オウル試験を見学します④
ナインハルトの執務室に通された俺達は、ナインハルトからの謝罪を聞いていた。
「改めて数々の非礼を詫びます、貴方の力量すら見抜けなかった私をお許し願いたい。」
「別に気にしてねーよ、しかしなんでまたあんな芝居までして希望者を追い返してたんだ?」
町によっては、クロウどころかオウルすら使い捨て感覚の所もある。危険な町程、金目当てに腕自慢が集い、そして死んでいく。
そういう町はオウルを増やす為に、ギルドの用意した家に定住させてまで人員を補充しているのだ。
「五年前の魔族との和平協定を知っていますか?」
「ああ、今の王がまだ王子だった時のやつな、知らない奴の方が少ないだろ。」
「そうです、その少し前まで、私はダコタの町でオウルをしていました。」
ダコタの町といえば、魔族の国の王都に一番近い町で、魔族との争いが最も激しかった場所だ。
あの町でオウルをするというのは、簡単に言ってしまえば戦争の傭兵になるという事だ。
「あの町にいたのかおまえさん、で?」
「ダコタでの日々は勿論楽なものではなかったのですが、それでも私は人類の希望の為に日々、精進していました。」
戦争と言っても冷戦状態で、魔族側も人類側もお互いに大規模に攻め入るような事は無く、過激派が近くの村や町を襲って略奪行為をしていたくらいのもので、魔族の国境から離れている町は安全だった。逆に国境に近付くにつれ、魔族に出くわす確率も上がり、週に一度は討伐依頼が上がる程危険だ。
ダコタは特に、何が引鉄で熱戦になるかはわからないので、監視の役割も含め、重要な町だったのだ。
「ダコタに集まる理由がどうであれ、例え犯罪を犯して逃げて来た者であろうとも、寝食を共に過ごせば友と呼べるような人間にも出会います。私が魔族に殺されかけた時、その命を落としてまで救ってくれた者もいました。オウルが増え、打ち解けたと思えば死んで減る。その繰り返しでした。」
「そういう町だったからな、あそこは。半端な奴は墓を増やしに行くだけだが、そういう奴に限って行きたがる。」
「そう……ですね、言葉を選ばなければその通りです。気付けば私は、ダコタで一番古株のオウルになっていました。しかし、そんな日常に疲れを感じていたある日、私は一人の青年と出会いました。その青年は、オウル達の墓の前で静かに独り、佇んでいました。」
シヴはヒルダに出されたお茶を飲みながら、続けるよう手振りで促す。
「誰も墓参りなんてしない町です、余りにも死ぬ中で、皆慣れてしまっていた。誰かが死んだ時に埋葬しに来るか、その時の私のように、死体が見付からなければ墓標に名前を追加しに来るだけ。それ以外に人は来ない。そんな墓の前でその青年は泣いてくれていました。」
そこまで聞いて俺とキイの目が合った。その男が誰なのか俺達は知っている。
「話の腰を折ってすまんのじゃが、その男、上から下までピンクの服を着ておらんかったか?」
「ぶーーーーっ!」
キイが質問した瞬間、シヴがお茶を噴き出す。
「な、なぜわかったのです!? その通りです、その青年こそが人類史始まって以来続く戦争に、和平による集結をもたらした、現王でした。」
実は俺達もその時王子に会っている。
確かあの時は……。
「僕ねえ、お墓見たら悲しくなって泣いちゃった。こんなバカげた事はもう終わりにしないといけないよね~?」
とか何とか言ってたなそういえば……。
「うむ……、や、まあ良い。それで、その後どうしたのじゃ。」
「は、はい、町に第三王子が視察に来ているという話は聞いていましたし、王からの命令で一切の護衛は不要とも通達されていました。第三王子は大変なうつけで、王家の唯一の汚点だから、王は王子が視察中の事故で消えてしまうのを望まれている、というのがダコタでもっぱらの噂でした。ですが私は、うつけと言われる現王のその時の姿に心打たれ、そんな人物であろう筈がないと確信したのです……。気付けば私は駆け寄り、自分の現状を話し、王子の護衛をさせてもらえないか、と懇願していました。その時、現王がこう仰ったのです……。」