第4話 魔法使いとリッチー ①
第4話開幕です!
引き続きサブタイトルは割愛します。
息苦しい。
そう感じた俺は、夢から現実へと意識を移した。
目を瞑ったまま状況の確認に入るべく耳を澄ませる。
ふむ。物音は皆無か。今日の朝食当番はミストだったはずなので、おそらく最初に起きるのは彼で、6時ごろのはずである。
だが、まぶたを通して光が目に感じられる。今の時期だと確か5時ごろが日の出の時間だったはずだ。となれば、大方5~6時ごろといった具合か。
目を瞑ったままの疑いようのない名推理に自惚れながら、まだ寝れるという大変重大で嬉しい情報を手に入れたことで、このまま目を開けずに眠ることに決めた。
……のだが、よくよく考えてみれば、俺が目を覚ますことになった原因をまだ特定していない。
息苦しいのだ。俺は依然目を閉じたまま高い知力を以て推理を再開した。
情報としては、呼吸器をふさがれる感覚と、顔や肩、首……つまりは胸の上から鼻あたりにかけて、のしかかられているような重みを感じた。
ふむ。どうやら俺の上に何かが乗っているらしい。
しかしそれがなんなのかは分からない。俺が寝てる間に俺の上にのしかかるもの。あのエルヴァからもらったぬいぐるみか?
いや、あれはこんなに重くないし、そもそも乗っかる理由がない。
ならばなんだ。ううむ、情報がほしい。しかし目を開けるのは惜しい。よし、ここは触覚に頼るとしよう。五感はフル活用しなきゃな。
むにっ。
……むにっ?
なんだかやわらかい。それでいて弾力のある丸みを帯びたなにか……。
むにっ。
うーん、なんだろうか。この触るだけで満たされる感覚は。
むにっ。むにっ。
ヤバい。これはハマりそうだ。
むにっ。むにむにっ。むにっ。
『……あのー。いくら見た目が女の子だからって、そう堂々と揉み回すのはどうかと思うのですが……』
いつの間にオレの様子を見ていたのか、セインからそんな言葉が聞こえてきた。
しかし、相変わらずまったく意味が分からない。
まあ、今の俺はこれを触ることによって満たされる謎の幸福感で気分がいいのだ。
むにっ。
『ちょっと! 言われてなお揉み続けるとはどういうことですか!?』
「おーい。うるさいぞ~。今の俺は機嫌がいいから怒らないけど、あんまり変なことばかり言ってるなよ~」
『こ、この男……ついに開き直りましたか……』
セインがまるで他人を蔑むかのような声の調子で言っている。
いつになってもわけのわからないことを言うやつだな。
まあ今の俺は機嫌がいいので笑って流してあげるけど。
むにっ。
『……あの、ぜひとも一度目を開けてはくれませんか』
「仕方ないにゃあ。今回だけだぞ?」
またしても突拍子のないお願いをセインからぶつけられる。
ここで目を開ければ、時間的にもおそらく大した二度寝はできなくなってしまうだろう。
しかし、何度も言うが……むにっ……俺はこれにより機嫌がいい。
なので、俺はセインの言う通り目を開けてやることにした。出血大サービスである。
で、どうせならついでにと、この幸福感をもたらしてくれる物の正体を暴こうと、手につかむものに目をやった。
『「…………」』
「違うんです。これは決してやましい気持ちがあった訳ではないんです」
『大体わかるでしょう! ミラちゃんは自分のものも揉んでるんですし! そりゃシルヴィアさんから見ればただの女の子の馴れ合いでしょうが、あなた中身は男の子なんですからね! 向こうから来たのならまだしも、自分からむにむに揉み回すとはどういうことですか!』
「まったくもってその通りです。何も言えません」
現在俺は、ローテーブルの上に置いたペンダントに土下座しながら、ぐうの音も出ない正論でこっぴどく叱られていた。
いつもアホなことしか言わないポンコツにこれだけしっかり怒られるのはなかなか屈辱モノであるが故、なお一層心に響いている。
結局あの幸福感をもたらしめる正体は、シルヴィアのおっぱいだったのだ。
おそらく揉むことによって、いまだ俺の中に残る男としての性が満たされたのであろう。
まあしかしセインの言う通り、これはどう考えても事案である。寝ていたら好き放題おっぱいを揉まれるのだ。女の姿をした男に。
「すみませんでしたッ!」
俺は改めて深く頭を下げ、この事案を知ってか知らずか、未だにぐっすり寝こけている女の子へ向け、盛大な謝罪を行った。
* * *
「ミラちゃんごめんねー。昨日あのまま寝ちゃって」
「こ、こっちこそごめん……」
「?」
昨日初めて弱さを見せた少女はあのまま眠ってしまったので、そのまま二人で寝ていたのだ。
そしてそれを忘れていた俺が、朝の事件を起こしたというわけである。
まあ見たところ本気で熟睡していたようなので、ひとまず安心だ。
今回ばかりはこの熟睡ぶりに感謝である。
「そういえばミラ、お前今日暇か?」
俺が今朝の出来事を思い出し、改めて目の前の少女に罪悪感と恥ずかしさを感じていると、斜め前からお誘いが入った。
「夜は外に行くつもりだったけど、それまでならいいよ」
「じゃあ夕方に」
そんな何気ない約束を交わして食事に戻ろうと視線を移したとき、目の前の少女が悪い笑みを浮かべているのが目に入る。
「あれあれ。エルヴァくんデートのお誘いかな? ミラちゃんに惚れちゃった?」
「あ。なんだお前、嫉妬かよ」
なにやら開戦したらしい。さて、本日こそシルヴィアの初勝利となるのでしょうか。
「っ……。いやー?エルヴァが少ない女の子との交流を大切にしてるなーって」
「あー、まあ確かにそうだな。このパーティに至っちゃ女の皮かぶった男もいるし」
「「それってどういう…………!?」」
その突然の一言に、俺とシルヴィアはバンと立ち上がってエルヴァへ向けて声をあげる。
だが、ハモったことに気付いた俺たちは、言葉を途中で止めて驚きの表情で見合った。
そんな中、俺のほうを見ていたエルヴァが、少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべ。
「ミラのことじゃないぞ」
と一言。それを聞いてただのシルヴィアに対するからかい文句だったとわかり、頭をかきながら椅子に座った。
『…………なに自分のことだと思ってるんですか。見た目は立派な美少女なんですからバレませんって。頭脳は寝てる女の人のおっぱい揉みまくる変態男子ですけど』
どこかで聞いたような文句をもじって、これまたご丁寧に腹の立つ言い方で図星をつかれるが、朝の出来事も事実なだけに何も言えないのが悔しい話である。
俺は高鳴った心臓を抑えるべく、いまだ言い合う二人のセリフを聞きながら食事に戻った。
魔法紹介
識別コード:W31
名 称:エアインパクト
属 性:風・攻撃
難 易 度:C級
シルのメモ:
ボンッ!って空気を爆発させる感じ!
C級のエアインパクトはそんなに威力が強くないから、ミラちゃんみたいに目くらましに使われることが多いみたい!




