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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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旅、やめます

「シヴ、キイ、二人に言っておきたい事があるんだ。聞いてくれるか?」

 当てもない旅をしている中、立ち寄った町の宿で、俺は仲間の二人に話を切り出した。

「なんだよ? 何か大事な話か?」

 シヴが頬杖をついてこちらを睨む。

 普段はだらしないおっさんなんだが、時折見せる眼光は相変わらずの鋭さだな。


「うん、凄く大事な話だ。」

「一体どうしたのじゃ改まって。」

 もう一人の仲間、エルフのキイもグラスを置いてこちらを見た。


「俺は旅をやめようと思う。この町に残るつもりだから、この先も旅を続けるなら俺はここに置いて行って欲しい。」

 二人は俺にそう言われ、しばらく固まっていた。

 やがてシヴが手に持った酒をゆっくりと置いて、俺の目を見据えて言う。

「……は?」

 反射で出る様な声を、わざわざ間を取って言うくらいには理解出来ていないようだ。

 対照的に、キイは特に顔色を変えずに黙ってこちらを見ている。特に何か言おうという事も無いみたいだ。


「いやまあ、やめるやめないは自由だとは思うんだがよ、それにしても唐突過ぎるんじゃねーか?」

 黙っている俺にシヴが呆れた口調で言った。

「それは悪いと思っている。けど、実はかなり前から考えていた事なんだ。」

 そう、これはあいつと別れてからずっと考えていた事だ。

 相談していなかったのは悪いと思うが、俺の考えに賛同してくれるかはわからないし、やめろと言われる事も考えられる。だからぎりぎりまで言わない事にしていた。目標にしていた資金も貯まったので、今日から実行に移す、それだけの事。


「理由は聞かせてくれねえのか?」

 酒を注ぎながらシヴが聞いてくる。話だけは聞いてやる、そう言われた気がした。相変わらずキイは黙ってこちらを見つめたままだ。


「この町で家を買って、定住しようと思う。これまで無闇に探し回ってたけど、すれ違ってるかもしれないし、居るか居ないかわからないあいつを探して回るより、あいつが見つけてくれる方が可能性があると思ったんだ。それなら帰って来た時に家があった方がいいだろ? おかえりって言ってやれる家が。」

「ふん、そんなこったろうな。」

 多少はシヴ達だって同じ事を考えた事があるはずだ。それっぽい噂を聞いては訪ね歩く、そして空振り。その繰り返しだったからな。


「ごめんシヴ、今まで散々迷惑かけたのに最後までこんな事になって……。」

 そう言った時、それまで静かに話を聞いていたキイが口を開いた。

「アレン、ワシは怒っておる。」

「ああ、キイもごめんな。勝手過ぎるのはわかって……」

「違うのじゃ、お主が旅をやめる事はどうでも良いのじゃ。何ならワシもここでお主と一緒に残っても良い。ワシが怒っているのはそこではないのじゃ。」

「そういうこったぜアレン。俺もだがよ、キイが怒ってんのはな……」

「何故これまで黙っておった?」

「って訳だ。」

 二人の視線が突き刺さる。



「いや……、その……、俺が勝手に考えた事だし、今は一緒に頑張ってるけどその内旅やめるつもりでいます。なんて言い出しにくくてさ……。だって失礼だろ?」

 それを聞いてキイとシヴは深いため息を吐く。しかし、キイはすぐに相好を崩して言う。


「アレン、ワシ達はこれまでどんな時も苦楽を共にしてきた仲間じゃろう? 信用できぬのか? 思い付いた時に話してくれていたとしても、理由が正しければワシらがそれを咎めたりなどするものか。むしろ何故お主があんなに節約していたのかの方がわからなくて気持ち悪かったのじゃ。」

「そうだぜ、もっと早く話してくれてりゃよ……。」


 空のグラスに酒を注ぐシヴに、俺はおずおずと尋ねる。

「話してくれてりゃ……?」


「もうちーーーっとばかり安い酒にしてたよな、毎日。」

「ふふ、それはよい。ワシも、そうじゃな、食事のスープぐらいは我慢したかもしれんな。」

「それじゃあ二人とも……。」

「もちろん、反対なんかしねえよ。そう言う事なら俺達もここに住むぜ。いいだろ?」

「うむ、ワシも一緒に住まわせてもらうぞ、お主らだけでは家がすぐにゴミだらけになってしまいそうじゃ。」



 気付けば俺の頬には涙が流れていたのだが、そんなのどうでも良かった。

 ただただ、嬉しさと申し訳なさで胸がいっぱいで言葉が出なかった。

「泣くんじゃねえよ男がそんなことでよ。」

「まあまあ、良いではないか。明日から今までとは別の方向で忙しくなるしの、今日は廃業記念日じゃ、潰れるまで飲むとしよう。」

「よし、じゃあ続きはアレンの部屋でやるとしようぜ。」


 その日、宿は俺の部屋だけ朝まで灯りがついたままだった。

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