第3話 異世界四重奏 ⑤
9月2週目から土曜日のみの週一更新になります。
おそらく来年の2月か3月にはペースが戻ると思います。
「うっわー! 今日もおいしそーっ! いっただっきまーす!」
本日もいつもと変わりないハイテンションな様子で卵焼きにかぶりつくのは、このパーティの元気の象徴であるシルヴィアだ。
この家の風物詩である爆音アラームで目を覚ましたのがつい10分前というのは、このテンションの高さからでは微塵も想像出来ないだろう。
そんな少女はリスのように頬を膨らませた顔をこちらに向け、その前で親指を突き出して。
「いあひゃん! ひょうおひゃいほー!」
「はいはい。喉につまらせないでね」
相変わらずのシルヴィアの「うん!」という元気な返事を聞いた俺は、自室に戻るべく階段を上っていく。
部屋にたどり着けば、料理の為に結んでいた髪からゴムを取り、ポーチを開いて中へ放り込む。そして代わりに今日着ていく服を取り出した。
今日は魔法使いらしくマントを着けようと思っているので、中はそんなに派手にするつもりは無い。
うん、これとか良さそう。
『……随分と順応しましたね』
そんなセインの言葉を聞いてしまった俺は、無意識のうちに自分の手に取っていた服に目をやる。
レースのついた白を基調としたトップスと、濃い紺色のスカート。
「ち、ちげえよ! こういうのじゃないと、シルヴィに怒られるから……!」
『その割には、あまり嫌そうにしてませんでしたけど』
「そ、それは……な、慣れてきたりもするだろ!」
『慣れたんですか?』
なんという墓穴。これはひどい。
セインの妙な責めに自分の有り得ない墓穴のせいで反論出来なくなっては無意識のうちに舌打ちをする。
性別と異世界を転生してもう一ヶ月。各々の準備も揃ってきたことだしと、とうとう今日は初の冒険日となっていたのだが、こんな形で出鼻をくじかれるとは。
しかしセインの言ってることがちゃんちゃらおかしいという訳でないのもまた認めざるを得なかった。
あまり認めたくないが、俺はこのひと月で随分と女性らしくなってしまったかもしれない。
風呂やトイレなんかの時の借り物感もほとんど消えてきてしまっているし、思い返せば今朝髪を結ったのは自分の手である。
そのゴムを取るにしても、初めはなかなか手間取ったが、今ではスムーズだ。
口調も今やさほど気にせずして話せているし、一週間前には人生初の生理で涙を流し、セインにここぞとばかりに笑われながら処理の仕方を教えてもらった。
『それにしても意外と口調間違えないものなんですね?』
「当たり前だろ。お前、ネカマが男口調うっかり出しちゃったの見たことあるか?」
俺はない。
ネカマがネカマと見破られるのは女性として話が噛み合わなかったりとかで、あくまで口調を間違えたりするものではないだろう。
そして俺は見た目はれっきとした女性なので、まあ見破られることはない。
セインはイマイチピンと来ていない様子だが、まあこの立場になってこそ分かる話ではある。
さて、まあそんな話はどうでもいい。
さっきも言ったが、今日はこれから初の冒険なのだ。
まあ冒険と言っても、弱いモンスターを相手に前後職の連携の確認と俺の魔法の実践練習といった具合ではあるのだが。
しかしそれでも、いわゆるモンスターと魔法で対峙することに、この世界に来てから一番の興奮を覚えているのは間違いない。
やっと異世界らしいことが出来る。
そろそろエルヴァが戻ってくる頃だろうか。手頃なクエストがあるといいが……。
段取りとしては、先に男性陣のミストとエルヴァがクエスト探しにギルドへ向かう。頃合いを見て俺はシルヴィアを起こし、もろもろ準備を済ませて待機。
良いクエストがあればエルヴァだけが戻ってきてギルドへ3人で向かい、何も無ければ2人で帰ってくるというわけだ。
別行動を取る理由は、ギルドがここから歩いて30分くらいかかるので、手頃なクエストが無かった時に無駄に体力を使わないように、というミストの気遣いからである。デキる男は、ひと月たっても未だそのジェントル精神に陰りを見せていなかった。
ミストの性格に、同性として尊敬しながら着替え終えた俺は、ポーチからまだ付けなくてもいい手袋を取り出して、両手にそれを嵌める。
手袋に包まれた手がグーパーと動くのを見ると、自分でも気が早すぎると思えて少し笑ってしまった。
このひと月、色々な魔法を練習したことをふと思い出す。一週間前にB級魔法を取得した時は、一緒に居たカイルに「やはり俺の目に狂いはなかったらしい」とお褒めの言葉を頂いたっけか。
はじめての魔法修練場の時はエルヴァと一緒だったか。あの時は確かダーツをやったな、と思い返しては、こちらを向いて優しく笑うクマと目を合わせた。
その時のエルヴァの当てた景品のぬいぐるみだ。
似合ってる、なんて言われたっけ。この男にはかなわないと思ったな。
「え、エルヴァァァァ!!」
おやおや、言ってる傍からシルヴィアがまたからかわれているらしい。
ドタドタという1階からの元気な音を聞きながら、笑みを絶やさないクマの頬にそっと触れてみた。
まるで女の子だな、と思った俺は思わず口元を緩ませながら。
「行ってきます」
『行ってら…………』
首からかかるペンダントに音耐性のディスペルフォースをかけて、二人の待つ居間へと降りていった。
* * *
「じゃ、僕らは受注登録してくるね」
「「行ってらっしゃーい」」
ミスト達が見つけたクエストはゴブリンの群れの討伐。
様々なゲームや創作の世界に出てくるメジャーモンスターの1種は、この世界にも例外なく存在するらしい。
このギルドへ来る道中にエルヴァから教えてもらった情報によると、危険度は最大9のうち1。この世界において、害のある中では最弱のモンスターらしい。
畑や牧場からしてみても、市販の妨害グッズで完全に対策できちゃう為、害あるモンスターと言えど、その被害はあってないようなもの。それゆえに緊張性も極めて低く、報酬もバカバカしくなるほどに安い。
そんな訳で誰も受けようとせず、自然と初心者の練習台クエストと化しているのだ。
ミストはそんなクエストを、俺達の連携確認かつ俺の魔法の練習台に選んだ。まあ妥当だろう。
「ねね、待ってる間さ、ちょっと魔法書見せて!」
隣で暇を持て余したシルヴィアが、回想中の俺に暇を潰すべくそんなお願いをしてきた。
窓口の方へチラッと視線をやると、ミスト達の前の人が手間取っているようで、もう少し時間がかかりそうだ。それを確認した俺はポーチから魔法書を取り出し、シルヴィアと横に並んで一緒に眺めることにした。
「ところでミラちゃんが使える一番強い魔法って何?」
どこまでも魔法好きなシルヴィアは、パラパラと目を通していく中で不意にそんな疑問をぶつけてくる。
「実はA級魔法も使えたり……?」
「さ、さすがにそれは無理だよ」
期待の眼差しを向けてくるシルヴィアに先に断っておいてから、質問に答えるべく魔法書のページをめくる。が、なかなか上手くめくれない。
理由は明白。気持ちが流行ってつけた手袋のせいだ。
手袋付けたままでもいけるかな、なんて思った自分を馬鹿だと罵りながら手袋を外すと、その指についた絆創膏を見つけたシルヴィアが、少し心配そうな顔を見せた。
しかし別に大したものじゃない。
「これ、どうしたの?」
「朝、皿洗いしてたら割れてたお皿に気付かなくて切っちゃって。でも全然大したことないよ」
「ほんと? じゃあ魔法も使えるんだね、良かったあ」
指の怪我の理由を聞いたシルヴィアは、ホッとしたように胸を撫で下ろして息を吐いた。
魔法使いは主に手を使って魔力をコントロールするため、その手を怪我してしまったりすると、痛みや出血により制御が乱れて抑えれなくなることもあるらしい。
だが、所詮擦り傷や切り傷程度の怪我では痛みや出血も大したことがないため、影響が出ることはまずない。
おそらくシルヴィアは、ようやく俺の魔法を間近に見れることを確認できてホッとした面もあるのだろう。どんだけ魔法が好きなんだ。
「おーい、二人とも行くよ」
「「はーい」」
手袋を外してさあ教えようといったところでミストからのお呼び出しがかかった。受付の近くで手を振るミストを見たシルヴィアは、無邪気な笑みをこちらへ向けて。
「じゃ、本番のお楽しみってことで!」
「うん」
親指を立てて言ったシルヴィアは、俺の返事を聞くと満足そうにミストの元へ走っていった。
さあ、冒険の始まりだ。
魔法紹介
識別コード:A21
名 称:フリーズ
属 性:氷・補佐
難 易 度:D級
シルのメモ:
氷の基礎魔法だね!
水を凍らせることが出来るし、ある程度慣れたら直接氷を生成することも出来るよ。もちろんしんどいけど……。
氷を作る規模も注ぐ魔力量と熟練度次第!




