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異世界転生って性別も変わるんですか?  作者: 幻影の夜桜
やはり俺の性別は間違っている
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第2話 S級魔法 ①

「異世界転生って性別も変わるんですか?」

の略称考えてます。


いいの思いついたら感想でもDMでも、Twitterでも、どうぞご提案ください。

『……ん。……ちゃーん。……て。ミラちゃーん! 起きてくださーい!』


 朝っぱらから耳障りな声が聞こえてくる。その声がペンダントからだと分かった俺は、そのペンダントを仰向けのままいつものクセで当てずっぽうに叩いた。……が、その声は止まらない。


『寝ぼけてないで! ほら、ミラちゃん! 早く早く!』


 何度叩いても止まらないので、とにかくその音を殺そうと俺は布団の中にそれを埋めた。そして身体で押し付け、周囲の空気の振動を極限まで抑える。


『ミラちゃん! 何してるんですか!』

「いい加減その呼び方はやめろ!!」


 ミラちゃんミラちゃんと立て続けに言われた俺は、とうとう我慢出来なくなって反応を示してしまった。

 大きな声を出してしまった俺はすぐに冷静になって起き上がり、ドアを開けて周りを確認する。

 お風呂からもシルヴィアの部屋からも物音は一切聞こえない。少し肝が冷えたが、幸いにも聞かれなかったようだ、と信じたい。

 少しドキドキしながらも扉を閉めた俺は、念の為、音に合わせた《ディスペルフォース》を張っておいた。


「で、何の用だよ」

『用?』

「えっ。何か用があったから起こしたんじゃないの?」

『えっ。朝だから起こしただけですよ? あ、あと私のこと目覚まし時計だと思ってバシバシ叩くのはやめてください』


 コイツ、いっそ叩き壊してやろうか。


 しかし起きてしまった手前、二度寝するのもなんなので、俺はペンダントを首から下げて一階に降りることにした。


「あ、ミラちゃんおはよう。結構早いんだね」

「まあね……」


 本当は学校でもない限りはもっと遅くに起きるのだが、わざわざ言う必要もないので朝に強いことにしておいた。

 というかミラちゃんって本当に恥ずかしいし、ミストの場合は悪気が無いのが余計に困る。


 出迎えてくれたミストは朝食を作ろうとしているらしかった。まだこれからのようで、何も出来ていない。


「いつもミストが作ってるの?」

「うん。二人は遅いし、そもそも作れないからね」


 なるほど。言われてみれば、確かに二人ともまだ自室にいるのか、居間には出てきていなかった。起きているのは俺とミストだけのようだ。


「ところでミラちゃん、料理はできる?」

「うーん、簡単なものなら」

「ほんとに? じゃあ悪いけど、ちょっと手伝ってくれないかな」

「うん、いいよ」


 何気ない会話だが、だからこそ神経を尖らせて慎重に話す。「俺」なんて言おうものなら一貫の終わりだからだ。


 ちなみに料理については、親の仕事柄よく一人で家に居ることが多かったので、いつの間にかそれなりには出来るようになっていた。

 頭にレシピが入ってなくても、ネットなどで検索すればまあ大体の料理はそれなりに作れる。


「卵焼ける?」

「うん、できるよ」

「じゃあお願い。そこに備え付けのポーチがあるから」


 そこ、と言われた台所の隅に行ってみれば、確かにポーチの入り口が存在している。

 そういえば昨日ミストから教えて貰った時に聞いたっけか、《ポーチ》は市販のものもあるって。これがそうなのだろうか。

 中に手を入れるとひんやりとしていた。どうやっているのかは分からないが、おそらく冷蔵庫の役目を果たしているのだろう。

 そこから卵を取り出し、ボウルに割ろうとしたところであることに気付く。


 髪が邪魔だ。これは衛生的にも束ねないといけないのではないだろうか。

 俺はポーチから、昨日買っておいた髪留め用のゴムを取り出す。一応と買っておいて良かったが、もちろん髪なんて結んだことはない。


 だが、俺は今、女の姿なのだ。


 きっと「女の子としての行動は本能的にできるようになってます」みたいな感じで行けるはずだ。


 *   *   *


「はい、こんな感じかな」

「あ、ありがとう……」


 できなかった。どうやら女にするだけしておいて、アフターケアをするつもりは毛頭ないらしい。

 結局散々な結びになっていたところで、見兼ねたミストに助けてもらったのだ。

 というかこいつマジで何でもできるんだな。なんで他人の髪()えるんだよ。


「いいえ。でも勿体無(もったいな)いね。結んでも可愛いのに」


 ……えっ。

 何。今俺可愛いって言われたの?

 一瞬何気ない会話だとして流してしまいそうなくらい自然に言われたんですけど。


 少し動揺しながらもミストを見てみると、あの爽やかスマイルでこちらを見ていた。これ、中身男じゃなかったらそろそろマジで堕ちてるんだろうな。


「あ、ありがとう……」

「うん、じゃあ再開しよっか」


 もちろん可愛いなんて言われたことのない俺は、こんな時になんて言えばいいのかなんて分かるはずもなく、とりあえずお礼のセリフを言っておいた。それを聞いたミストは何事も無かったかのように調理作業に戻る。

 俺も少し動揺を残しつつも、調理を再開することにした。


 改めて卵を割って、ボウルの中でといていく。横目でチラッとミストを見ていると、どうやら味噌汁を作るつもりらしい。

 それにしてもこのミストという男には欠点という欠点が存在しないようだ。顔も性格もいい、会話も上手いし料理までできる。

 そんな姿を元の世界の俺と比べては軽いショックを受けつつも、なるべく考えないようにしながら卵を小さなフライパンらしきものの上で火を通す。


 何気なく作ってはいるが、実は自分で卵を巻くのがうまいと勝手に思っている。

 だからちょっと褒められるんじゃないか、なんて子供じみた期待を胸に持つ俺が心のどこかにいたのだが。


「すごく上手だね。美味しそう」

「あ、ありがとう……!」


 食器の用意をしながらこちらをチラチラと見ていたミストに早々に褒められる。

 ああ、やっぱりこの男は天才だ。我ながら単純な話だとは思うが、すごく嬉しい。


「ウインナーも頼んでいいかな?」

「もちろんっ!」


 褒められたことで一気に機嫌がよくなった俺は、ミストの頼み事に元気に答えて同じフライパンにウインナーを転がした。


 簡単に火を通していると、味噌を溶かしていたミストが作業を止めず、鍋の方を見たまま。


「ミラちゃん、ちょっと提案があるんだけど」

「ん、提案?」

「うん。ミラちゃんまだほとんど魔法は覚えてないよね。だから習いに行かないかなって」


 突然そんなことを言ってきた。

 しかし、それは俺も早いうちに解決しなければいけないと思っていたことだ。どうすればいいのかから探っていこうと思っていたが、その工程を飛ばせるのなら非常に助かる。


 しかし、習うとはなんなのだろう。


「習うって、学校とか行くの?」

「ガッコウ?」


 あ、これやってしまった時の反応だ。

 つい反射的に魔法学校みたいなものを想像してしまったのだが、この世界にそんなものは存在しないらしい。


「えっと。シルヴィが《魔法使い》になりたがってるのは覚えてる? それで、シルヴィがそれになれた時に教えてあげてほしい、ってお願いしておいた友達が居てね。他の人だとお金かかっちゃうし。僕もさすがに生活系以外の魔法までは覚えてないから」


 えっ。魔法って習得にお金かかるものなの?

 だとしたらこのミストの提案は非常に助かる。正直一人でやれる気もないし、金だってない。ここは友好関係まで完璧なミストさんに頼ることとしよう。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「うん、決まりだね。それじゃあ早い方がいいし、今日のお昼に行こうか」

「分かった!」


 そうして俺たちが昼の用事を取り付けたあたりで、ちょうど盛り付けも終わった。

 すると朝の匂いにつられた一人の男がゆっくりと部屋から出てくる。騎士を目指す無職のエルヴァだ。


「おはよう、エルヴァ」

「おっ。ミラはアイツと違って早いんだな」


 声をかけられて俺の顔を見たエルヴァは、眠そうにしながらも誰かと比較してそんなことを言った。


「アイツ?」

「シルヴィのことだよ。起こしてくるね」


 比較対象はシルヴィアらしい。確かにまだ唯一寝ている人物だ。

 横で聞いていたミストは通訳してくれると、そのまま2階の方へと上がっていく。


「シルヴィっていつも遅いの?」

「遅いも何も、ちょっとやそっとじゃ起きねぇな」


 1階に残ったエルヴァから、シルヴィの朝の弱さを聞かされる。結構深く眠るタイプなのかな。

 うーん、しかしわざわざ起こしに行くとは。この世界にはアラーム的なものはないのだろうか。そう思った時だった。


 ジリリリリリリリリリリ……!!


 突然、俺がかつて聞いたことのないほどのけたたましい非常ベルみたいな爆音が鳴り響く。


「な、なに!! なにごと!?」


 何か緊急事態かと思って慌て、かと言って何をしたらいいかも分からず混乱しながらエルヴァを見ると、なんと平然として水を飲んでいる。


「ちょ、ちょっとエルヴァ! 何を呑気に!」


 耳を手で塞いでもまだまだうるさいその音に耐えながら必死にエルヴァに語りかけるが、全くもって相手にされない。


 そうしているうちにようやく音は鳴り止んだようで、耳を刺激する音が消えたことを確認すると、崩れるように床に座る。そして改めてエルヴァに何事かを聞こうと見てみると、耳から何かを取り出していた。


「……それ、耳栓?」

「ああ。俺はディスペルフォースは使えないからな」


 いや、そういう話をしたいんじゃない。


「そ、それより今の聞こえなかったの?」

「あ? 知らないのか? この耳栓、音耐性のディスペルフォースとほとんど同じ効果のモノだぞ」


 いや、だからそういう話をしたいんじゃなくて。耳栓は確かに気になるけど今はどうでもいいんだって。


「警報だよ、警報! 何が起こってるの!?」


 それを聞いたエルヴァは「えっ」と声を漏らして驚きの表情を見せる。

 やっと分かってくれたか。そう思ったが、どうやら分かっていなかったのは俺の方だったようだ。


「ミストから聞いてないのか? アラームだよ。警報じゃなくて、アラーム」

「えっ?」

「なんだ、本当に聞いてないんだな。シルヴィだよ。あいつは朝に弱いなんて次元じゃない。まず自然に起きるなんて天地がひっくり返っても有り得ないし、起こしに行っても身体を叩くどころじゃ一向に起きる気配はない。だからあのレベルのモノじゃないと起きないんだよ。今度からは、お前もディスペルフォース張っとけよ?」


 エルヴァがシルヴィアに関する衝撃の事実を語り終えたところで、「おはよー」と欠伸をしながら、当の本人がミストと共に階段を降りてきた。

 そして何事も無かったかのように、まだ寝たいとでも言いたげな顔で水を飲みに行くシルヴィアを、俺はただ呆然と見つめていた。

魔法紹介

識別コード:N01

名   称:ポーチ

属   性:無・生活

難 易 度:E級

シルのメモ:

全魔法の中で一番簡単な生活魔法だよ!

これが出来てから持ち運びがすっごく便利になったんだ!

冒険者はもちろん、民間人にも広く知れ渡ってる魔法だよ!

最近では物置みたいに使う市販の据え置き自動発動型ポーチも開発されてるね!

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