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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一話:天才魔術師とダークエルフの姫
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7.この俺が計算を間違えるとは

 オベウスの長い一日が始まった。

 まずは街中を戻り、通路へ隠した〈探査車一号〉を回収。

 人目につかないよう地中を掘ってアジトへ戻り、鉱業区へ通じる地下トンネルの途中から農業区へ通じる地下トンネルを生やし、合流用の道を作る。


 続いて、〈イーネカイオンの牙〉の協力者の手引きで本日出荷分の魔石へ罠を仕込む。

 さすがに厳しい検査が行われているので、並の罠は仕込めない。

 が、彼の罠は例外だ。精密な偽装が施されている。


「……ひどい有様だな」


 罠を仕込むため鉱山の内部へ潜入し、奴隷たちの姿を見たオベウスが、思わず漏らす。

 痩せ細って死にかけた者や、全身に鞭で打たれた傷跡の残る者、うつろな目つきで宙を眺めているもの……奴隷たちの姿が、この鉱山で行われてきた非道を物語っている。


「エルフたちの支配を跳ね除けなければ、未来永劫この地獄が続いていく。それだけは許すわけにはいかぬ」

「……イーネカイオンは、解放を願う祈りの声を聞いた、と言っていた。確かに、この有様は……祈るほかに手はないか」


 オベウスが、流れ作業のような手早さで次々と魔石に罠を込める。

 それは魔石による時限爆弾だ。明日の朝、奴隷たちが決起する時刻にちょうど爆発するよう仕組まれている。


 手早く作業を終えて、二人は探査車一号に乗り鉱山から引き返す。

 その最中、オベウスが話を切り出した。


「……ところでエアナ、一つ聞いておきたいことがある」

「なんだ、オベウス?」

「この都市が月面に位置しているのは、もちろん知っているよな」

「知識としては。外など見たこともないが」

「なら、エルフは何処から来たんだ?」

「地上に通じる転移魔法陣だ。地下都市だけでは作れない物もあるから、ときおり姿を隠した人々が最低限の交易を行っていたのだが、それがエルフに気取られた。侵略が始まって一日も経たず、平和だったクィンドールは一瞬で制圧されたそうだ」


 助手席に座るエアナが、俯いたまま静かに語る。

 すでに奴隷風の服は脱ぎ、そこそこ豪華な貴族じみた服へ着替えた後だ。


「……昔の話を続けてもいいか、オベウス?」

「聞こう」

「それまで国を率いていたダークエルフの王は、エルフの国の貴族シルドルと結婚させられた。実質的な権力はシルドルが握ったが、それでも最初は善政が敷かれていたと聞く。奴隷制も無かった。……それに何より、私が生まれたのだから。二人の仲は良好だったはずであろう?」


 彼女は自らの両手を見下ろした。

 その褐色肌は、他のダークエルフたちと比べてわずかに明るい。


「だが、やがてエルフの国が要求する魔石の採掘量が跳ね上がっていき、ダークエルフとエルフの仲は分断され……」

「戦争か?」

「戦争にすらならなかった。シルドルは国王を暗殺し、大規模な粛清を行い、ほとんどのダークエルフを奴隷身分に落とし……同時に、私を軟禁して外の世界から隔離した」


 彼女は遠くを見つめて、その首を横に降った。


「……私を軟禁した後も、よく母が話に来たよ。農場を視察してダークエルフとエルフが仲良くしているのを見たとか、ダークエルフとエルフの技術者が協力して都市内の空気を製造する魔術システムを改良したとか……そういう内容の事を、たくさん聞かされた」


 エアナが拳を握りしめる。


「母の顔は、みるみるうちにおかしくなっていった。やがて、全てが作り話だと気付いたよ。外で何が起きているのかも分かった。……女王シルドルを救う方法があるなら、それはたぶん、彼女の死のほかにない」


 彼女の手は、わずかに震えていた。


「私は母さんを救いたい」

「なら、救え。膳立ては俺が整えてやる」

「……感謝する」



- - -



 鉱山から引き返したオベウスは、更にアジトからの通路を採掘していく。

 市街地の要所、そして王宮地下の転移門に向け開通する寸前まで通路を作る。

 ……ただし、王宮地下からの奇襲を行うのはオベウス一人だ。

 警備の最も厚い場所に元奴隷たちを送ると、無駄に被害が大きくなる可能性がある。


 それから、彼は武器の密造に使われていた工房を借りた。

 足りない設備を探査車一号から引っ剥がした部品で補いつつ、探査車一号のドリルを動かしていた魔石を次々と武器へ埋め込み、即席の魔剣を大量生産した。


 加えて、特に大型の魔石を使って〈魔石爆弾〉を作る。

 〈エクスプロージョン〉の術式と、それが発動されるギリギリの状態まで魔力を充填された魔石によって作られる簡易爆弾だ。

 普通はクズ魔石を使うので威力が低いが、大きく品質の高い魔石ならば必殺の威力である。……もっとも、高品質な魔石を爆弾に変えるのは、それこそ金のインゴットや宝石をまるごと爆弾に変えて吹き飛ばすような無駄遣いなのだが。

 オベウスは気にせず淡々と魔石爆弾を製造した。


「ふう……徹夜仕事か。いつものことだな」


 ようやく彼が一息つけた頃には、すでに夜が明けて朝日が登ろうかという時間だった。

 朝日とは言っても、もちろん地下都市クィンドールの人工照明だ。


「オベウス!? こ、この武器はなんだ!? 持つだけで力が湧いてくるぞ!?」


 工房に入ってきたエアナが何気なく剣を手に取り、動揺しながら言った。


「短期決戦用の魔剣だ。魔石に込められた魔力を全て引き出し、持ち主の強化に使っている。切れ味も名剣に負けない」

「……こんな武器を一日で量産できるのか、お前は? とんでもないな」

「所詮は粗製乱造品だ。何もせずとも十時間程度で魔力が切れる。激しい切り合いを繰り返せばもっと早くダメになるだろう。大したことはない」

「十時間もあれば十分だ。これなら女王の兵が持つ剣よりずっと強い。勝てる」

「どうだか。ここの魔石採掘量は並外れていた……とんでもなく魔力を食う化け物兵器が出てきてもおかしくない。なるべく引き受けるつもりだが、油断はするなよ」

「していないさ」


 エアナが魔剣を置き、貴族風の優美な長衣をはためかせながら、オベウスに寄った。


「……作戦決行の時間まで、まだ余裕がある」


 オベウスの手の甲に、柔らかな指が触れた。


「その……」

「あいにくだが時間に余裕はない。物資を運搬し、必要な者に魔石爆弾の使い方を教えるだけで、すぐに決行時間を迎えるはずだ」

「そ、そうか」

「あと。俺はまだ子作りする気はない」

「んな!? ……そ、そうじゃない! ただ、早朝の街を歩かないか、と……」


 エアナの褐色の頬に、いくらか赤みがさした。


「む。見誤ったか。この俺が計算を間違えるとは……」

「大間違いだ! いくらなんでもそれは進展が早すぎだろ、ばか!」


 エアナはくるりと踵を返し、部屋の外へ出ていった。

 が、いったんドア枠の外に消えたあと、戻ってきてドア枠から顔だけ覗かせる。


「……改めて。もし私達が生き残ったら、一緒に散歩でも行かないか、オベウス」

「”もし”は要らない。お前も、俺も、ダークエルフたちも、生き残る。生き残らせる」

「そうか。信じていいんだな、オベウス?」

「ああ。お前が窮地に陥ったときは、必ず助けに行く」

「……信じるからな。言ったからには助けに来いよ……」


 目を逸らしながらエアナがそう言って、ドアの陰に引っ込んでいった。


「……演技なのか本気なのか、どのぐらいの段階なのか。まったく分からん」


 オベウスが呟く。

 人と触れ合わず魔術へ没頭してきた天才ゆえに、彼は恋愛感情に疎い。


「だが、約束は守る」



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