やきそば
僕の地元は何もない。若者にとっては不便でつまらない場所なのだろう。家からコンビニは車で五分、スーパーはおばあちゃんがやってるこじんまりとした店が近くにあるがドンキのように品揃えはよくない。
その退屈で不便な生活の中で、犬のマルの散歩をするのが小さな幸せだった。マルは僕と似たのか気分屋で毎回散歩コースは気まぐれに誘導されるがままに歩くのだった。唯一地元の自慢は綺麗な海岸だった。波の音はいつも違う感情を伝えてくる。今日は穏やかで優しかった。平日は本当に誰もいないのだが今日はどこかで見たことがあるような、懐かしい背中がいた。
すぐにでも声をかけようと近づいたが、彼女は小さく肩を震わせて泣いていた。マルはとても彼女に懐いていて無我夢中で走って行ってしまった。そこで彼女は僕の存在に気付いて無理矢理くしゃっと笑顔を見せてきた。僕はいつものようになにも気付いていないふりをして近付いた。
「ひさしぶりだな」
「ひさしぶりだね」
昔はこんな会話するなんて思っても見なかった。2人の時間の中で少し壁ができていたみたいだった。マルは変わらず尻尾を振って嬉しそうだった。
「変わらずここで働いてるの?」
「そう、やっぱり地元が1番好きでさ。」
「私もね、今日帰ってきちゃった。やっぱり東京は合わなくて」
そんな会話をして僕たちは時間を取り戻そうかと思うくらい話をしていた。
「今週花火大会があるんだね、彼女といくの?」
「あるわけないだろ、こんなんで」
と2人は笑い合い、花火大会に行くことになった。
僕達の関係は、近所に住む幼馴染。僕はずっと彼女が好きだったが気持ちを伝えることもできず、彼女は上京してしまった。風の噂で彼女は彼氏がいて結婚棒読みなどと聞いていたのでこの誘いは複雑な気持ちでいっぱいだった。真実を聞くこともできず、花火大会当日を迎えた。周りはカップルや家族連れで溢れていて僕たちもいつかそんな関係になれないかと妄想してしまっていた。隣にいる彼女は笑っていたが時折悲しい顔をする。僕はずっと彼女をみていたからわかるんだ。まだ誰かを思って悲しい思いをしている。どうしたら笑ってくれるかそんなことばかり考えていた。
花火は僕の声を掻き消すかの様にどんどん打ち上げられた。僕は彼女に届かない声で、こうしてずっと僕の隣にいてほしいと願った。
花火が終わり、人がどっと駅に向かい流れていく中僕たちは地元ということもあり人がひけるまで待つことにした。彼女は冷めた焼きそばを食べながら、
「久々にこんなに笑った、ありがとう。」
とくしゃっと笑った。そして
「こんな私に隣にいてほしいと思う?」と呟いた。
僕は恥ずかしくなって彼女の手を強く握った。
今彼女の中にいる男には敵わないかもしれないけど、ずっと彼女の隣にいることはできる。
いつか僕に向けて笑ってくれる様に僕は今日も君のそばにいるよ。