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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一話:天才魔術師とダークエルフの姫
3/21

3.確かに俺の出番らしい

 どごん、とやや乱雑に〈オベウス一号〉が月面へ降り立った。

 オベウスは肩に海賊旗を担ぎ、意気揚々とエアロックから外へ出る。

 半透明なシールド越しに青い惑星が見えた。


「……そういえば、故郷の惑星を指す固有名詞がない。地上、とでも呼ぶ事にするか?」


 月の地面へかけた簡易なハシゴを降りた彼は、地面に海賊旗を突き立てた。

 そもそもが自ら作ったクレーターである。間違いなく領土主張の権利があった。


 足元のきめ細かい砂を手で掬い、魔力の含有量を確かめる。

 地上のそれよりも明らかに多い。はっきり魔力が感じ取れるほどだ。


「期待できるな」


 オベウスは呟いて、低重力に四苦八苦しながらクレーターの中をうろつく。

 クレーターの表面はつるつるとしていて、ガラスのような質感だ。

 爆発の圧力で変質した痕跡だろう、と彼は推測する。


 歩いているうち、彼は斜面の中程に魔石がごろごろ転がっているのを見つけた。

 不審に思い、魔石を手にとって検分する。


「魔物由来の魔石だな……月の魔物か! そうか、魔力があれば魔物は湧いてくる!」


 純粋な魔法生物タイプの魔物なら、月面上でも存在しうるはず。

 オベウスの頭にあったその仮説が、期せずして証明された。


「にしても、何故魔石が転がって……ああ。俺が殺したのか」


 巨大なクレーターを作り上げるほどの威力を持った〈対消滅魔力砲〉の一撃で、周囲の魔物が瞬時に死滅したのだろう。

 純粋な魔法生物は必ず魔石を持ち、死んだ瞬間に魔石だけを残して消滅する。

 魔術的な存在ゆえに、物理的な死体は残らないのだ。


 これら魔石が中心に転がっていないのは、爆風で中心から吹き飛ばされたせいだ。

 四方に吹き飛ばされた魔石がクレーターの斜面に囚われて転がった結果、斜面の中ほどに魔石が集中した、ということになる。


「後で集めるとするか」


 彼は魔石をその場に残し、シールドに穴を開け空気の反動で一気に飛び上がる。

 クレーターの淵から平地へ上がったオベウスは、足元から伝わってくる高温に気づく。

 ……月の一日は長い。太陽がずっと同じ場所を照らすため、月は昼と夜の寒暖差が激しい。昼間には百度以上だし、夜はマイナス百度以下だ。

 現在、このクレーター付近は昼間にあたるので、外は極めて高温な環境である。


「〈クリエイト・ウォーター〉。〈フリーズ〉」


 水を冷却する〈フリーズ〉の魔術とクリエイト・ウォーターを組み合わせ、オベウスは靴底に氷の層を作りあげる。無事に足元の熱さは消えた。

 そして、周囲をぐるりと見回す。

 白銀の地表にポツポツと、地表に原生しているらしき魔物の姿がある。


「興味を惹かれるな」


 彼は周囲をさまよい歩き、目に入った魔物へ片っ端から電撃を放った。



「ふむ。月の砂から作られたゴーレムの魔物か。足が細いな。低重力下に適応したか」

 白銀のゴーレムが〈ライトニング〉の一発で吹き飛び、魔石が残る。

「……地上のゴーレム型をした魔物よりは強いな。魔力が濃い影響か」



「ウサギ? ……月に兎が住んでいる童話には、元ネタがあったのか……」

 妙に素早いウサギが、これまた一発で吹き飛ぶ。焼けた死体が残った。

「死体が残ったな。大気のない環境でも、肉体を持つ魔物は存在するか。興味深い」



「ほう? これは……蟻地獄か? 地上とほとんど姿が変わらないな」

 月の砂から頭を出した巨大な蟻地獄へ、ライトニングを一発。もちろん即死である。

「これも死体が残るか。ふむ……」



「む! 岩石のゴーレム! 地上の似た種と比べて、サイズが五倍近いな!」

 山のような巨体を持ち、周囲に魔力を放射する巨人が、彼の前に立ちふさがった。地上に出現したなら大災害扱いされるような魔物を、やはり一発で吹き飛ばす。

「おお、この魔石は良いぞ! 国宝級だ! 使える!」



 研究サンプル集めと魔石の収集を兼ねて、オベウスが気ままに魔物を討伐していく。

 と、いきなり。

 ぐわあ、と周囲に風が吹き荒れて、月の砂が舞う。

 強大な魔力の余波だ。出処はオベウスではない。


「ドラゴンだと? あの肉体は流石に空気がなければ維持出来んだろう」


 地上の竜とよく似た巨体が、月の上空を飛んでいた。

 オベウスを注視しながらぐるぐる回っている。

 彼もまた、竜を注視した。その翼は、ソーラーパネルとよく似た青色をしている。


「光に含まれる魔力を取り込んでいるのか? だが、とても魔力の供給量が足りるとは思えない。何らかの未知の手段で魔力を賄っているはず……くう、気になる!」


 オベウスは瞳をキラキラ輝かせながら、竜の勇姿を見上げる。


『ほう。それが気になるか。あいにく、我にも分からんのだがな』


 威厳のある声が、オベウスの脳内に響いた。


「喋った……いや言語じゃない、テレパシーか! 魔力の波に意思を乗せてるな!?」

『いかにも。我は〈星渡りイーネカイオン〉、宇宙を遍歴する旅人だ。ひとつ尋ねたい。あのクレーターを作ったのは、貴様か?』


 月の地表とよく似た白銀色の竜が、オベウスの眼前に降りた。

 そこではじめて、彼はこのイーネカイオンと名乗る竜が地上のそれより遥かに巨大な事に気付く。

 その背は大聖堂よりもずっと高く、とてもではないが人間の敵う相手には見えない。


 だがオベウスはまったく恐怖せず、より目を輝かせて巨体を見上げている。

 好奇心。それは魔術師たちを未知の領域へ挑ませる原動力であり、研究者が必ず携える武器でもある。オベウスもまた好奇心豊富な男であった。


「そうだ」

『貴様は何者なのだ?』


 イーネカイオンは首をもたげ、オベウスのすぐ近くに顔を持ってくる。

 その顎から覗く牙の一本一本は、人間よりも遥かに大きい。


「オベウス。天才魔術師だ」

『天才か。ふふ。なるほど相違ないのだろうな、あれほどのクレーターを作る男だ』


 イーネカイオンは、なんとなく柔らかな表情でオベウスを見ている。

 わりかし好意的のようだ。


『その腕を見込んで頼みがある。地下都市〈クィンドール〉のダークエルフたちを救い出してはくれないか』

「地下都市に、ダークエルフだと?」


 地上では、太古の昔に迫害されて全滅した、とされているエルフの一種だ。

 圧倒的な力で世界を暴れまわったオベウスですら見た事のない、伝説の種族。


「ダークエルフがこの月の地下に住んでいるのか? どういうことだ?」

『あれは少し昔の話だ……そう、我がこの星系に辿り着いた直後のこと。この月のすぐそばにある青い惑星に降り立った我は、迫害されていた彼らを庇護したのだ』

「……だが、状況は好転しなかったのか」

『うむ。他の民は我を恐怖の象徴とみなし、共通の敵に仕立て上げてな。迫害はさらに強まってしまった。我は旅人であるがゆえ、いつまでも守り続けるわけにもいかぬ』


 オベウスは頭の中で知識を掘り返し、あるエルフの神話へ思い当たった。

 邪竜イネカイムと闇の民。邪悪な彼らは光の民たるエルフの輝きを嫌い去っていったが、世界が終わる時にやがて戻ってくるだろう、という内容の神話だ。

 名前が訛っているのは、エルフですら世代交代するような長い時を経た証拠だろう、とオベウスは推測した。


『そこで、我は彼らを新天地に運んだ。この月へな。そこに地下都市を作らせ、我は旅を再開したのだが……戻ってきてみれば、地下都市はエルフの手によって支配されているようでな、ダークエルフは奴隷に落とされ、再び迫害を受けているというのだ。あまりに忍びない話ではないか。助けてやりたいが、大きさが違いすぎるゆえ、我は手出しできん』

「エルフの手で……。経緯が気になるな。確かに俺の出番らしい」


 オベウスは頷いた。


『報酬も出す。我が出せるものなら何でもくれてやろう。黄金であろうが魔石であろうが、我ならば他の星からいくらでも採れるでな……』

「報酬か。そうだな、俺を乗せて宇宙を飛んでみてくれないか?」

『正気か? 我は……それこそ文字通り、財宝の山を用意できるのだぞ』

「財宝の山ぐらい、自分の力でいくらでも積める。星々を渡る竜に乗るような経験ができるなら、黄金よりもずっと価値が高い。だろう?」

『おもしろいことを言う人間だ。お前がそれを望むのなら、我に口を挟む権利はないな』


 〈星渡りイーネカイオン〉は興味深そうに微笑み、わずかに頷いた。


『地下都市クィンドールは、あの山の直下にある。ダークエルフたちの希望で地上に入り口は作っておらんはずだから、穴を開ける必要があるだろうな』


 イーネカイオンは巨大な瞳を動かして、遠くの山を見る。


「……入り口すら無いなら、なぜエルフが支配してると分かったんだ?」 

『祈りが聞こえてくるのよ。救世主を待ち望む祈りの声がな。……後ろ髪を引かれる、というやつだ……これを見捨てて、次の星系へ旅立つわけにもいかぬ』

「祈り、か。なるほど」


 オベウスは杖を地面に突き立てて、山を睨む。


「ちょうどいい。奴隷にされたダークエルフを解放し、誰にも祈る必要のないほどまっとうな都市へ作り変えてやろう。月面基地を設営するなら、人手は多いほうがいいからな」



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