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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一話:天才魔術師とダークエルフの姫
6/21

6.いいだろう。その覚悟を無駄にはしない

 素掘りの薄暗い地下室に、沢山のダークエルフたちが集まっていた。

大きな円卓を囲み、入り口から入ってきた二人へ視線を向けている。

部屋の隅には木箱が積み上がり、中にあるのは手作りらしき武器の山だ。

地下組織〈イーネカイオンの牙〉の本部である。


「エアナ姫! と、そちらの……協力者のかた。どうぞお座りください」


 奴隷服の上からコートを着たエアナと、相変わらず黒ローブのオベウスが、案内された席へ着く。


「……ご無事で何よりです、エアナ姫。これで我々の反乱に正統性が生まれます」


 壁にかかった地下都市クィンドールの地図を背に座る、リーダーらしき青年が言った。

 堂々とした振る舞いだ。けっこうなカリスマを感じさせる。


「わたしはワシュー、〈イーネカイオンの牙〉の指導者です。いえ、元指導者、と言うべきでしょうか」


 ワシューがエアナを見た。


「事前の決定通り、この瞬間を持って私は暫定指導者の立場を降り、エアナ姫に指揮権を委ねるものとします」


 ワシューが円卓を見回した。異論を唱えるものはいない。


「では、エアナ姫」

「うむ。……ごほん」


 彼女は少し気取った、姫様風の声を作り、短い演説をはじめた。


「この地下都市クィンドールは、本来、我々ダークエルフのものだ! 魔石を搾取し続けるエルフ共を……」


 ……所信表明を兼ねた、士気を高めるための簡単な演説だ。

 オベウスはこれを聞き流しつつ、部屋の隅の手作り武器へ注意を向ける。


「ひどすぎる」


 彼は呟いた。遠くから見るだけでも粗悪品だとはっきりわかる。

 単純に木を切り出して糸で結んだだけの、素人が作ったような弓。

 ろくに精錬もされていない不純物だらけの鉄を鋳造した、重くて脆い剣。

 いくら物資の足りないであろう地下組織とはいえ、さすがに酷い代物だ。

 月面の地下都市という狭い環境に閉じこもっていたこと、加えて奴隷化までされたせいで、武器作りのノウハウが消え去ってしまったのだろう。


「……我らが守り神イーネカイオンは、今も空から我々を見守っている! ここに座る地上の魔術師オベウスは、イーネカイオンが直々に遣わした使者である! この反乱が天意であり、我々こそが神の加護を受けているという証拠だ!」


 エアナが、演説でオベウスに触れた。

 円卓の視線が彼に集まる。


「本当に、イーネカイオンがこの……目つきの悪い者を遣わしたのか?」


 誰かが言った。反論しようとしたエアナを制し、オベウスが立ち上がる。

 そして、〈ファーサイト〉の魔術を行使した。


『ほう? 無事にクィンドールへ侵入したか、オベウス。この者たちは?』

「〈イーネカイオンの牙〉。反乱を起こそうとしてるダークエルフたちの集まりだ」

『我の牙? ふふ。なんとも愛らしい名前のつけかたよな』


 円卓の上にイーネカイオンの姿が映し出される。

 ダークエルフたちが、呆然とファーサイトの魔術を見つめた。


「おお……」

「これが神の御姿か……」

「……言い伝えは真実だったのか……これなら……」

『こそばゆいな。……彼らを死なせるなよ。任せたぞ、オベウス』

「ああ。任された」


 ファーサイトの魔術を切り、オベウスは円卓を見回す。

 誰もが彼を崇拝していた。神の使徒か何かのように扱っている。

 ……オベウスは今すぐ真実を告げたい気分だった。星渡りのイーネカイオンは神ではないし、俺もそういう存在ではない、と。あの竜は宇宙の旅人であって、神ではない、と。

 俺も、竜も、それを崇拝しているお前らも、おそらくそれほど変わりのない生物なのだ、と。


(神だとか、そういう存在へ寄りかからずに済むなら、それが一番いいんだが……けれど、全員が全員、誰にも頼らず生きられるわけではない。妥協するしかないな)


 演説の続きを促そうとすぐ隣のエアナを見た。

 そして気づく。

 エアナにだけは、その視線に崇拝の色がない。


「……お前は崇めないんだな」

「女王も、私も、ただの人だ。イーネカイオンも多分、ただの竜なんだろう」


 他に聞こえない程度の囁き声で、彼女は言う。

 

「それでも、誰かが背負わなければいけない。自分を犠牲にしてもな。……だが、”自分を大事にしろ”と言ってくれたのは、嬉しかったぞ」

「誰かが犠牲にならなければいけないのか?」

「なに?」

「奴隷を解放しようという人間が誰かに縛られるのでは本末転倒だ。違う道もある」

「違う道? ……私には、この道しかない」


 そして、エアナは演説を再開した。



- - -



 エアナの演説が終わった後、〈イーネカイオンの牙〉の詳細な反乱計画が共有された。

 まずは彼らのアジトと鉱業区の間に掘ったトンネルを使い、鉱山の奴隷たちに武器を渡して解放する。

 それから奴隷たちを率いて農業区に向かい、これを解放。

 増やした兵力を使い、市街区を突破し、森林区へ繋がる隠し通路から王宮の裏へ回り込み、一気に雪崩込んで女王の首を討ち取る。


「本気か?」


 オベウスが思わず呟いた。


「他に手があるか?」

「……もっとマシな計画はあると思うがな」


 彼が隣のエアナに告げて、円卓の反対側へ視線を動かす。


「聞かせてくれワシュー、反乱が成功する確率はどれぐらいだと見積もっていた?」

「イーネカイオンの加護があれば、可能性はある、と思っていましたよ」


 カリスマを感じさせる堂々とした口調で、ワシューが言った。


「つまり、ほとんどゼロだな」


 ぶった切られて、ワシューが苦笑する。


「せめて、鉱山で採掘した魔石をちょろまかそうとは思わなかったのか?」

「我々に魔石を活用するノウハウはありません。魔術師も少ないですから」

「……支配者側は、大量の高品質魔石を蓄えてるんだぞ? その意味は分かるだろう」

「ええ、分かりますよ。途方もないほど強い武器やゴーレムに王宮が守られているのは」


 彼は机に手をつき、身を乗り出した。


「しかし、勝算が無いからといって隷属し続けるべきではない。女王シルドルの圧政は酷くなる一方。ならば。奴隷労働の果ての犬死より、誇りを持ち刃を抱えて死ぬべきだ」

「俺を扇動する必要はないぞ、ワシュー」

「……失礼。つい」

「だが、背景は分かった。ここにいる者は、みな命を捨てる覚悟でいる。そうだな」


 そうだ、と口々に返答が飛ぶ。


「いいだろう。その覚悟を無駄にはしない」


 オベウスは言った。


「一日で計画と武器を用意する。強敵は俺が引き受けてやろう。代わりに、女王はお前らが自らの手で討ち倒せ。自分の尻は自分で拭くものだからな」



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