第4話 魔法使いとリッチー ③
今日から9月ですね。やっとたまに涼しい日が出てくるようになってきました。
「ミラはいつごろから魔法の練習にいくんだ?」
「うーん、陽が沈んでからだから、1~2時間後くらいかな」
「じゃあそこで時間つぶすか」
というわけで、俺たちは現在喫茶店らしき飲食店の二人席に腰かけていた。
ここで日没まで適当にだべって、それから練習に行こうという話である。
「で、お前はなんでわざわざ夜に外にいくんだ?」
ウェイトレスに注文を通したあと、頼んだ飲み物を待っていると、至極当然の疑問がとんできた。
というのも、俺の調査によるところ、どうやらこの世界は夜のほうが凶暴なモンスターが湧きやすいとのことだ。それに単純に視界の悪さもあって索敵能力も極限まで低下するし、初心者のうちは基本的に夜に外に行く意味はないという。
だが、俺はわざわざその夜に外に行こうというのだ。今日一緒に過ごす以上、どこかしらで聞かれるだろうなとは思っていた。
「エルヴァは掲示板とかマメに見てる?」
掲示板とは、クエストやパーティメンバー募集の紙が貼られているものである。
「あんまり見ないな。ミストが大体見てくれてるし。それがどうした」
「そっか。最近夜のクエストが減ってるんだよ。モンスター出没数が激減したって」
「へえ。珍しいこともあるもんだな」
エルヴァはイマイチ腑に落ちていない様子でいた。しかし俺の言いたいことは分かったようだ。
「かえって安心できるってことか。ちなみに原因は分かってんのか?」
「さあ。めちゃくちゃ強いモンスターが徘徊してるとか、噂はいろいろあるみたいだけど」
「待てよ。そんならなおさら危なくねえか? もしそんなのに出くわしたら……」
「大丈夫! ギルドのひとだって、こんな大したことのない土地にそんな強いモンスターがいるはずもないって言ってたし。調査隊も何度か出されてるけど、危険な報告はなかったみたいだし」
「……そうか」
いまだエルヴァは納得していないようだが、これ以上言っても平行線と踏んだのか、頬杖をついて外の景色に目をやった。
何がそんなに心配なのだろうか、と考えていたところに、ワゴンが音をたてて近づいてきた。
俺の頼んだ紅茶フロートと、エルヴァの頼んだアイスコーヒーが乗っている。
「お待たせしました。紅茶フロートと、アイスコーヒーになります」
キタキタ。これがたまんないんだよな。
ほんのり紅茶の香るアイスも美味しいし、アイスが溶けてくると、それはそれでまろやかな紅茶を楽しめる。一つで二つも三つも美味しい最高の品だよな。
と、そんなことを考えていた俺は、運んできたウェイトレスとその隣に立つ二人がクラッカーを隠し持っていたことにはまったく気づいてなかった。
「おめでとうございます! お客様は、当店千組目のカップルになります!」
『「「えっ」」』
パンというクラッカーの音と共に耳に入ってきた言葉に、俺とエルヴァと、ついでにもう一人はそろって気の抜けた声を漏らした。
三人並ぶ内の左右のウェイトレスは、同じワゴンに乗っていたパフェを俺とエルヴァの前に持ってくる。
それ俺ら用のものだったのか。
そんなことよりも、なんだカップルって。確かに俺らは男女の組ではあるが、別に付き合ってはいないし、なんなら自分で言うのも気が引けるが、そもそも女の方に至っては中身が男である。エセカップルもいいところだ。
いや、でも待てこれ。ここで『実は私たちカップルじゃないんです』なんて言えるのか。
ほかの客もこっちを向いており、中には手を叩いているものもいる。
しかし言わないは言わないで罪悪感も残る。
うぐ。エルヴァはどう出るのだろうか……?
「マジか。ありがとうございます。おいミラ、なんかツイてんな」
「えっ。あっ、う、うん」
マジか。めちゃくちゃ自然にカップルであること受け入れてるんですけど。
え、なにその強心臓。俺だったら絶対テンパってうろたえるんだけど。今みたいに。
「あと、こちらは次回使える割引券となっております。では、ごゆっくりどうぞ」
「すげえなこれ。こんなことあるんだな」
ウェイトレス達は立ち去り、エルヴァはさっきまでの様子はどこへやら、上機嫌に二枚あった内の片方の割引券を渡してくる。なんだろう、これでいいのだろうか。
「う、うん。でもよかったの? 私たち別にカップルじゃないのに……」
「は?」
何を言ってんだ、とばかりにこちらをみてくるエルヴァ。
え、なに? 店内で言うなってこと?
とりあえずそう受け取ることにして、モヤモヤしながらもパフェに手をかける。
『……この世界のカップルはただの男女の組のことも指すんですよ……?』
「わかるかッ!!」
胸元から聞こえてきたすべての違和感を解決させたその一言に思わずツッコミを入れてしまい、ハッとして顔をあげると……。
「……どうしたよ」
「ちょ、ちょっとトイレ……」
見えたエルヴァの痛い子を見るような視線に耐えきれず、逃げるようにしてトイレへと走った。
人物No.4
名 前:エルヴァ
性別・年齢:男・18
誕 生 日:3/8
職 業:無職
ミラの所見:
ミストがすごすぎて最初は目立ってなかったけど、実はめっちゃ頼りになるやつ。
ただ性格がなあ。今度こそ絶対一太刀かましてやる。