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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
108/209

剣聖の旅④♦

「こちらでお待ち下さい。」

「すまねえな。」

 そう言って開かれた扉を潜り、シヴは玉座の間へ入る。

 弓を携えた兵士たちが並び、玉座の後方、壁一面の大きな窓からは光が差し込む。


(ティオの町とは大違いだな、俺がアサシンだったらどうすんだよ。)

 キイからマナを通してミームに伝わっているので、エルフ達はシヴを客人として丁重に迎え入れただけなのだが、当然シヴはその事実を知る由もない。

 ここまで警戒もされず通された事で要らぬ心配をするシヴとは裏腹に、エルフの兵達は緊張感の欠片も無く笑顔で世間話をしている。

 やがてエルフの大臣の一人が、玉座の右にある扉から現れると兵達も静かになった。


「これより女王ミーム様がおいでになる、シヴ殿、失礼があるかもしれんがご容赦願いたい。」

「何だ? 言い間違いか?」

 女王に対して失礼の無いように、そう言われると思っていたのでシヴは面食らう。

 見れば兵達の中に必死に笑いを堪えている者が何人か居る。


(このおっさんは仕事が出来ねー奴って事か?)

 兵はこの大臣を小馬鹿にしているんだろう、そう考えるのが自然だった。

 多少の憐れみも感じつつ、自分の要件は女王に手紙を渡す事なので深くは突っ込まない事にしたシヴ。

 しかしこの大臣の言葉は間違いではなく、そして兵の態度も大臣に向けられたものではないと思い知らされる。


 大臣が出て来た扉から同じようにもう二名、腰に剣を提げ、背に弓を付けたエルフの女性が出て来る。

 そのまま玉座の左右に立ち、剣の柄に手を添えた。

「女王ミーム様、御出座!」

 大臣が声を張る。


「………………………。」



「御出座ぁっ!!」

 もう一度、先より大きく大臣が言ったが玉座の間に訪れたのは静寂のみであった。


 大臣も兵達も、そしてシヴも右の扉に視線を集中させるが、扉が開く気配はない。

「おい、どうなっているんだ?」

「……。」

 大臣は玉座の横の女性に尋ねるが、完全に黙殺される。


「あー……、あのよ、忙しいんなら別に来てもらわなくても、手紙を渡してくれるだけで構わねーんだが。」

 シヴがそう言って懐から手紙を出そうとした瞬間。


 ッバーーンッ!!


 シヴの背後のドアが大きな音を立てて勢いよく開く。

「っ!? なんだぁっ!?」

 驚いたシヴが剣に手をかけながら振り返ると、そこにはキイそっくりのエルフが居た。

「あ? 何でキイがいんだよ?」

 呆然とするシヴを見て、そのエルフは満足そうに笑った。


「大成功! 女王ミームです、よろしくね!」

 シヴがもう一度玉座の方へ振り返ると、大臣が額に手を当て眉間に皺を寄せていた。

 シヴが自分を見ている事に気付いた大臣が申し訳なさそうな表情を作る。

 キイとミームは双子で、二人と近しい者でなければそう見分けがつかない。


「……これ?」

 力無くミームを指差しそれだけ言ったシヴに、大臣は無言で頷きだけを返す。


「ちょっ! 女王様捕まえてこれって失礼じゃない? わざわざここまで走ったんだからね!?」

 本気で驚いているミームを見て、シヴはトビーを思い出さずにはいられなかった。

(……帰るか。)

 ミームの横を抜け部屋から出ようとしたが、ミームがすぐにシヴの腕を掴んで止める。


「ちょちょちょちょっとちょっと、どこ行くのよ!? ご飯とか用意してるから、ね? ていうか止まってよやめて引き摺らないで。」

 シヴは腕を掴まれたまま、ミームを無視して歩く。

 町で食事でもとって休み、手紙は後でさっきの大臣にでも渡せばいいだろう。

 そう考えていた。


「姉様の服持ってかえるんでしょー! 手ぶらじゃ帰れないでしょー!」



 そう言われてハッとする。

 ギルドへの依頼はある程度のカテゴリ分けがされていて、達成と認められるには登録された内容をギルド立ち合いの元で証明する必要がある。

 依頼者の匙加減でそれを変える事は売名に繋がる為、依頼後に変更する事は出来ない。

 キイがオウルに依頼した内容は、配達と納品。

 配達は手紙なので、それを渡して受け取りの証明を貰えば終了する。

 しかし納品はキイがギルドに提示したものを持ち帰る必要がある為、このまま帰れば依頼失敗となってしまう。

 オウルの依頼達成率は所属ギルドの評判に繋がるので、それでなくとも依頼の少ない町なのに更に減るおそれさえある。

 優秀なオウルのいる町のギルドには、その噂を聞きつけた者が遠方から足を運ぶ事もある為、初仕事から失敗という汚点を残す訳にはいかない。


「わーったよ、この手紙に書いてあるらしいから纏めてくれ。」

 シヴはミームに手紙を渡して、二人並んで玉座の間に帰り始める。

「あーよかった、私が姉様に怒られるところだった。でもあれね、そんなに汚くないわね。」

「汚い……? 何の話だ?」

「ううんこっちの事。」

「? まあいい、ところで気になったんだがよ。」

「何? 悔しいけど胸なら姉様の方が大きいわよ?」

「見りゃわかるし別にいらねー情報だわ。なんで手紙読む前にキイの服持って帰るって分かったんだ?」


 立ち止まるシヴを追い越して、ミームは振り向く。

「エルフの秘密よ!」

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