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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
111/209

剣聖の旅⑦♦

「これでよし。」

 夕食を終えたシヴは依頼の品を担いで城門の前に居た。

 ミームとセバス、大臣や兵士達も見送りに並んでいる。

「本当にそれ持って帰るの?」

 服100着を一纏めにした巨大な風呂敷を首に巻いて、顔色一つ変えていないシヴに呆れながらも、シヴがまるで普通の事のように振舞うので内心は信頼しつつあるミーム。

「おう、心配すんな。雨が降らねえといいなとは思うがよ。」

「じゃあこれ、受け取りの証明書。」

 ミームは大臣から受け取った手紙の納品証明をシヴに渡した。

「後は急いで貿易の担当者を派遣してくれりゃあこの件は終いだな。」

 証明書を懐に入れながらシヴが呟く。

「え? そんなに急がなくちゃならないの?」

「ったりめーだろ、俺達が美味い飯が食えるかどうかがかかってんだ。」

「?????」

 何故貿易の担当者を人間の国に派遣するとシヴの食生活が潤うのか。

 理解に苦しんだミームだったが、少し意地悪をしてみただけで、元よりのんびりやるつもりはないので深くは追及しなかった。


「流石に明日出発させるって訳にはいかないけど、闘技大会に向かう時に一緒に連れていけるようにはするね。」

「おう、それくらいならまあ文句はねえ。頼んだぜ。」

 出発しようとするシヴにミームがそっと歩み寄り、耳打ちをする。

「ねえ、本当にあの子でいいわけ? セバスが鍛えるって張り切ってんだけど。」


「ああ、問題ねえ。あの中で唯一俺の殺気を感じとった奴だからよ、当日までにどんだけいけるか迄はわかんねーが、少なくとも防御面は伸びるぜ。」

「ふーん……。」

 実際手合わせでもすれば今の段階で一番優れた者を選ぶ事も出来たが、死人を出さないというオサモンの願いが頭をチラついた事と、指名すればセバスが鍛えるだろうという事が分かっていたので、シヴは敢えて伸び代が有りそうな者を選んだ。


(まあこのじじいがどこまでがやるかわかんねーから、俺も楽しみなんだがよ。)

 シヴはセバスを見て笑みを浮かべる。

 セバスもシヴの視線に気付いて一礼を返した。

 キイとミームが150年生きているのだから、老人の姿をしているこのエルフはかなりの使い手だろうとシヴは睨んでいる。

 得意な武器や戦い方の相性も当然あるので、勘だけで序列を決める様な事はしない。


「まあ喧嘩自体はあんまり好きそうじゃねーな、知り合いに一人喧嘩っ早いじじいがいるから、こっちに来る時は気を付けてくれや。」

「え? 何の事? セバス何かしたの?」

「じゃーな。楽しみにしてるぜ。」

 ミームを無視してシヴは片手で空を切り挨拶をする。

「ちょっ、無視は良くない! セバス、どういう事?」

「さあ、私には何の事やら。」

 すっとぼけるセバスに詰め寄るミームを尻目に、シヴは走り出した。

 小さくなっていくミーム達がシヴに手を振っているのが見えたが、シヴはわざわざ振り返したりはしなかった。



「行っちゃったわね。」

「はい。」

 シヴの姿が見えなくなって、集まっていた者達も自分の仕事へと戻っていく。

「セバスは本当だと思う?」

「何がでしょうか?」

「シヴが独りで魔王を倒すって。」

 ミームの疑問を受けて、セバスは顎に手を当て考える振りをする。


「最初の通信の時にもキイ様が仰っておりましたからおそらくは。」

「いや言ってたけど、あんなの嘘だと思うじゃない普通。」

「まあそうですね。」

「で、どうなの?」

「少なくとも私では勝負になりませんね。」

「当たり前じゃない! セバスが勝てるんなら私でも勝てるわよ!」

「これは手厳しい。」

 ミームはセバスが戦っている所を見た事は無い。

 キイとミームが産まれてから、常にミームの側役として隣に居たセバスは、150年その力を隠し続けて来た。

 キイは先々代の王である祖父に育てられたのでセバスの事は聞いているが、それを口にした事はない。


「本当にセバスがあの子強くできるの? セバスが面倒見るって言い出したんだからね?」

「ええ、武術の本なら趣味で大量に持っておりますので。一冊ずつ読み聞かせます。」

「……駄目だエルフの国は予選落ちだ……。」

 笑顔で答えるセバスを見て頭を抱えるミーム。

 外出の口実が欲しいだけとはいえ、出場するなら勿論全力で応援するつもりだったので、思ったより楽しめないのではないかという懸念すら抱いていた。

「まあどれ程の強者が集結するのかわかりませんから。シヴ様が審判をするので試合中の事故は無いと仰ってましたし、気楽に参りましょう。」

「ふぅ……、そうね。」

 そう話しながら、頭を抱える女王と優しい笑顔の執事も城へと戻って行った。



 その頃シヴは、町への復路を駆け抜けながら、遠い空で鳴く龍の声を聞いていた。

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