエヌの所を訪ねたのじゃ。」

 だろうな、エヌがあれだけ懐いてるんだし俺が戻る直前って事はないだろう。

 ちょっと怖いけどヒルダさんまでエヌの友達になってるし。

「ああ、キイには感謝してる。」

「うむ、それはまあ良い。その時の事なんじゃが、ナギと名乗る医者がおっての。」

 ナギってレイラの所に居たあの人か。

「確か王都で開業医してるっていう……。」

「そうじゃ、そう言っておった。お主知っておるのか?」

「知ってる……って程じゃないけど、面識はあるな。ローランの妹のレイラにハバキの屋敷で会ったんだけど、そこで手伝いをしてるって言ってた。」

 天井を見ながら思い出す。

 ローランとも仲良さげだったな。


「そやつじゃが、往診してエヌの薬を置いて帰ったのじゃ。」

 何も変じゃないじゃないか。

「わざわざ来てくれるんだな、まあエヌに領主館まで通わさせるのは酷だとは思うけど。」

「その時にエヌの頭を見て、ナギは間違いなく【天使】と言ったのじゃ。」

「え?」

 どういう訳だ、レイラですら天使って名称は使ってなかったぞ?


「ワシもその時は知らぬからの、エヌの事を天使と呼ぶくらいに可愛がっておるのか、それともエヌに気を使って醜い腫瘍を敢えて天使と呼称しておるのか……。と無理に納得して流したのじゃが、お主があれを【天使の種】と呼んだ時から気になっておったのじゃ。」

「それだけだとキイが最初に言った説を否定する材料としちゃ弱いだろ、他に何かなかったのか?」

 俺がそう言うとキイは頬杖をついて外を眺める。


「そうじゃ、今の所はそれだけじゃ。しかしレイラという者、ワシも一度会ってみる必要があるのう。」

「レイラを疑っているのか?」

「そう見えるかの?」

 顔は庭に向けたまま、視線だけこちらに向けてキイは言った。

 俺が黙っていると、キイはそのまま淡々と話し始める。


「ワシはな、レイラという者を知らん。風呂でローランの話を聞いた限りでは碌でも無いと思うのが普通じゃろう?」

 まああの話だけだと確かに……。親が横で殺されて笑ってたんだもんな。

「じゃがそれ以上におかしい事があるのじゃ、レイラの話はエヌからも聞いたが、エヌは懐いておるようじゃった。」

「そ、そうなんだよ。口も態度も悪いのは間違いないんだけど、エヌはレイラの話をする時楽しそうなんだよ。」

「そうじゃろう? ワシも同感じゃ。しかしの、ナギに対しては心を開いておるようには見えなかったのじゃ。」

「そりゃ、子供とはいえ誰にでも懐くって訳にも……。」

「ヒルダには一瞬で懐いたのじゃ、目の前でワシと大喧嘩した後なのに、頭を撫でられただけでの。あの子は愛に飢えておる、自分を受け入れてくれる者にはそれ以上の愛で応える優しい子なのじゃ。」

「キイの思い違いじゃないのか?」


 キイはもう一度俺から視線を外し、少しの沈黙の後、ゆっくりと立ち上がった。

「風呂を見て来るのじゃ。」

 そのまま部屋を出て行こうとするキイの方を見て、俺は確認する。

「キイは思い違いじゃないと言いたいんだよな?」


「それを確かめようと言っておるのじゃ。思い違いであればそれで良い、しかしそうでなければ?」

 それだけ言うとキイは俺の視界から消えた。

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