表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
101/209

剣聖の旅③♦

「おう、美味いなこりゃ。」

 オサモンと町を歩きながら、先程買った食べ物を頬張るシヴ。

「そうでしょう? 人間の国に住む魔族が考えたらしいのですが。」

 オサモンも嬉しそうに同じものを口に入れる。


 二人が向かう先はオサモンの屋敷。

 先を急ぐのですぐにティオの町を発つ、とシヴはオサモンに伝えたが、オサモンは大事な話があるからとシヴを引き留めた。

 すぐに終わると言うし、食事代も出させてしまったので、シヴはオサモンの屋敷に少しだけ立ち寄る事を了承した。


「この辺だったよな。」

「そうです、屋敷はシヴ様が優勝したあの年と変わっていません。」

 この町で行われる闘技大会にシヴは出場したことがある。

 勿論賞金や名声が目当てではない。


 闘技大会には各地から腕自慢が集まるので、探している人物の情報が手に入るかもしれないと考えたのだ。

 アレンは予選で敗退。キイはエルフなので出場自体が出来なかった。

 話を聞くのに控室が一番だった為、出来るだけ情報を得ようと試合に勝ち続けた結果、シヴはいともあっさりと優勝してしまった。



「シヴ様が優勝したあの年の興奮は忘れられません、前回の闘技大会が子供の遊びのように感じられて退屈でしたよ。」

 応接室の椅子に腰掛けながらオサモンは言う。

「まだまだ知名度が低いんじゃねーのか? 旅の中で出会った奴らにはもっと強いのがごろごろいたぞ?」


 オサモンはそれを聞いて頷いた。

「そうなんです、各地から猛者が集まってきているとはいえ、あくまで自薦。ですから今回は趣向を変えてみましてね、各地の貴族達へと手紙をしたためました。」

「ふーん……。」

 あまり興味の無さそうなシヴを見て、オサモンはフッと笑い、話を続けた。


「シヴ様のようにクロウの中にも強い者はいます、しかし、各地の訓練された兵が大事な警備を放り出して参加する訳にはいかなかった。ひたすら強さを求めて盲目的に鍛錬を行う武人の耳に届く事がなかった。」

「剣聖のとこの奴らは来ねーと思うぞ?」

 シヴが水を差す。

 剣聖の地で自らを鍛える者は、俗世の事に興味が無い者が殆ど。

 おそらく自ら進んで見世物になるような者はいないだろうという事は、シヴ自身が一番よく知っている。


「来ないものは仕方ありません。ですが、剣聖の地の者だけが最強になれる訳ではないでしょう?」

「まあな。」

「ですから各地を収める領主、貴族、当然王都にも手紙は送っています。自慢の領民の中で、一番強い者を決めようじゃないか、と。」

「貴族様を煽るとは悪趣味な奴だぜ、まあわかりやすくていいがよ。」

 シヴは頬杖をついて呆れた表情を浮かべる。


「更にですね、前回までは人間のみで行っていましたが、今回はエルフ、獣人、更に魔族まで参加可能と致しました。」

「死人が出るぞ?」

 シヴは呆れ顔から鋭い目付きに変わり、オサモンを睨む。

 オサモンは椅子から立ち上がり、腕を組む。

「そうなんです、当然そうならないように動きますが、それでも死人が出てもおかしくはありません。」

「どうすんだよ。」

「今日までは仕方ないと思っていました、そうなっても構わないという者達だけを集めて、観客の年齢も制限しようかと。」


「まあ俺だって一応剣士の端くれだ、誇りをかけて闘って、結果死ぬ事に関しちゃ俺からどうこう言うつもりはねーがよ。」

 また呆れた表情に戻るシヴ。

「シヴ様がいればできます、死人を出さずに無事終わらせる事が。」

 オサモンはシヴの眼を真っ直ぐに見つめる。

 シヴは未だ理解できないでいた。


「いや、俺が出場したって俺と闘う奴を殺さないようにするくらいしか出来ねーだろ、常に試合場にいる訳じゃ……」

 そこまで言ってシヴは理解する。

 オサモンがシヴにして欲しい事、それは……

「俺が審判かよ。」


「そうです、その通り! それならば必ず死者を出さずに終わらせられる。どうかご助力願えませんか。」

「いや、面倒だしなあ……。」

「報酬も出来る限りお支払いいたしますよ?」

「別に金が欲しい訳じゃねーしなあ……。」

 他の人間に頼まれたなら即答で断っていただろうが、オサモンに言われると中々嫌とは言い出しにくい。

 オサモンは気に入っている人間の一人だ、出来れば願いは聞いてやりたい。

 そう思ってはいるが今のシヴはオウル、所属のギルドマスターであるナインハルトに何も伝えず安請け合いする訳にもいかない。



「どうか、どうかお願いします。お金でも奴隷でも滅多に手に入らない貴重品でも、私に出来る事なら手配しますから。」

「何でも、ねえ……。」

 シヴは腕を組んで、眼を閉じて考える。

 必要な物が何かあったかと思い出そうとする。

 ふとアレンとキイの顔が浮かんだ。

「そうだ、何でもって言ったな、欲しい物がある訳じゃねーんだがよ、一つ……、いや二つ頼みがある。」

「何なりと。」

「実はよ…………」




 シヴはオサモンにある提案を持ち掛け、オサモンはそれを快諾。

 シヴは審判として闘技大会に参加する事が決まった。


(後でナインハルトにゃ謝んねーとな……。)

 闘技大会は今日より七日後。

 大会の行われる前日に来ると約束し、シヴはティオの町を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ