剣聖の旅⑥♦
夕食を用意しているというので沐浴で汗を流し、用意された服に着替えて沐浴場を出るシヴ。
「先程はどうも、いかがでございますか着心地は。」
廊下では玉座の間でみかけた老執事、セバスが待ち構えていた。
「わざわざ似たような服を用意してくれたんだな、慣れてるから助かるぜ。」
「ええ、シヴ様の御召し物は洗濯致しましたゆえ、乾き次第お持ち致します。」
「すまねーな。で、俺はどこで待ってりゃいいんだ?」
「ご案内します。」
一礼したセバスはシヴの前を音も立てずに歩き始める。
セバスの身のこなしを見て、何らかの武術の心得がある事を察したシヴはココノエを思い浮かべていた。
(ふ~ん……。執事って奴ぁどいつもこいつも食えねえもんだな。)
セバスの案内で中庭を訪れたシヴにミームが声を掛ける。
「あー、来た来た! 待ってたわよ!」
ミームの背後には兵士と思われる者達が整列していて、玉座の間で見かけた者も混ざっていた。
セバスがミームの横に並び、シヴに礼をしたので取り敢えずここに連れて来るのがセバスの目的だったという事はわかる。
「何だよ物々しいな。」
シヴは腕を組んで兵士達を見る。
大抵こういう時は面倒事に付き合わされると勘が訴えていた。
「シヴなら勿論知ってるでしょうけど、もうすぐ闘技大会があるのよ。」
興味も無ければ誘いもなかったので昨日まで知らなかったが、そういえばオサモンが各国に宣伝したと言っていた事を思い出す。
「ああ、知ってる。こいつらが出るのか?」
シヴは横目に顎で兵達を指す。
「この中から一人だけね。姉様が書いてたシヴの話が本当なら優勝は無理でしょうけど。」
「出ねーよ。」
「え?」
ミームは首を傾げて指を咥える。
「え? じゃねえ、俺は出ねーよ。審判は頼まれたからその場には居るけどな。」
「俺が一番だぞー! って感じの人かと思ったらそうでもないのね。」
「何だよそりゃ……。売られりゃ買うけど大した理由もなく売るもんじゃねーんだよ喧嘩は。で、何で俺をこいつらの前に連れて来たんだ?」
そう言われてミームはぽんと手を叩く。
「そうだったそうだった! でね、この中から一人出場させようと思うんだけど、どの子がいいか助言をお願いしたいと思って。」
「ふ~ん、意外だな。」
「何が?」
「いや、エルフにゃあんまり好戦的な奴ぁいねえと思ってたからよ。」
「そ、それはその……。ちょーっと野蛮かな~? とは思うけど折角のお誘いだし……? 色んな国の偉い人にも会えるかもしれない、し……?」
ミームが歯切れの悪い態度を取っていると、セバスが代わりに答えた。
「ミーム様は外出の大義名分が欲しいのです。」
「セバス!?」
まさかのセバスの裏切りに動揺するミーム。
「キイに会いに行くってのじゃ駄目なのか?」
つい先日平民の家ではしゃいでいた国王の顔がちらついたが、シヴは無理やり記憶を封じ込めた。
「それだけだとね……。貿易の件もあるから人間の国に行く理由は沢山あるんだけど、トビー国王もお忙しいでしょうし……、先ずは綿密な打ち合わせを重ねてからになると思うし……。」
「とにかく今すぐ遊ぶ時間が沢山欲しいと申されております。」
「セバス!!?」
またしてもセバスの裏切りにより心情を暴露され、白目を剥くミーム。
「ふんっ、わーったよ。こいつらから選べばいいんだろ?」
シヴは鼻で笑って兵士達の中に入って行く。
一人一人兵士達の顔を見ながらゆっくりと中を歩くシヴ。
兵士達はシヴが通るのを姿勢を崩さず待った。
「ひぃっ……」
中に突然へたり込む兵が居た。
しかしシヴは無視して他の兵の観察を続ける。
全員を見てミームの元へ帰って来たシヴは、へたり込んだ若いエルフを指名する。
「あいつで間違いねえ。今は知らねーが伸びるぞ。」
「えー、意味わかんない。優勝できないとしても予選敗退とかは嫌なんだけどなー。」
「私もシヴ様と同じ考えです。」
セバスがミームにそう耳打ちする。
「え、何で何で? わざと弱いの選んだとかじゃないの?」
ミームは理解できずにシヴとセバスを何度も交互に見る。
「へん、お前さんが出た方がいいんじゃねーのか?」
シヴは皮肉交じりにセバスにそう言ったが、セバスは聞こえない振りをした。