第5話 最高の食卓 ⑤
なんと先日「逆流性食道炎」と診断されました。
最近体重が増えてきていたので、これで一安心です。
「マジか」
今朝あれだけ必死に助けが欲しいと顔を焦りで埋めつくしていたおっちゃんが、今はその顔を阿呆のようにポカンと目と口を大きくあけてこちらを見ていた。
その原因は言うまでもないだろう。
「聞いて! ミストの作戦すごかったんだよ! それにミラちゃんの魔法も! あとエルヴァのナイフも!」
作戦成功以来ずっとテンションの高いシルヴィアが店内の人達にあれやこれやと語っているが、店の人達は話の内容が頭に入っていないようだ。
「にしてもアホだろお前。魔法解除する前に出たらそりゃ寒いに決まってんだろ?」
「ちょ、ここでは言わない約束だったでしょ!」
シルヴィアの様子を見ながら完全に油断していたところへ、エルヴァからのキツい一言。
帰り道に散々釘を刺したのにこれだ。
俺はエルヴァに怒鳴った後、慌てながら店内を見渡しみるが、どうやらこっちの話に耳を傾けてる人など居ないようだ。みんなミストの持つヨミーマウスに目が釘付けである。
「あの……食事の準備は大丈夫なのですか?」
あまりに呆けてばかりいる店員達に痺れを切らしたミストがそう言うと、店内の人達は顔をハッとさせて準備を再開した。目の前の依頼人も同じように反応すると、傍に居た二人に指示してソノヒダケとヨミーマウスを回収させた。
「いや、申し訳ない。私としたことが、ヨミーマウスに驚き声も出ませんでした」
「僕達こそ、依頼にない物まで突然持ち帰ってしまって」
「とんでもない! ヨミーマウスを持ってこられて嬉しくない料理人なんてこの世に居ませんよ!」
控えめに出たミストを相手に、店主であろうおっちゃんがブンブンと大げさに手を振った。
そして俺の方へチラリとにこやかな視線を向け。
「いや、しかしさすがは魔王軍幹部を撃退しただけのことはある」
『えっ、そうなんですか? いつの間に!?』
そういえば勘違いされてたんだったな。
今みたく虚実が伝染していかないよう、ここは心苦しいが勇気を出すべきだろう。
「そ、そのことなんですけどね……」
「いえいえ! ご謙遜なさらずとも結構! 是非これからも頼りにさせてください!」
「は、はあ……」
無念。おっちゃんの勢いに完全敗北。後ろでエルヴァの吹き出す声が聞こえた気もするが、怒鳴る気にはならなかった。
「それで、なんですけどね。もしよろしければヨミーマウス含め、うちで召し上がってみませんか? お礼と言ってはなんですが、問題なければ明日の夜、貸切に致しますが……」
「そ、それは申し訳ないですよ」
「しかし、それではこちらこそ申し訳が立ちません。是非明日、お礼をさせてください!」
「し、しかし……」
「それに、私共もミラ様方に腕を振るった、と誇りにしたいのですよ」
何か今とんでもない一言が聞こえてきたぞ。
これ、やっぱり誤解させたままなのまずいだろう。
過度な期待をされると応えられなかった時の反動がでかい。
「私はそれほど……」
「ご遠慮なさらないでください。では明日の夜、お待ちしておりますから。あ、それとこれは本日分の報酬金になりますので」
またしても何も言わせてもらえず、報酬金を渡された俺達は、結局明日の夜にまたここに来ることになった。
料理に興味はあるが、さすがに罪悪感がすごい。
◇
現在、俺は風呂で疲れを癒しながら、一人の女に事実を伝えるか迷っていた。
『楽しみですね! 明日! ヨミーマウス、いったいどれほど美味しいのでしょうか……!』
うーん。マジでどうしようかな。
ここで乗っかれば明日の夜はきっと『期待させておいて!』とうるさいだろうし、食えないことを伝えれば今ここで、さらに明日の夜にもうるさくなるに違いない。
……よし、決めた。せめて今だけでも平穏を守ろう。
「お前、女神……の弟子なら食ったこととかないのか」
『ありませんよ。女神の弟子を何だと思ってるんですか』
ただのおバカさんだと思ってるよ。
『それに、女神業は忙しいのです。ならそれを手伝う私も忙しいのです。ミラちゃん知らないでしょう。ティナさんがいつも「仕事が増えた……」と嘆いているところを』
それお前のせいだと思うよ、多分だけど。というかほぼ間違いなく。
『……それにしても、地上はこんなに楽しいんですね』
突然セインがそんなことを言いだした。
確かに仮にも次期女神なら天界の暮らしはよく縛られるのだろう。そう考えると、今の暮らしは、よっぽど自由で楽しいのかもしれない、が……。
「俺はお前のせいで疲れっぱなしだがな」
『何を言ってるんですか。どうして私のせいなんです。……あと、そろそろ「俺」って言うのやめませんか?』
「何でだよ! そういうところだよ! というかお前は俺がずっと女っぽく振るまっててもいいのかよ!」
『はい。むしろその方が萌えます』
……。
「お前、性癖歪んでるってよく言われるだろ」
セイン(まあ、可愛い女の子が俺って言ってるのも萌えますけどね)




