第5話 最高の食卓 ①
今回から、なんか変わります。
「ミラちゃん本当に大丈夫なの?」
「うん、魔力も全快したし問題ないよ」
「……いや、そこじゃなくてだな」
翌日。
魔力が全快してるからクエストも問題ないと言っているのに、何故か困り顔になるエルヴァに首を傾げる朝。
俺達は食卓を囲んで、今日どうするかを話していた。
そもそもクエストに行くつもりで居たのだが、俺の魔力云々でこうして相談という形になったのだ。
だが俺としては魔力も全快してるし、むしろあんまりクエストに行けてないことから冒険欲たるものが湧き出ているのだ。行くで問題ないだろうに。
「まあ、じゃああんまり無理しない方向で行こうか」
そんなミストの一言で意向が決まりかけた時。
「ごめんください! ごめんください!」
ドアを激しくノックする音と共にそんな声が聞こえてきた。
「ミ、ミラ様はいらっしゃいますか?」
ミストが戸を開けると、そんな男の声。どうやら俺が目当てらしい。
「私ですが、何か?」
「じ、実は……折り入ってお願いがありまして……!」
昨日の件でまた何か話でも聞かれるのだろうか、なんて考えていた俺の予想は見事に裏切られた。
というか見知らぬおっちゃんなのだが、どうして俺なのだろうか。
相当急いで来たのか、その男は乱れた息を整えながら──。
「食材の調達をお願いしたいのです……!」
そんな、訳の分からないことを言ってきた。
「食材の調達?」
「はい。どうしても力のある水魔法の使い手が必要なのです。お願いできませんか……?」
◇
──お店への道中。
「実は今晩、大人数での予約貸し切りを承っているのですが、その食材を取りに行く係の者が一日病に感染してしまいまして……」
「一日病?」
「ミラちゃん、一日病知らないの? 24時間きっかけで治る病気だよ?」
なんと分かりやすい病気。
「どうやっても治らないの?」
「うん。前兆もなくて、突然高熱になったかと思えば、突然治るの。けっこうしんどいよ?」
『あれですよ。四日ぜんそくってあるじゃないですか。あれの一日の風邪バージョンです』
四日市ぜんそくを言いたいのだろうが、無駄に混乱させにくるのはやめて欲しい。
ともかく、確かに割と面倒臭そうな病気だ。
「明け方に出たのですが、向こうでパタリと倒れてしまったらしく……。時間に余裕もなくて、冒険者ギルドに依頼をすることすらできず……」
なるほど。その食材集めにどれくらいの時間を要するのかは知らないが、仕込みのことも考えると時間もカツカツなのだろう。直接当たるしか無かった訳だ。
「ちなみにどうして前もって調達しておかなかったんですか?」
「今晩は高級なソノヒダケというキノコを扱うのです。名前の通り採取してから24時間以内に食べないと腐ってしまうものでして……」
何だかこの世界は分かりやすいなと感心していると、何の合点が行ったのか、なるほどと手を打ったミストが話の続きを引き継いだ。
「それで水魔法の使い手が必要なのですね」
「そうです。ソノヒダケについてご存知なのですか」
「ええ、少しなら」
何やら勝手に納得しているミストに意味を教えてほしそうにしていたのは、俺だけでなくシルヴィアとエルヴァも同じみたいだ。よく分かってないような表情で二人もまたミストを見つめていた。
どうやらかなりの高級食材らしい。
「それではお話が早い。引き受けてくださいますか?」
「ミラちゃん、どうする?」
ソノヒダケについて何も分からないまま是非を問われたが、まあミストの様子からして厄介なものではないのだろう。だが気になることが他にもある。
「なんで私なんですか? 何もまだひと月の私でなくても……」
疑うような口調になってしまった俺の問いに、おっちゃんはプッと吹き出して。
「またまたご冗談を。今この街では、ミラさんが魔王軍の幹部を撃退したとの噂で持ちきりですよ?」
俺は噂って怖いものなんだな、と改めて感じた。
魔法紹介
識別コード:A37
名 称:ブラインドミスト
属 性:水・補助
難 易 度:C級
シルのメモ:
集めた水を細かくして霧を起こす魔法だね!
これを使うと視界が悪くなるよ!
……ただ、自分も見にくくなっちゃうから、攻撃にはあんまり使えないかも。