ヒルダとキイ②♦
裏庭に出たキイとヒルダが向かい合う。
ヒルダは敵意を剥き出しにして睨みつけるが、キイはそれを意に介さない。
エヌはキイの後ろに隠れて様子を伺っている。
いつもギルドの前で管を巻いているクロウ達も見物に来ていた。
「どっちが勝つと思う?」
「そりゃヒルダさんだろ。」
「でもキイさんはシヴさんの知り合いだぞ?」
「それなんだよな、馬鹿にしてると後がこわいよな。」
「じゃあどっちを応援したいかにしようぜ。」
「俺はキイさんだな、あんな綺麗な人見た事ねーよ。」
「俺も同感だ、一晩でいいから一緒に過ごしたいもんだぜ。」
「キイさんは確かに完璧だけどよ、胸の大きさはヒルダさんも負けてねーからな。日に焼けた肌もたまんねーぜ。」
「確かにな、尻ならヒルダさんの方がでかいし趣味がわかれるな。」
「キイさんは護ってやりたくなるけどよ、ヒルダさんには踏まれたいっつーかなんつーか……。」
クロウ達が盛り上がっている最中、ナインハルトが弓と鞭を持ってギルドから出てくる。
「お待たせしました。」
キイに弓を、ヒルダに鞭を渡し、キイに問う。
「危険ですからその子はお預かり致しましょう。」
「うむ、頼んだぞ。さ、エヌ、この者と一緒に少しの間離れておるのじゃ、危険じゃからの。」
キイはエヌの背中をポンと叩く。
「このお兄ちゃんもキイさんのお友達?」
エヌの質問にナインハルトが答える。
「ああ、そうだよ。私と向こうで終わるのを待とう。」
そう言ってナインハルトはエヌに右手を差し出した。
「でも……。」
家から離れた場所でキイから離れる事に不安を覚えたエヌは、少し俯いて迷いを見せる。
「大丈夫じゃ、ワシとナインハルトは一緒に風呂に入った仲じゃよ、家族のようなものじゃ。」
「なんですってええええええ!!!」
エヌが居るので仕方なく黙って聞いていたヒルダが、キイの一言で激昂する。
「な! 何を言うのですキイ様!」
「何がじゃ?」
「いや、た、確かに同席しましたが! これではまるで私と二人で入ったように受け取られてしまいますよ! 他にもいたでしょう!?」
「そうじゃな、ローランとハバキと……」
「はあああああああああ!?」
それを聞いてますますヒルダが怒りに燃える。
怒り狂うヒルダの視線が何故か自分に突き刺さっていると気付いたナインハルトは、慌てて取り繕おうと必死になる。
「あ、アレンさんもシヴ様も、それにもう一人男性が居たでしょう!」
「うむ、男四人に女三人じゃな、間違いないのじゃ。」
「ふふ……、そうですか……、私にギルドを任せて帰ってこないと思ったら……。裸のお付き合い、ご苦労様です!! ギルドマスター様!!」
顔に血管を浮き上がらせて笑顔で自分を見るヒルダに、必死になればなるほど墓穴を掘っていた事にようやく気付くナインハルト。
ヒルダの殺気に怯えるエヌは、ナインハルトの手を取りその場から離れる。
「お、お兄ちゃん睨まれてるよ、あっちに隠れよ……!」
「そ、そうしよう、ありがとう。」
離れて行く二人を見て、本当にナインハルトでエヌを護れるのだろうかと心配になるキイ。
そんなキイへ嫉妬の炎を燃え上がらせるヒルダ。
「おい聞いたよな今の?」
「ああ聞いた……、しばらく立ち直れそうにないわ……。」
「ギルドマスターがキイさんと風呂になんてなあ。」
「正直、俺もギルドマスター殺したいわ今。」
「だから言ったろ? ヒルダ派になれってお前らも。」
「あんた達もさっきから全部聞こえてんのよっ!!」
「「「ひぃっ! お助け!」」」
ヒルダの鞭が空気を切り裂きクロウ達を襲う。
顎を打たれ気を失った者もいた。
「ほう、随分精細に操るもんじゃな。」
ヒルダの鞭捌きを見て感心するキイ。
「あんた! そんな余裕の顔してられるのも今だけだからね!」
「おい、ヒルダさんが昔のヒルダさんになったぞ、マジで怒ってんだありゃ……。」
一人が生唾を飲み込む。
「やべーな、見物なんかしてねーで逃げるか?」
事態が思ったより悪い事になっているのを悟った別の男が離脱を提案する。
その提案を聞いたクロウのリーダー格が頷き、気絶した男を抱える。
「その方がいいかもしれね……」
そう言い掛けた時だった。
「裸にひん剥いて晒してやる!!」
ヒルダが叫んだ。
「逃げるなんて男がやる事じゃねーよな。」
「そうだ、俺達には最後まで見届ける義務がある。」
「ヒルダさんガンバレー!」
俄然張り切ってヒルダの応援に回るクロウ達。
そんなクロウ達を見て、キイは口角を上げる。
「残念じゃがお主達の理想の展開にはならんのじゃ。」
そう小さく独り言ちた。