第4話 魔法使いとリッチー ⑩
第4話はここで終わります。
「……分かりました。では、私達はこれで。お大事になさってください」
俺は魔法で脆くなった壁を破壊した後、帰る途中にかち合った3人のパーティメンバーに保護され、この医療施設に運ばれた。
魔力も多く消費したせいか、昼過ぎまでぐっすりと寝ていたらしい。
で、起きて少しするなりギルド職員と警察の人に事情聴取を受けていた、という訳である。
ちなみにエルヴァはほとんど無傷だったそうで、既に聴取を終えて別室で休んでいるそうだ。
「……おい、起きてるか?」
『ミラちゃんと違って、そんなずっと寝てませんよ』
フィオナ戦の際、魔法で起こすまでぐっすり寝ていた誰かが何かを言っているが、聞かなかったことにしておく。
そもそもリッチーと戦った功労者に対する労いってモンはないんだろうか。
まあいい。コイツに真面目にツッコむことがご法度なのはよく知っている。
「アイツの言ってた、殺された魔法使いってのは誰の話だ。ヴァルゴか?」
正確にはヴァルゴは行方不明者だが、暗殺ならその処理でも納得は行く。
そしてS級魔法の使い手なら、きっとアイツにダメージを与えることも可能だろう。
『うーん。否定はできませんが、さしてミラちゃんとは似てないと思うので……』
まあそれは俺も引っかかるところである。ヴァルゴの得意は無属性の天体魔法。使い方の記されなかったそれをもちろん俺は操れないし、四大属性の話にしたところで、彼女の得意は火と風だったという。
「というかお前、見てないのか? 腐っても女神なんだろ?」
『弟子です。何度言ったら分かるんですか。……それに見てると言ってもさすがに世界全土を見渡せる訳じゃありませんし……』
どうやら神は全知全能じゃないらしい。
腐ったことは否定しない女神の弟子曰く、小さな星の小さな国の小さな街で起こった暗殺事件など見てるはずもないのだとか。
せめて教会付近で起こっていたなら見る可能性も多少は高くなるのだそうだが、さすがに教会の近くで暗殺を行う王政はどこにもないらしい。そりゃそうだ。
「じゃあ何か。何も分からずじまいってことか」
『そうですね。まあ仕方ないです』
どこか他人事感のある返しに引っ掛かりを覚えながらも、深く気にしないことにしてごろんと背をベッドに預けた。
なんだかんだで俺も特に怪我をした訳でもなく、ただ保護の意味合いも兼ねてここに寝ていただけなので、もうあと少しでここを出られるらしい。
帰ったらシルヴィアに飛びつかれたりすんのかな、悪くないな、なんて思いながら手を広げて天井を見ていれば、コンコンと病室のドアが叩かれた。
「おいミラ。起きてるか? 入っていいか?」
聞こえてきたのは、同じ施設に入っているはずのパーティメンバーの声。
「起きてるし、入っていいよー」
「じゃあ入るぞ」
宣言と共にドアが開かれると、僅かに暗い雰囲気を漏らしたエルヴァが中へと入ってきた。
それにしても同じ立場のクセして見舞いとは、やはり面倒見のいい男だな。
なんて思っていると。
「……お前、いくらなんでも強調しすぎだろ」
ベッドに腰掛けて壁の方に目をやったままのエルヴァから、よく分からない一言が飛んできた。
「なんのこと?」
「自覚なしかよ、もういい」
ムクリと起き上がりながら首を傾げると、呆れたような表情で見られてしまった。
いや、マジで何だろう。何か悪いことしたっけ。
「あれ、なんかごめんね?」
「いや、謝ることじゃないから。もう気にすんな、忘れろ」
とりあえず謝ってみたのだが、そういうことじゃないらしい。
何だろう。気になる。
「んー……?」
「忘れろって。それより無事で良かったよ」
「なになに、そんなに心配してくれたの?」
話題を俺の安否へ切り替えてきたエルヴァに、俺はちょっと日頃の仕返しをしてやるつもりで意地悪な返しをしてみた。この男の性格上、素直に『心配した』と答えることはない。だからこの返しは……。
「ああ、心配したよ」
……あれっ。
そんなに素直に言われるとか想定外なのですが。
「お前を一人置いていくことになってしまった時は、気が気でなかったよ」
「ちょ、ちょっとエルヴァ……?」
「俺はみんなを守る騎士を目指してるのにな……。お前一人守れないようじゃ……」
「ま、待って。ストップ。ちょっと待とう」
真面目に心配してくれていたらしいエルヴァの前で調子に乗ってしまった罪悪感にいたたまれなくなった俺は言葉を遮るように待ったをかけた。
ヤバい、これじゃ俺がただのお調子者になる。
「ほ、ほら。何ともなかったじゃん。それにエルヴァだって私を守ろうと積極的に……」
「いや、でも俺はお前を守れなかった。もしお前がどうにかなっていたらと思うと……」
「大丈夫! 大丈夫だから! 私はこう見えて才能ある魔法使いなんだって。だからさ、その、魔王軍の一人や二人くらいどうってことないから! 心配しすぎだよ!」
いつもからかってくるエルヴァの神妙な面持ちを見るのに耐えられなくなったのか、俺はそんなことを冗談めかして言っていた。
すると、それが効いたのか。エルヴァもフッと口元を緩ませて……。
「そうか、お前はすごい魔法使いだもんな……クク」
「あっ、ハメたな!?」
31部からは新しいお話の始まり!
魔王軍幹部フィオナと遭遇するも事なきを得たミラ。またいつも通りの日常に戻る、そんなところへやってきた一人のコック。
そのコックから少し異種な異例をされたミラはそのクエストに望む……。
第5話「最高の食卓」