第3話 異世界四重奏 ⑧
この20部で3話を締めくくりますが……。
サブタイトル抜き、どうでしたか?
『女の子に助けてもらった気分はどうでしたか?』
「ぐっ……」
初クエストでブラッドウルフに襲われるという、ギルドのお姉さんいわく、100年に1度あるかないかの危機に直面しながらも奇跡的に九死に一生を得た俺は、その恐怖を紛らわすべく、頭の中がお花畑と化していたポンコツ女神予備軍に八つ当たりをしていたのだが……。
『あ、でも今は女の子ですから関係ないですね!』
あの衝撃のシーンを始終見ていたセインから見事なまでのカウンターパンチをくらっていた。
あのシーン。
俺たちを背負いながら撤退したときに背中の上から聞いた話によると、まずシルヴィアが躓き転倒。そのすぐ後ろを、前を見ずに走っていた俺も巻き込まれて転倒。
それを見た二人が、俺らを守るべく盾を取り出して間に入ろうとするも、ブラッドウルフのすさまじいスピードには間に合わず、俺への攻撃が直撃する直前……横からすごい勢いで飛び出してきたシルヴィアの拳によって狼が吹っ飛び、木に激突して倒れたという。
その後は俺も知ってのとおり、フリーズで脚を固めた後、負傷した二人を背負っての撤退に成功したのだ。
二人は自分たちが守るべきだったのに、と不甲斐なさそうにしていたが、正直そんなことはどうでもよく、あの獣に拳を浴びせて吹っ飛ばしたシルヴィアが信じられずにいた。
確かに火事場の馬鹿力とは言うが、それにしてもそんなに簡単に殴れる相手でもなかったはずだ。
『いやー、それにしてもすごかったですね。何もできないミラちゃんとは大違い!』
回想に耽っていた俺を現実に呼び戻すべく、ポンコツさには定評のある駄女神が、自分のことを棚にあげて挑発をしてきた。
「このクソアマ! お前こそ何もしてないだろーが!」
『あ、尼!? 私は尼さんじゃありません! 女神の弟子です! 勝手に坊主にしないでください!』
相変わらず舐めた訂正をしてくるクソ女をどうしてやろうかと考えていると。
『それに! 私はちゃんとアドバイスしてましたから! ミラちゃんが恐怖のあまり気付かなかっただけじゃないですか!』
そんな聞き捨てならないことを挑発交じりに言ってきた。
「は? お前俺はこける直前まではちゃんと耳は機能してたからな? お前こそ恐怖のあまり喋ってたつもりが声にならなかったんじゃないか?」
『なっ……私はちゃんと声にしてましたよ! 有益なアドバイスを!』
これに関しては間違いないとばかりに声を張って反抗されると、もうこれ以上は平行線をたどるのみだと悟る。
ならばここは、そのアドバイスを聞くだけ聞いて話を終わらせることにしよう。
「じゃあなんて言ったんだよ」
『お腹を殴れ、って言いました。ブラッドウルフはお腹への物理攻撃に弱いんです。怯みますよ』
ほう。あまり期待していなかったが、確かに有益な情報じゃないか。
「で、どうやって?」
『え? 拳をグーに握ってドーンです』
……。
「どうやってお腹に当てるのかな?」
『えっ? オオカミのお腹わかりますよね?』
…………。
「分かるよ」
『だったらそこを狙うだけです』
………………。
そっか、そうだよな。お腹を殴るには、拳を握ってお腹を狙うだけだもんな。
「だから、四足歩行で素早い狼のお腹をどうやって狙うか聞いてるんだよ! このクソアマ!」
『ま、また尼って言いました! 私は尼じゃなくて女神の弟子だって言ってるじゃないですか!』
少しでもこのポンコツを見直してしまったことを後悔しながら怒鳴り散らしていると、不意に聞こえてきたノック音に肩を揺らして声を沈める。
『それにどうやって狙うのかくらい自分で考えてくださいよ!』
相変わらず空気の読めないバカが騒いでいる。なにかすごく既視感のある状況だが、今度はこいつの声が通らないことを知っているので、案ずることはない。
「入っていい?」
「いいよ」
『あっこら! まだ話は終わってないですからね! 今日という今日はこの私がポンコツなミラちゃんとは違って有能だということを……』
ノック音の主であるシルヴィアが部屋に入ってくるのを見ながら、俺は耳障りな音を《ディスペルフォース》を使って排除する。
「あっ」
「え、どうかした?」
「あ、いや。ごめんなんでもない」
言った後にしまったと心の中で叫んだ。
急に声をあげたのは冒険中に同じことをしていたということを思い出したからである。
だからセインのアドバイス、もとい雑音も聞こえなかったのか、と。
もちろんそんなことを話す訳にはいかないのだが、今の話を思い返してもみろ。俺は知っている。この流れは、相手はすごくモヤモヤして気になって仕方がないことを。
まして今回の相手は好奇心の塊のシルヴィアである。『えー、なになにー!?』と詰め寄ってくるに違いない。
「そう。ならいいや」
それも案外悪くないのでは、なんて思いながら考えていた俺の予想を盛大に裏切った少女の顔は、いつになく沈んでいる様子だ。
これはちょっとただごとじゃない。
「隣、いい……?」
「え、う、うん」
いつもは元気にあれやこれやとしゃべり倒し、果ては死狼とも呼ばれる凶悪なモンスターを拳一つで無力化させたとは思えない少女が、ちょこんとベッドの上、俺の隣に腰掛けた。
明らかに元気がない。何か声をかけてあげなければ。そう思うも童貞の俺にはこんなところでかけるべき言葉なんて浮かばない。
結局先に口を開いたのはシルヴィアだった。
「ご、ごめんね……」
「え……?」
突然少女の口から発せられた謝罪の一言に、まったく身に覚えのない俺は思わず素で返してしまった。
未だパジャマのズボンをつかんでシワを作る少女は下を向いたまま。
「わ、私が……私がこけなかったら……ミラちゃん、怖い思いしなくて済んだ……」
なるほど、そういうことか。
この子は俺が転倒して襲われたことに責任を感じていたのか。それでこんなに沈んでいたというわけだ。
「うん、そうかもね」
「……っ!」
俺の言葉にビクリと肩を揺らした少女。
だがもちろん、俺はここでこの子を攻め立てるような残酷な男ではない。
「でも、シルヴィのおかげで、私は助かった」
「…………」
「守ってくれてありがと」
「うっ…………ミラちゃん…………!」
自然とあふれた言葉を聞いた少女は、我慢していたものを爆発させるように涙を流し、俺の身体に抱きついてきた。
「怖かった……ミラちゃん死んじゃうかもって。居なくなっちゃったらどうしようって」
「大丈夫。私は死なないから」
「うん…………」
俺のパジャマを涙で濡らしながら、ぎゅっと抱きついてくる少女の頭を撫で、俺はある決意を心の中に芽生えさせた。
もっと強い魔法使いになって、この平穏を守る、と。
次回21部から新話突入!
夜のモンスター出没率が大幅に減少するという謎現象が起こる中、ミラはもっと魔法を磨くために月夜の下で魔法練習に励む。
するとその先でミラの魔法に惚れたという人物が現れるが……。
4話「魔法使いとリッチー」




