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異世界転生って性別も変わるんですか?  作者: 幻影の夜桜
やはり俺の性別は間違っている
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第1話 剣と魔法の異世界 ②

皆さんは「晴耕雨読」という四字熟語を知ってますか。

知ってるならば、それに従いましょう。

知らぬならば、調べて従いましょう。

 俺が目を覚ましたのは、上も下も分からない場所でだった。

 なんとも形容しがたいその空間には、二人の女性と俺と、合わせて三人の人間がいるだけだ。

 その二人のうちの一人が、意識を取り戻した俺を見て無邪気な笑みを浮かべた。


「おはようございます! 残念ながら、貴方は死んでしまいました。そこで、貴方には魔王を倒してもらいます!」


 ……。

 なんだろう、この変な夢は。

 確かに夢はなんでもありだと思う。例えば俺に年下の可愛い彼女が出来てもいいと思うし、美人のお姉さんの彼女が出来てもいいと思う。というかくれ。

 しかし、これにはなんともコメントがしにくい。

 死んだ夢ってのも訳が分からないが、百歩譲ってそれを認めたとして、どうして人が死んだのに興奮気味にそれを報告できるのだろうか。残念ながら、という様子なんて微塵も感じられない。


 うーん。とにかく、こういう時は夢だと割り切って意識を閉じるのが一番だ。

 幸いにもこの夢は自分の意識が割とハッキリしている。こういう時は夢から脱出することが出来たはず。


 次に目を開けた時には可愛い年下の彼女ができてないかなあ、と思いながら目を閉じたのだが……。


「ちょ、なんで寝るんですか! 人が……いや神が真面目な話をしているというのに!」


 なるほど神と来たか。この夢はすごいフルコースだな。明日慎也(しんや)への話のネタにしよう。


「ね! ちゃんと聞いてくださいってば!」


 そう言ってゆさゆさと揺らしてくる。

 あっこれ目を覚ましたら母さんがいて「悠人(ゆうと)! あんたいつまで寝てんの! 遅刻するわよ!」って怒られるパターンだ。

 夢と現実が微妙にリンクするやつ。いつもは鬱陶しく感じるが、今日はこの変な夢から覚ましてくれたことに少しだけ感謝を覚える。


「分かった。もう起きるから……」

「だぁぁ! もうそういうコントはいいですから!」


 あれ、怒ってるのには間違いないが、声が30年くらい若返っているようだ。これは間違いなくあの母の聞きなれた声ではない。

 しぶとい夢だな、そう思いながら俺はゆっくりと目を開くと、やはりさっきの夢の世界だった。


「やっと起きましたか! いいですか? ちゃんと聞いてくださいね!」

「はあ」

「貴方は死にました! だから、魔王を倒します!」


 ……。

 マジで意味分からん。誰か通訳してくれ。

 と、隣にもう一人の女性の姿が目に映った。ああ、そういえばこの場には三人いたな。

 その女の人は結構普通そうに見える。そんな彼女へ俺は淡い期待を込めて『助けて』と視線を送るのだが、当の女性は我が子でも見つめるかのような眼差しでじっとその頭の弱い子を見つめていた。

 こいつら、もしかして母娘(おやこ)なのだろうか。

 いや、そうだとしてもそろそろ止めろよ。おたくのお子さん、見知らぬお兄さんに変なこと言ってるんだぞ。


「なんでそんなに分からないんですか! こんなにも丁寧に説明してるのに!」

「えっ。今の丁寧な説明だったの?」


 とうとうツッコんでしまった。なるべく知らん振りして関わらないようにしたかったのだが、これほどまでにボケられればツッコんでしまうだろう。

 しかし俺のその的確なツッコミが、相手の怒りの火に油を注いでしまったようだ。


「は、はあ!? 何を偉そうに!」

「いや、俺のどこが偉そうなのか教えてくれよ。さっきからお前一人で叫んでるだけじゃんかよ」

「な、なんですって!?」


 一度口を開いてしまえば止めるのは難しく、またも言い返してしまった。それに呼応するように相手の顔は赤くなっていく。

 俺は何も間違ったことを言ってるつもりは無いが、当人にとっては信じられないらしい。

 というか夢でもそろそろキツい。母さん、早く起こしてくれ。さんざんこの手の夢は抜け出せるとか考えていたが、もう俺には脱出法が分からない。


「はあ……もうダメです。ティナさん、なんとかしてください……私にはこのアンポンタンは手に負えません」


 この場の一番のアンポンタンはお前だと思うんだが。

 そろそろ沸点に達しそうになっていたところで、ようやくティナと呼ばれたその女性が口を開いた。


「すみません。うちのセインが変なことばっかり……」

「はあ」

「改めて、私から説明しなおさせていただきますね」


 説明って、さっきの死んで魔王がどうとかいう話だろうか。

 えっ、もうそんなのいいから早く返して欲しいのだが。


 しかしどうにもそうはいかないらしく、自分が女神で、隣の存在が弟子であること、俺が不慮の事故により死んでしまったこと、そして異世界に飛んで魔王退治に加勢して欲しいということ。この三点を懇切丁寧に説明されることになった。


 *   *   *


 俺が事故に遭って死ぬ映像が流されて実に五度目。

 ようやく事態を理解し始めた俺は、何も無い空間に映し出された映像をただただ黙って見ていた。

 隣には申し訳なさそうな顔をするティナと、それ見たことかとでも言いたげなセインの姿がある。


 この上ないほどの丁寧な説明を受けつつも死んだことを頑なに否定してきたのだが、俺が事故に遭う瞬間を何度も見せられては呑み込まざるを得ない。


 いや、今でも心のどこかで悪い夢だと思っている自分がいる。

 だが、ここはもう受け入れる他ないようだ。


「それで、魔王の件なのですが……」


 ティナが頃合いを見て話を戻そうと試みる。

 実際かなり落ち着きを取り戻していた段階にはあったので、あまりぐだらせたくないという意味でもベストなタイミングだろう。

 セインはいつまで黙ってるのか、といった表情でうずうずしていたが、ティナがようやく話をしたことで少しホッとした表情を見せる。


 しかし、ティナには悪いがベストなタイミングかどうかは正直些細な問題である。タイミングが良いからといって「はい分かりました」とはならない。

 まあもちろんタイミングや言い方が悪ければセインのような結果に陥るのだが。


「魔法もあるんですよ! どうせみんな憧れてるんでしょう!」

「こら、セインは黙ってなさい」

「うぅ……」


 返事を渋る俺に業を煮やしたセインが口を挟むも、ティナに怒られて落ち込み気味に口を閉じる。

 こうして見ると確かに上下関係が垣間見えるな。


 しかし、魔法か。確かに憧れている。それは否定しない。

 形はどうあれ魔法を使ってみたいと思う者は多いのではなかろうか。俺もよく魔法を使ったバトル系のアニメを見ては妄想したものだ。

 転生モノもよく見たが、俺なら即決で行くわ、などと馬鹿なことを考えたのも思い出される。


 だが、いざこの場に立つと少し事情が違うようだ。

 やっぱりいざ本当に魔王を相手にするとなるとビビる。単純に怖い。

 確かに魔法を使えるのは魅力なのだが、そもそも「貴方には魔法のセンスがありません」なんて言われるのではなかろうか。異世界に行って剣士とかになって前線で魔王と戦うなんてまっぴらなんですが。


 それにこれから行く世界には、どうやら蘇生魔法たるものは存在しないらしい。そんなものがあったら人で溢れかえってしまうとか。ごもっともだ。

 となれば、そもそもモンスターに殺されるというリスクすらつきまとう訳だ。最悪転生してすぐ死ぬなんてことも無いわけじゃない。

 やはり色々天秤にかけると断るのが正解なのではないだろうか。


「も、もし転生していただけるのなら、特別に魔力たっぷりの身体にして差し上げますので……」


 あ、出た。異世界行きの特典。

 これってあれか。行くといえば異世界でチートかませるタイプのやつだろうか。魔力たっぷりということはつまり魔法を打ち放題みたいなものだろう。まあまず間違いなくチートである。

 それにこれはラノベでよくあるパターンなのではなかろうか。となるとおそらく俺はハーレムにも見舞われて……。

 やばい。ちょっと行きたくなってきてしまった。


「ダメ……ですか?」


 畳み掛けるように、上目遣いで懇願してくる女神ことティナ。

 あれ、これやっぱり異世界チートハーレムの主人公フラグ建ってません?


 しかしだ。俺を甘く見てもらっちゃ困る。

 このパターンは大概集まる女の人が残念な人ばっかりとか、魔王が俺以上のチートで勝てないとか、そもそも世界自体がクソだったりとか、そんなこんなで全然期待通りに行かないのだ。俺は知っている。

 他の男ならこのフラグに期待して、鼻の下を伸ばしながら返事をするのだろうが、俺は目先の欲には捕まらないのだ。他の男とは違うのだ。そんなに飢えてないのだ。


「……少しだけなら」


 不覚。俺はそこらの男と同じで飢えていたらしい。

 断るつもりだったのだが、口を開けば了承の返事を言葉にしてしまっていた。

 そんな俺の返事を聞いた女神はパァッと顔を明るくさせてはにかんだ。あまりの可愛さに俺は見惚れてしまい、その隣で「少しだけって……」と怪訝そうに呟くセインの声は聞こえていない。


「ありがとうございます! では早速準備を……」


 気が変わるのを防ぐためだろうか。急いで準備をしようとしていたティナが、セインの方を見てピタリと止まる。そしてあからさまに頭の上に電球を浮かべれば、「いいこと思いついた!」と言わんばかりの無邪気な表情で。


「セインも行ってあげましょう! ガイドになるはずです」

「「えっ」」


 俺とセインがアホな声をハモらせる。

 あのアホとハモったことに少し落ち込む中、ティナはニコニコと笑みを浮かべてセインを見つめている。

 その様子はセインに有無を言わせないような雰囲気だ。


 まあ確かに、悪くない案だとは思う。

 きっと俺は向こうの世界の常識が分からないせいで戸惑うことがいくつか出てくるだろう。

 その時、仮にも女神の弟子を連れていれば、いくらセインがアホと言えども……少しくらいは……ガイドが務まる……。


 いや、待て。務まるわけがない。


 あの説明能力のなさだぞ。ガイドが務まるわけがなかろう。

 それならばここに残って少しでもティナの手伝いをしている方が役に立……。


 なるほど。合点がいった。いってしまった。

 何この女神。案外えぐいことを平然とやってのけるんだな。


 初めこそアホな声を出して驚くも、結局任せろと言わんばかりの顔で引き受けたセインは、きっとまだ分かっていないのだろう。幸せな頭をしている。


 セインの返事を受けたティナは、セインをペンダントの中へ閉じ込めていく。

 ちょっとびっくりするが、こうしておかないと下で騒ぎになりかねないからだそう。あのアホ具合で女神の弟子だと信じる人は居ないと思うけど。


 そのペンダントを受け取った俺は、既に異世界チートハーレムのフラグのことなんてすっかり忘れ、多大な不安とともに転生門を潜り抜けた。

人物No.2

名   前:セイン

性別・年齢:???・???

誕 生 日:???

職   業:???

ミラの所見:

ポンコツ女神予備軍。

知能が小学生レベルで、人の疲労を溜める能力に長けている。

今のところこれっぽっちも役に立っていない。

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