第2話 S級魔法 ③
私もこの世界に行きたい。
自室に戻り例の如く《ディスペルフォース》を張った俺は、ペンダントを手にもう何度目かになるセインとのやり取りを繰り広げていた。
「だから、俺はチート持ちじゃなかったのかよ!」
「知りません! そもそもチートってなんですか!」
ミストに冒険者カードを見せた時に俺の魔力がそれほど高くないということを知った俺は、食事をすぐに済ませて自室でセインに尋問していた。
しかしやはりと言うべきか、セインは相も変わらずロクな説明をせず、それどころか「知らない」との一点張りになる始末である。お陰様で一向に話が噛み合わず、お互いにヒートアップするばかりとなっていた。
「このポンコツ女神! お前どうやったら役に立つんだよ!」
「ま、まだ女神じゃないです!」
もはや本来の目的を失い、ただただ訳の分からない言い争いに熱を注ぐ。そんな俺はもちろん外の足音になど一切気を向けておらず、近付く存在には微塵も気が付いていなかった。
──コンコン。
突然聞こえたノック音に、一気に肝を冷やした俺は慌てて未だ熱を持って『そもそもその身体は……』なんて声を出し続けるペンダントを両手で握り、ベッドに押し付けて必死に音を殺す。
だが、状況を飲み込めていないアホな声は殺しきれず、僅かに漏れてしまっていた。そんな中──
「ミラちゃん、入るよー」
扉の前に立つシルヴィアから死の宣告が下された。これは本格的にヤバい。セイン、早く黙れ。
しかし俺の願いもバカには届かなかったようで、その声が沈む前に扉が開かれてしまった。
「……何してるの?」
「の、伸び!」
俺の格好が先に目に入ったのか、確かに傍から見ると奇妙なポーズを取っている俺は、シルヴィアの問いに、これまた訳の分からない誤魔化しの返事を返してしまった。
俺がシルヴィアの立場なら、このミラという女に多大なる不信感を抱いていることだろう。さて、どうやって……。
「肩凝ってたの? 分っかるー! ミラちゃんちょっとおっきいもんねー!」
えっ。
……どうやら「伸び」の一言で誤魔化せちゃったらしい。
疑う心がないのか、はたまた単純なおバカなのか、あるいは俺の誤魔化しが上手すぎたのか。いずれにしろシルヴィアは共感の表情で駆け寄ってきては、俺の背後に回り込んで肩を揉んでくる。
……あ、これ気持ちいい。シルヴィア、マッサージ上手い。
不意に訪れた気持ちよさに、まるで整骨院に行っているような気になって完全に油断してしまっていると。
「やっぱりミラちゃんのおっぱいすごい!」
そんなことを言ったシルヴィアの手は、いつの間にか肩から胸の方に忍び込んできていた。
胸を揉まれる、という未知の感覚に一気に心臓の鼓動が早くなるが、あまりに慣れてなさすぎる状況のせいで、ただただ混乱してされるがままになってしまっている。
気付けばシルヴィアの顔は俺の肩の上に乗せられてあり、背後からくっつかれているせいで、シルヴィアの俺よりも大きい胸が背中に押し付けられている。
中身が童貞で思春期の俺には何とも耐え難い状況となってしまっていた。
ヤバい。何とかしないといけないけど、もうちょっとこのままで居たい気もする。
しっかりしろ、俺。いくら女の子にべったりくっつかれているとはいえ、女の子としてじゃれ合うなんていいのか。
いいや、よくないだろう。俺は本当は男なのだ。
そう、俺は男なのだ。だから──
俺はこのまま流されることにした。
男なら誰しも女の子にくっつかれたいものだろう。
嫌いな子ならまだしも、そうでないのに女の子を振り払う男なんて、それは男ではない。
しかもこれは向こうも合意の上なのだ。むしろ向こうから仕掛けてきているのだ。
ならば、何の問題もあるまい。
そんな決心を下した刹那、「あっ!」と声を上げたシルヴィアが俺から離れ。
「ついつい夢中になっちゃったー! ごめんねー!」
……マジか。
おいおいシルヴィアさん、生殺しですか。
いくら何でもそれはちょっとキツいぞ。
というかさっきまでの懸命に弁明していた俺が本当に嫌になる。ただただ羞恥が残っただけじゃないか。
「あれ? ミラちゃん怒ってる?」
「怒ってないよ」
「そっかー! 良かったー!」
首を振りながら短く答えた俺はきっとこの上なく素っ気なかっただろうが、それでもシルヴィアは無邪気な笑みを浮かべていた。
俺の大人気ない返しにもそんな笑みを浮かべていては、生殺しにされてちょっと苛立っている自分が、果てしなく子供のように思えてきてしまう。
「そうそう。私ミラちゃんに勉強教えてもらいたくって! それで来たんだー!」
俺の気なんて知る由もない少女が、今も元気な声で、随分遠回りした本題をようやくぶつけてくる。
しかし唐突な話だ。勉強教えて、と言われたのなんていつぶりだろうか。いや、そもそもあったか?
「勉強?」
「そう! 勉強! ミラちゃん魔法使いってことは頭いいんでしょ?」
ああ、そういえば魔法使いにはそれなりの知力も必須だったか。
そう考えると確かに知力が高いと見られるのだろうが……。
正直この世界において何が知力を左右するのかなんて分からないし、元の世界の知識がここでどれほど役に立つのやら。
そもそもよく考えてみれば、元の世界でそれほど賢くなかった俺がなぜ魔法使いになれるほどの知力があったのやら。これもティナの仕業だったりするのだろうか。
「私ね、ずっと頑張ってきたんだけど最近上がらなくなってきちゃって……。もうちょっとで魔法使いの水準に達するのに。そしたらミラちゃんが来たから……!」
「……分かった」
いつの間にか俺の口は勝手にそう答えていた。期待の眼差しに応えたくなったとか、勉強教えてと頼まれたのが初めてで嬉しかったとか、そんな理由ではない。そう、そんなことは断じてない。
俺の返事を聞いたシルヴィアは、とても嬉しそうにして、今にも飛び跳ねそうな雰囲気で喜んでいる。
何を教えたらいいのか、とか不安なことは山ほどあったが、シルヴィアの元気な顔を見ていると、不思議とネガティブな気持ちは薄れていく気がした。
職業No.1
名 称:戦士《ウォーリア》
練 度:基本職
比 率:10%
得意な属性:近接・防御
苦手な属性:遠距離・魔法
ミスト所見:
男の人だと、盗賊の次になりやすい職業で、僕の職業でもあるね。
The・前衛職で、主に剣などの武器を使った近接攻撃を得意としているよ。
防御力も基本職の中では騎士に次ぐ高さで、パーティに必ず1~2人は居るね。
生活魔法以外の魔法は使えないけど、その代わり立ち会いに便利なスキルをたくさん覚えるよ。




