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冬怪談

魚心あれば水心

今日、もし私という人間に歴史書が存在すれば、さぞや輝かしい一ページが加えられたであろう。


ついにマイカーを買った。


子供のころには永遠に来ないのではないかと考えていた社会人という立場も、いつの間にやら早二ヶ月。


元より欲しい欲しいとは思っていたが、もはやこの歳を迎えると欲しいというより必要になる。


仕事の先輩や上司からも「何買うつもり?」と、もはや買う事前提で話が進むことも度々あり、それならばと、休日に雑誌やインターネットで前評判を確認し、名だたる日本の販売店へと足を運んだ。


でも、勢いがあったのはここまでた。


正直、色々調べている時点で薄々勘づいてはいたのだが、認めたくなかった事実が一つある。


高いのだ・・・。


当然ローンを組んで分割払いにすることを前提に計算したが、それにしたって高すぎる。


結局、ノルマに追われたディーラーの期待の眼差しを直視することができず、逃げるようにして退店した。


しかし、幸運はここからだった。


重な休日を潰してしまった、そんな後悔に苛まれながら帰路についていると、視界の片隅にありえないものが飛び込んできた。


小さな中古販売の傍に10万円というとんでもない価格プレートを付けたSUV、しかも明らかにほぼ新品である。


私は日よけの下であくびをしている店主に突撃し、詳しい事情を確認した上で、晴れてマイカーを購入することとなった。


これで話が終わればなんとも嬉しいことなんだが・・・。


実は、傍から見ればなんら問題が無いように見えるこの車は、人によってはどんなに安くても絶対に買いたくないと思えるちょっと変わった代物だ。


もちろん。タイヤはしっかり四つ付いてるし、ラジコンとかいうオチがあるわけでもない。


加えて言えば、車体には傷や凹みは全くないし、手入れも非常に行き届いている。



じゃあ、一体なんなのか?



確かに車自体には何ら問題はなく、問題があるのは若干スピリチュアルな部分。


まぁ、要するに、出るらしい。


半透明だったり、人型だったり、足があったりなかったり、時にはテレビから出てきたりと大忙しなあの夏の風物詩が・・・。


端的に言ってしまおう幽霊だ。


つまり、僕が買ったのは事故車両だ。


信じる人、信じない人、もはや飯のタネにする人、世の中にはいろんな考え方の人がいるけれど、

 

買っちゃうくらいだから分かるだろう、僕は全く信じていない。


まぁ確かに、事故車ってのは事故物件とかと違って足が付かないから、めったなことではいわく品として扱われない。


例えば、マンションで首つり自殺なんかが起こった日には、事故物件として家賃でも安くしなきゃ借りてくれる人なんていやしない。


でも、車の場合はそうではない。


遠出して地方の中古販売店にでも売り付ければ、それは事故車ではなく中古車として扱われ。


そして、なにも知らない人がその車を買えば、これまた事故車ではなく中古車として扱われる。


探せば事故物件は結構見つかるのに、事故車ってものが見つからないのはこれが理由だろう。


では、そんな汚い中古車販売の闇を押しのけ、私の買った車が事故車として扱われていた理由はなんなのか?


それは簡単。


車を買った人間の内全員が後部座席に女の幽霊を見たと返品を訴えたからだ。


店主も商売だから、そんな理由で返品されては困ると最初は文句を垂れたそうだが、それなら金は要らないとまで言われる始末。


しかも、そんなことが計3回も続いたもんだから流石に不気味に感じ、返品無しを条件として格安で販売していたらしい。


そして、そこに現れたのが僕だったわけだ。


まぁでも、出会いは確かに最悪だったが乗り心地は最高だった。


というのも実は既にテストドライブを済ませている。


アクセルもブレーキも感度は良く、ハンドルのステアリングも柔らかかった。


正直、人生最高の買い物じゃないかなと思ったほどだが、残念なことに確かに幽霊はでるようだった・・・。


ミラー越しに後続車の確認をしようとしたら、真っ白い服着た髪の長い女の人が後部座席に座ってるのがチラッみえるのだ。


最初は気のせいかと思ったが、それが何度も続いたから間違いないだろう。


ただ、不思議な事に僕にはこの女の幽霊が悪い霊には見えなかった。


実際に運転を妨害するような真似はしないし、ただそこに居るだけ。


実害があるとすれば、女座っている座席が濡れていることだけだった。


僕は一度家に引き返し、ブルーシートを引っ張り出してきて後部座席全体に引いて運転を再開してみた。


すると、ピタリと幽霊の存在が消えてしまったのだ。


僕はなんだか悪いことをした気持ちになったが、とりあえずブルーシートを片付けようとトランクを開いた時、驚愕した。


濡れている。


どうやらブルーシートはどうしても嫌らしい。


「幽霊に気を遣うのも何だけどこれは流石に可哀そうだな」そう思った僕はブルシートをトランクに敷いて再度幽霊が後部座席に戻れるようにしてあげた。


案の定、運転を再開すると幽霊は再び姿を現した。



お尻の下にブルーシートを忍ばせて。



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