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天才魔術師のファンタジック銀河ハーレム無双  作者: 鮫島ギザハ
第一話:天才魔術師とダークエルフの姫
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2.俺の道は俺が開く

「ふん。変態教皇め。敵に回す人間を間違えたな」


 コックピットの窓から青い惑星を見下ろして、オベウスは呟いた。

 シートベルトを外し、ふわりと船内に浮き上がる。


「宇宙船オベウス一号、周回軌道に到達。計算通りだ」


 にやり、と笑みを浮かべ、彼は空中で寛いだ姿勢を取った。


「地上の様子を見てやるか」


 空中でくつろいだ姿勢を取りながら、彼は〈ファーサイト〉の魔術を発動する。

 〈オベウスの塔〉もとい宇宙船オベウス一号が建っていた山に群衆が集まり、未だにぽかんと口を開けたまま、上空を眺め続けている景色が見えた。

 何が起こったのか理解している人間はいない。

 一般市民のなかには、いまだに世界平面説を信じているような人間も混ざっているほどだ。有人宇宙飛行の概念を知っているはずもなく。


 彼は〈リリジア教〉の本拠地、教皇庁へファーサイトの対象を移す。

 ビラを見て集まった暴徒たちが、警備の神兵たちと押し合いを繰り広げていた。

 暴徒の中には、騎士団の人間や優秀な冒険者も混ざっている。


「おっと」


 いよいよ勢いに押し切られ、暴徒の波が教皇庁内部へ押し寄せた。

 ……腐敗した宗教家たちは、今日中にでも処刑台へ送られるだろう。

 入れ替わった権力層もいずれ腐敗するのだろうが、少しはマシになるはずだ。


 意図した通りの結果を見届けたオベウスが、にやりと満足気にうなずいた。

 彼はファーサイトを止める。軌道上から超遠距離に繋いでいるせいで、かなり猛烈な勢いで魔力が削られるものだから、いつまでも見ているわけにはいかない。


 彼は空中に浮かび上がったまま、無数のスイッチが並んだコンソールを叩く。

 〈グラヴィティ〉の魔術による人工重力が発生した。

 くつろいだ姿勢のまま、オベウスがコックピットのシートに落っこちる。


「さてさて。船外活動の時間だ」


 彼は身にまとった黒いローブを確かめた。いかにも魔術師風な格好だ。

 物理的に密閉するタイプの宇宙服を、彼は未だ作っていない。

 かわりに、ローブへ込めた魔術的な防護手段をフル活用する気でいる。


 コックピットを後にして、二重のスライドドアを経由し居住区画へ進む。

 小型のお掃除ゴーレムが部屋の中を走り回り、埃を拾い集めていた。

 そこを除けば、意外なほどに普通の居間だ。殺風景ですらある。


 部屋を素通りし、彼は狭い通路に設けられたエアロックへ進んだ。

 ローブの裏地に刻まれた緻密な魔法陣を起動する。

 体の周囲へ、空気すら遮断するほど強力な〈シールド〉が展開された。

 フォース・フィールドと同じく、より効率化された結界である。

 通常の結界は密度が薄く空気を通してしまうのだが、これは研究の末に密度を高めることに成功しており、真空中にあっても気密を保つことができる。


 加えて、彼は〈クリエイト・エアー〉の魔術を放つ。

 単に空気を作るだけの初歩的な魔術で、地上ではさして役に立たない。

 そのわりに難しいのであまり見向きされない魔術だが、宇宙に出れば生命線だ。


 オベウスはシールドの気密を確かめ、エアロック内を減圧する。

 水蒸気の凝結した雲を発生させながら、空気が隅へ吸い込まれていった。


「よし」


 扉を開き、宇宙船オベウス一号から外の真空へ飛び出す。

 彼は宇宙に身を投げ出した。


「……すばらしい景色だ」


 ほんの一瞬だけ、オベウスは宇宙遊泳を楽しんだ。陰気な鋭い瞳が感動に輝いて、いくらか彼の印象を和らげる。

 彼は研究者であり、未知を愛しているのだ。

 視界いっぱいに広がる惑星や星々のスペクタクルが、その瞳の中に反射する。


 (宇宙を見た事はあるが、実際にこうして宇宙を泳ぐと感動的だな)


 そんな思いを巡らせながら、彼は宇宙空間を漂った。

 十分に満喫した後で、宇宙船の中ほどへ取りつく。

 移動方法は、シールドに小さな穴を開け、空気を噴出させた反動だ。

 頑丈なハッチを外して、中に折り畳まれたパネルを引き出した。


 青色に輝く翼のような形状のパネルが、オベウス一号の両端から伸びた。

 彼が〈ソーラーパネル〉と名付けた、光に含まれる魔力を集めるための設備だ。


 当然だが、宇宙空間には空気がない。空気に含まれる魔力も存在しない。

 だが、太陽の光に含まれた魔力は問題なく届く。

 そして、月光も。この月光こそ、彼が宇宙旅行を決心した理由である。


「満月の日に、魔力は最も強くなる。古代からの常識だが」


 彼はその常識を更に突き詰めて研究し、ある可能性を思いついた。

 月が魔術金属、あるいは多量の魔力を含有する結晶……つまり、〈魔石〉で構成されている可能性だ。

 そこへ太陽の光が当たり反射することで、光が月の持つ高濃度の魔力を運んでくるのではないか。

 だとするなら、月で採掘を行えば、非常に高品質な魔石を確保できるのではないか?


 ……そして彼は天才の頭脳をフル活用し、採掘の手段を考え抜いた。

 結果が、この宇宙船。オベウス一号である。

 これは外装が魔術金属で作られているため、〈シェイプシフト〉などの魔術的な手段で容易に解体することができる。

 宇宙船をそのまま宇宙基地の資材に再利用し、魔術金属や魔石を採掘し、一回り大きな宇宙船を製造する。それがオベウスの計画だ。


 彼はソーラーパネルの展開後、コックピットへ戻る。

 魔力の供給量を示す計器が動いていた。


「上手くいったな」


 ひとまず、宇宙でどこへも行けずに餓死する心配はなくなった。

 魔力さえ供給されているならば、大体の問題は解決できるのだ。

 ……魔術を自在に操る人間なら、宇宙に進出するのはそれほど難しい事ではない。

 と、オベウスは思っている。実際はともかく。


「寝るか」


 周回軌道に乗せた時点で、宇宙船に蓄えた魔力はほとんど使い切っている。

 月へ向かうためには魔力が足りない。というわけで、オベウスは寝室へ向かった。


「……寝れん」


 宇宙にいる、という事実に頭が興奮し、彼はまったく寝付けなかった。

 ベッドに寝転がっているうちに、彼の想像がどんどん広がっていく。


 月面基地を設営し、高品質な魔石を大量に確保し、本格的な宇宙船を建設し、星系内の他の惑星を探索し。それから長距離転移術を研究して瞬間移動で別星系へ飛び立ち……。


 彼は寝室の窓から星々を眺めながら、無限の可能性に思いを馳せた。

 魔力がある場所には必ず”魔物”が湧いてくるのだから、想像もつかないような形態の魔物が存在するのではないか、だとか。

 故郷の大地に住む様々な種族のほかにも、知能を持つ種族がいる可能性だとか。

 あるいは、一星系にとどまらない領土を持つ星間国家が存在している可能性も。


「……これからが楽しみだ」


 寝付くには興奮が高まりすぎた彼はベッドから飛び起きて机にかじりつき、〈パルス・エクスプロージョン〉式推進エンジンの図面を眺めて改良しはじめた。

 魔導の怪物オベウスにも、人の心はある。



- - -



 それから数日後。

 コックピットに座ったオベウスが、タイミングを見計らってスロットルを押し込んだ。

 この宇宙船の後部ノズルに並ぶ無数の魔法陣が、ミリ秒の単位で次々と〈エクスプロージョン〉を放つ。

 その反動を受けてオベウス一号が加速し、月へと向かう軌道に乗る。


 さらに数日後。

 頭を反対方向へ向け事前に計算したタイミングで再びスロットルを開き、速度を落として月の周回軌道へ。

 飛びたい場所に予め魔法陣を置いておかないかぎり、長距離の転移術は使えないので、こうして地道に宇宙を飛んでいくほかない。


「さて。どこに降りるか」


 地上からの観測では、流石のオベウスも月地表のデータを集める事は不可能だった。

 ファーサイトの魔術も見たい場所へ事前に術式を設置しておく必要があり、こういう場合には使えない。


 コックピットに座ったオベウスが窓の外を睨む。

 太陽に照らされ、月のでこぼことした地表が白銀に輝いていた。

 ……着陸に適したクレーターの跡は点在しているのだが、軌道とズレていて完璧な場所がない。


 オベウスが腕を組み、ピンと来た様子で悪い笑みを浮かべた。

 シートベルトを外し、寝室から杖を持ち出し、エアロックから外へ飛び出す。


「地上では自重してきたが!」


 彼の全身を濃密な魔力が巡り、巨大な術式が練り上げられていく。

 風など吹くはずの宇宙空間にも関わらず、彼のローブがはためいた。

 自らの魔力が生み出した余波である。


「ここでなら!」


 彼は巨大な杖をくるりと回し、月の地表へ向けた。


「全力全開の一発が撃てる……!」


 杖の先端が眩く光る。


「〈対消滅魔力砲〉!」


 二条の光線が地上へ伸び、着弾点が鋭く光る。

 衝撃波と共に、凄まじい爆風が月を奔った。

 白銀の粉塵が天高く舞い上がる。


 その爆心地が、ゆっくりと後方へ流れていった。

 二時間少々で月を一周してしまうほどの超高速で周回軌道を回っている以上、当然だ。


「これでよし」


 オベウスは船内へ戻り、無重力下での魔術実験をして暇を潰した。

 ……月を一回りして、再び爆心地が視界に入る。

 着陸するのに最適な、広く大きなクレーターがぽっかりと口を開けていた。

 その上空には未だ粉塵の雲が滞留しているが、船にシールドを張っていれば支障はない。


「無いなら作れ、が俺のポリシーだ。俺の道は俺が開く」


 彼はオベウス一号のスロットルを操作して、自らが作り上げたクレーターへと降りていった。



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