オウル試験を見学します⑤
「やあ、気持ちだけは貰っておくよ~、僕の護衛なんかしようものならキミ、魔族どころか人間からも狙われちゃうよ、誰からとは言わないけど。そ・れ・よ・り、お願いがあるんだ。」
「ご命令ですか? 何なりと。」
「ノノノノノ! ノー! 命令じゃないよ、お願い。聞かなかった事にしても構わないって事だよ。実はね、この戦争はもうすぐ終わるんだよ。」
「戦争が終わる……? まさか人類に熱戦の準備が?」
「……キミね~、発想が物騒過ぎるんだよ、ちょっとこの町に居過ぎておかしくなってんじゃないの~?」
「も、申し訳ございません!」
「いいっていいってそんなに謝んなくても。僕はこの町に殺されに来たんだ、パパ上の命令でね。王子が独りで視察なんてあるわけないじゃんね~、露骨過ぎて笑っちゃうよほんと。」
「噂は……、ギルドにも、届いております……。し、しかし! 私が御守りいたします!」
「だから護衛の話はいいから。いいかい、もう一度言うよ、この戦争はもうすぐ終わるんだ。というか、僕が終わらせるよ、さっき決めた。パパ上に言われた時は、ずっと見てみたかった色んな町を観光できるし、旅が終わってから殺されるなら、まっ、いっかな~って思ってたけど……。気が変わっちゃったんだよね~。」
「では、私は何をすれば……。」
「うん、あのね、出来ればなんだけど、この町のギルドみたいに、人の命を軽~く扱ってるようなの嫌いなんだよね。ここのギルドマスターは僕がお仕置きするから、キミはギルドを中から変えていってくれない? ゆっくりでもいいからさ。」
ナインハルトに聞かされた内容はこういう事だった。そしてその会話の数日後、理由は不明……、といっても俺達がやったんだが、とにかく誰もわからないまま、ギルドマスターは失踪。ナインハルトを王子が直々に推薦して、臨時の職員としてギルドマスターの座についたらしい。
さらに一週間後、魔族との奇跡の和平条約が結ばれる過程で何故か……、勿論俺達が関係してるんだが、王は命を落とし、第一・第二王子は魔族への恐怖心から戴冠を拒否。そして人類史上初の、全身ピンクの王が誕生した。
新王の進める政策の中で、それまでは名目上だけだった国家の組織としてのギルドに、本格的に干渉が行われるようになった。王の息のかかった者達が、王都から各地のギルドへ職員として次々と派遣されるなどの大幅な人員移動も行われる中で、ナインハルトはこの町へ正式なギルドマスターとして配属になったらしい。
ナインハルトは握りしめた自分の拳を見つめ、決意表明のように俺達に言う。
「未だ多くのギルドが、王の理想とはかけ離れています。人命を軽んじる事はあってはならない、私は王の言葉を胸に、職務を全うしているつもりです。」