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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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ヒルダとキイ①♦

「どうしたんです? ギルドで迷子は預かってませんけど。」

 エヌを連れたキイを見てヒルダは言う。

「そうではない、裏庭を散歩したいと思っての。」

「町民の皆様に開放している場所ならご自由にどうぞ?」

 そんな下らない事か、と言わんばかりにヒルダはキイから視線を外して事務的に返す。

「そうではない、解放していない場所を散歩したいのじゃ。」

 ヒルダの冷たい態度など意にも介さず、キイは要求を告げる。


「クロウやオウルが修練をする場所です、一般人の方は危険ですのでお引き取り下さい。」

 呆れているのが声色からすぐに伝わるが、それでもキイは一歩も引かない。

「今は違うがワシも長い事クロウをやって来たのじゃ、それでも駄目というのかの?」

「駄目です、町の道場にでも行って下さい。ギルドの敷地は解放できません。」

 頑として譲らないヒルダ。


「ほう、今日は誰か修練しているとでも? それともオウルの試験でもあるのかの?」

「しつこいですね! 規則はきそ……」

「構わない、私が許可しよう。」

 奥からナインハルトが現れてそう言う。


「うむ、感謝するぞナインハルト。」

「いえ、その程度ならいつでも言って下さい。」


 シヴがこのギルドに現れてからというもの、シヴの関係者を特別扱いするナインハルトがヒルダは面白くない。

 ヒルダはアレン達が国王の友人で、戦争を終結させた英雄だという事を知らないので、贔屓をしているように見えるのは仕方のない事ではあった。

 が、ナインハルトへ想いを寄せているからこそ、その贔屓はキイの事を敵視するようになるには十分だった。


「マスターが言っても規則は規則です! 許しません!」

「ど、どうしたんだ……?」

「怖い……。」

 声を荒げるヒルダにナインハルトは戸惑い、エヌはキイの後ろに隠れた。


「ふむ、ではどうすれば堂々と使えるのじゃ?」

 キイは眉一つ動かさずヒルダに尋ねる。

「ですから修練用だって言ってるでしょう! ギルドの関係者でもないのに使わせるわけにはいきません!」

 椅子から立ち上がりキイを睨みつけるヒルダ。

 キイは更に力を込めてキイに抱き着くエヌの頭を優しく撫でて、ヒルダを睨む。


「子供が居るのじゃ、そのような声を出すでない。ではワシが関係者と修練をすれば良いのじゃろう?」

「そ、それは……。」

 キイの言いたい事が分かったのかナインハルトが口を挟む。

「でしたらヒルダと手合わせを、彼女も元クロウです、腕は確かですよ。」

「マスター!?」

 何を言い出すのかとナインハルトに振り返るヒルダ。

「ヒルダも関係者なのだから修練に使うのは規則違反にならないだろう? その相手としてキイ様が出るのだから問題は無いと思うが。」


 そんな無理やりな、とも思ったヒルダだったが、すぐに思い直す。

 堂々とこの女に痛い目を見てもらう絶好の機会ではないか、と。



「いいでしょう、元とはいえこれでも名の売れたクロウです、規則を素直に守っていれば良かったと後悔させてあげます。」

 ヒルダは椅子に座り直し、腕と脚を組んでキイを見る。


「エヌ、少しだけ我慢してもらえるかの? じゃじゃ馬にお灸を据えねばならん。」

「え、け、喧嘩するの? キイさんそんな事できるの……? 怪我しちゃうかも……。」

「心配してくれとるのか?」

「うん……、キイさんが怪我するんなら今日はお散歩もお菓子も無くてもいいよ?」

 キイはエヌを抱きしめる。

「なんていい子なんじゃ、愛い奴……。」

「キイさん苦しいよ……。」


「無視しないでもらえますかね!」

 目の前で行われるエルフと少女のお涙頂戴に、まるで自分が悪者になったかのような錯覚を起こしたヒルダが割って入る。


 キイはいいところを邪魔されたとでも言いたげに表情を曇らせ、立ち上がる。

「ワシは弓じゃ、先を潰した矢はあるかの?」

「ありますよ、すぐに用意しましょう。ヒルダはいつものでいいだろう?」

「ええ、お願いしますマスター。」

 二人の得意な武器を聞いて、ナインハルトは奥へと消えて行った。

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