第4話 魔法使いとリッチー ⑥
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「私はフィオナ、魔王軍幹部が一人、リッチーのフィオナよ」
ヤバいなんて次元じゃなかった。
魔王軍には魔王の次に地位が高くて強い4人の幹部がいて、その4人を四天王と呼んでいるという話は聞いたことがある。
そのうちの一人が、目の前にいるらしい。
そりゃ魔法を簡単にはねのけるわけだわな。
……いや、冗談じゃねえよ。
昨日は獣型モンスターの五本指で、今度は魔王軍の五本指ってか?
なんだそれは。こんな立て続けに困難が起きるなんて、俺はマンガかアニメの主人公か何かか?
クソ、落ち着け。
考えろ。リッチーは魔法使いがアンデッド化したあのことを指すんだろう。
どの物語においても、リッチーは魔法使いの完全上位互換と言っていい。ならば、この世界もきっとそうであるはずだ。
ならもう俺とアイツの相性など語る必要もあるまい。
セインに頼る? いや、それはマズいか。
ここで話しかければ、エルヴァはおろかこのフィオナって女にも聞かれることになる。
もしこのペンダントにセインが入ってるなんてバレたら、それこそ主人公ルート一直線だ。俺が魔王軍に指名手配される未来は避けられない。
空気を読んで自分から出てきてくれればいいのだが……。
『…………』
うん、一瞬でも期待した俺がバカだった。
どう考えても打開策が浮かばず焦りをにじませていると、そこから覚ますように、どんと肩に手が置かれる。
「ミラ、やるしかないぞ」
険しい顔でまっすぐにフィオナを見つめるエルヴァだった。
「俺が注意を引く。お前はその隙に壁に穴を空けて逃げろ」
エルヴァの立てた作戦は単純明快なものだった。言葉では『気を引く』としているが、おそらく自分を犠牲にしてでも俺を逃がす算段だろう。
「大丈夫だ。お前に説教垂れるまで俺は死なねえよ」
俺の気持ちを読み取ったのか、エルヴァは肩をたたきながらそう言って前へ出た。
ポーチから剣と盾を出す。
「……分かった」
俺はそういった。
返事を聞いたエルヴァは、ほんの一瞬だけためらったあと、地面を蹴って走り出した。
「あらぁ? まだお話中でしょう?」
とぼけるような反応をするフィオナに、エルヴァは捨て身で向かっていく。
説教垂れるまで死ねない、か。
俺も死なせるつもりはねえよ。
俺は右手に魔力をこめつつ、エルヴァとフィオナの重なる直線状に立った。
そして少しずつ距離を詰めながら、エルヴァが振りあげた剣を見る。
右手に剣。左手に盾。
反撃を狙うならエルヴァの右手側に回って仕掛けてくるだろう。
俺はフィオナが確実にエルヴァの右手側に避けるように、その左手側に自らの左手を向ける。
「《アイスニードル》──ッ!」
放たれた氷のつぶては、エルヴァの左手側に向かっていく。
そしてエルヴァは右手を斜めに振り下ろした。
フィオナは案の定、右手側によける。かかった。
「《ブリザード》──ッ!!」
「へぇ……?」
俺の右手から放たれた雪の嵐を見て、フィオナは体勢を崩しながらもとっさの反応で飛び退くようにさらに避けた。ブリザードは勢いよく土の壁に衝突する。
気持ち悪いほどうまくいった作戦に自惚れながら、仕上げの魔法、《フリーズ》をフィオナの着地予想地点付近の地面にかける。
「きゃっ!?」
体勢の悪いフィオナは着地に失敗し、面白いように氷の上を滑っていく。そのい様子を見ながら、俺はさっきブリザードを当てた壁の方へ、その間に《アイスウォール》で氷の壁を築きながら走る。
いまだ土煙の舞う壁へ。これで助かるぞ!
「エルヴァ! ここに空けた穴から……あぶっ!?」
俺は何かにぶつかって盛大にしりもちをついた。
混乱したまま、舞っている土煙をどけるべく弱い風を起こすと、そこにはわずかに表面の砂が舞っただけの壁が存在していた。
「おいミラ、大丈夫か!?」
「な、なんで……}
確かにブリザードを衝突させたはずなのに存在してる土壁。
すると、その頑丈な壁とは対照的に俺の張った氷壁が勢いよく溶け出していく。
「ふふ。悪くはない作戦ね。お姉さんを狙いつつも、本命は壁の破壊。そしてさらに、お姉さんの動きを止めて、壁で守りながらの離脱。……お姉さん、ますますアナタのことが気になっちゃった」
作戦についてはその通りだ。
「でもね、この壁はそんなにヤワじゃないのよ? だってお姉さん、張り切って作ったんだもん。アナタの魔法じゃ壊れないようにね」
白い顔で不気味に笑ったフィオナは、炎を自在に操って氷の壁と地面を溶かしていく。
「壁が壊せないんじゃ……」
「倒すしかない、わね?」
こんな大物を二人で倒さなければならない。
そんな絶望の淵に立たされた俺たちを前に、すべての氷を溶かし終えたリッチーのフィオナは心底楽しそうな笑みを浮かべた。
「さて、第二ラウンドと行こうかしら?」
すみません。諸事情により今回の魔法紹介はお休みします。




