第5話 最高の食卓 ③
ソノヒダケ、個人的にはすごくいい名前だと思っています。我ながらよく思いついたな、と。
……良くないですか?
「……で、何?」
「そうそう! あそこ見て! あそこ!」
ようやく落ち着いた俺がシルヴィアの指差す方を見ると、そこには……ネズミ?
「ネズミがどうかしたの?」
「ヨミーマウス! 知らないの!?」
はて、なんだそれは。
ヨミーマウス。マウスはネズミのことだろう。ヨミー……うーん。
なんかおいしいとかそんな意味だった気がするな。だとするとおいしいネズミ……?
いや、ねーわ。
「超高級食材だよ!? 世界三大珍味って言われるほどおいしくて、食べるだけでステータスも上がるんだって! これはもう仕留めるしかないよね!」
あったらしい。
というかさらっと三大珍味なんて単語が出てきたが、その一つがネズミか。この世界の不等号はチョウザメやガチョウではなく、ネズミのほうへと開くらしい。
まあいいや、気にしたら負けなんだろうな。それに興味はある。
「でも、勝手に狩って大丈夫なのかな?」
「動物は大丈夫みたい! さっき聞いといた」
なんとぬかりのない娘。
しかしそれなら話が早い。俺は【アイスニードル】で氷のつぶてを発生させる。
「あっ」
「ちょっと! ミラちゃん攻撃魔法はダメだよ!」
俺が氷のつぶての射出先を定めるより早く、そのネズミは俺の死角に入るように木の裏に逃げた。
「まだ発射もしてないのに」
「ヨミーマウスは魔法感知力がすごいんだよ! カノンさんでも間に合わないんだから!」
カノンとは歴史上たったの3人しか居ないS級魔法使いの一人であり、今生きてる中で最強の魔法使いと言われている。しかしそれでも間に合わないなんて。
「ズルくない……?」
「当たり前じゃん! そんな簡単に狩れたらこんなに希少にならないよ!」
確かに。言われてみればその通りである。
「でも、じゃあどうやって捕まえるの?」
「あのね、ヨミーマウスは寒さに弱いんだよ」
「ふーん」
現在は7月。気候はどうやら日本と同じらしいこの土地は、現在夏真っ盛りである。
「ミラちゃん、【アイスストーム】は使える?」
「うーん、使えないこともないけど」
冷気の嵐を起こす魔法。
まあ、嵐といってもそんな物騒なものではなく、ただ周囲の気温を下げるだけなのだが。
……ああ、なるほど。
「わかった?」
「うん。ちなみにどれくらいまで下げるの?」
一概に寒いのが苦手といっても度合いがある。その辺の調整もしなきゃなので聞いてみたのだが……。
「確か-20度」
「-20度!?」
俺は想定外の低さに思わず聞き返してしまった。
いや、勝手に人の基準に当てはめていた俺も悪いが、さすがに現実的でないのではないのだろうか。
そのつもりで装備をしてきたのならまだしも、俺たちは一切防寒の類のアイテムを持っていない。
それどころか今は夏。俺の服装は半袖に短パン。こんな状態でそんな温度にしたらまあ凍え死ぬ。
「さ、さすがに寒くない? 耐えられるかな……」
「えっ。【ディスペルフォース】かけたらいいじゃん」
【ディスペルフォース】便利ですね。
なるほどと手を打った俺はまず【ディスペルフォース】で二人の居る空間の耐寒力を上げる。
そして今度は【アイスストーム】を発動させるべく集中して……。
「ミラちゃんって、頭いいのにたまに抜けててかわいいね」
「う、うるさいな」
単にこの世界に溶け込めきれていないだけなのだが、それを抜けていると取られて褒められて(?)しまった。
いや、むしろこれでもかなり順応している方だと思うので許してほしい。
というか思いがけない一言で集中が途切れてしまったが、再度集中して……。
『うわっ! えっ! ヨミーマウスじゃないですか! ミラちゃん! アレは三大珍味と呼ばれていて、食べるとステータスも』
「あああああああああもおおおおおおお!!」
また肝心なところで邪魔するセインに思わず大きな声をあげてしまう。
そしてそんな様子を見たシルヴィアは、心配そうな視線を向けて。
「だ、大丈夫? 生理とか?」
「生理関係ないでしょうがあああああああああ!!」
セインとシルヴィアの区別がつかなくなった俺が盛大にツッコミを入れてネズミの方へ向きかえると、いつの間にかその姿はすっかりなくなっていた。
魔法紹介
識別コード:A63
名 称:アイスストーム
属 性:氷・攻撃
難 易 度:B級
シルのメモ:
冷気を起こすB級魔法!
分類は攻撃魔法だけど、直接的な攻撃力はないの。私は補助魔法じゃないかなあと思うんだけど……。
ただ冷気が苦手な相手には効果抜群だね!




