第6話 猪突豨勇 ①
6/11から始まったこのお話。かれこれ11日には半年が経過します。皆様のおかげです。ありがとうございます。
シルヴィアとエルヴァをミストに任せた俺は現在、ギルドまでの道をずーっと歩いていた。
かれこれ十分。家からギルドまでは今の俺の足ではおおよそ三十分ほどかかる。地味に遠い。
いや、この交通機関が何一つ発達してない街において徒歩三十分はきっとそれなりに恵まれているのだろうが、駅まで十分スーパーまで五分の都会に住んでた俺からするとやはり不便に感じる。
『贅沢言わないでくださいよ。そんなこと言うならさっさと覚えたらいいじゃないですかか、【テレポート】』
もちろんスマホもないこの世界じゃ歩く間も暇なのでグダグダと先述したような愚痴をセインにこぼしていたのだが、珍しくキッチリとした正論が返ってきた。
【テレポート】なあ。
【テレポート】というのはみんなも知ってる転生魔法である。
この世界の【テレポート】は無属性A級魔法にカテゴライズされるのだが、それは極めて特殊な魔法とされていた。
一般的に魔法は発動箇所や動作のベクトルを決め、そうなるように魔力を使う。
このとき発動箇所にしろベクトルにしろ、その場所に、あるいはその向きに力を込めれば基本はできる。
だが【テレポート】には根本的にそれがない。魔力の場所や流れなどが関係ないのだ。
それゆえ手袋の有無が関係ない魔法でもあるのだが。
【テレポート】は転移する物や人全体に魔力を馴染ませ、それごと異次元空間を経由して飛ばすとか本には書かれてあったが、ぶっちゃけ全く意味が分からない。
なんとなく感じたままやってみたこともあったが、手応えすら掴めなかった。
ちなみにA級魔法のうち、唯一例外的に【テレポート】だけは街中での使用が許されていたりする。
「こう、分かんないんだよな。感覚が」
『うーん。感覚あるはずなんですけどね……』
何を言っとるんだ貴様は。無いに決まってるだろ。
……うーん。しかし一刻も早く使いたい魔法ではあるんだよな。
俺は足元に落ちていた小石を拾ってそれに魔力を込めてみる。
『そ、それじゃ魔力で吹っ飛ぶだけです! もっと包むように。クレープみたいに』
「包むでいいよ! 変な例え出すな」
セインの分かるような分からないようなアドバイスを受けながら小石を転生しようとするが、まあやはり上手く行かない。
そして【テレポート】の練習に夢中になるあまり、全く不注意になってしまって。
「うわっ!」
「きゃっ!」
角で誰かと派手にぶつかってよろめいた。
よろめいた、で済んだのは、ぶつかった相手が小さな女の子だったからだろう。
「ご、ごめん。大丈夫?」
横向きに倒れる金髪の女の子に手を伸ばす、近くには大きな水瓶も転がっていた。
「す、すみません。私の不注意で」
「いや、こっちこそ悪かっ……」
『どうしましたか?』
少女に返す言葉が詰まったことでセインが首を傾げた。
詰まった理由はただ一つ、その少女の容姿だった。
年の頃は十歳かそれくらいだろうか、綺麗なブロンドヘアに包まれた顔はまだ年相応のあどけなさが残っているが、しかし丸くくりっといた青い瞳は思わず見入ってしまうほどに可愛く、美しかった。
一言で言えばいわゆる金髪碧眼ってヤツだが、生で見るとこんなにも可愛いものなのか。
「だ、大丈夫でしたか……?」
「えっ?」
その少女の心配そうにした顔から放たれた一言でようやく我に返る。
しかしこの世界に来てすぐなら緊張でまともに話せなかったんじゃなかろうか。
「ご、ごめん。全然大丈夫。そっちこそ、怪我はない?」
「は、はいっ。幸い」
そういった少女はさりげなく右肘を左手の中に隠した。健気で可愛い。
「見せて?」
「う……は、はい」
バレた少女は申し訳なさそうに左手をどけると、その右肘には少しヒドめの擦り傷があった。
骨がどうこうという話では無さそうだが、水瓶を持つのは辛いかもしれない。
「うわぁ……ごめんね? とりあえず応急処置しよっか」
「ご、ごめんなさい」
「い、いや。こっちも不注意だったから……」
謝る様子も可愛いな、なんて思いながらまず水で土を流し、それから小さな袋を取り出して、中に魔法で生成した水と氷を詰めた。それを当てて冷やしてやる。
「その水瓶、君のだよね? どこに行くところだったの?」
「え、えっと……。教会へ……お水を……」
「お水?」
教会へお水?
……あ、そういえばここは水道なんてものは無い世界だったか。
たしか教会では無料で水を提供してもらえるんだったな。
うちの場合は俺という水魔法使いが居るために必要なく、それ故に行ったこともないのですっかり忘れていた。
……水だよな。
「……お水、出そうか? ぶつかっちゃったお詫びも兼ねて」
「い、いいんですかっ!?」
少女の顔がパァッと明るくなる。ヤバいこれ、妹にしたい。
そしてそんな超可愛い女の子は嬉しそうにしながら水瓶を拾いあげて抱える……が。
「いっ……!」
さっき擦りむいた肘が痛んだのか、水瓶を落としてしまった。
というかこんな大きな水瓶、普段から持ち歩いてるのかな、気の毒になってきた。
「えっと。よかったらそれ持っていこうか?」
「えっ……こ、これからご予定があるのでは……?」
一転また申し訳なさそうにしてこちらを見上げてくるが、それすらもすごく可愛い。
「まあ、ないと言えば嘘になるけど……それ運ぶくらいならどうってことないよ?」
「う……で、では、お言葉に甘えて……」
まだ遠慮がちな様子だったが、肘の痛みもそれなりにあったのか、俺の提案に乗っかってきた。
「じゃあ行こっか。家はどっち?」
「あっちです」
俺が歩いてきた方を指さす少女。ギルドとは逆方向か……まあ仕方ない。




