第3話 異世界四重奏 ③
ようやっとエルヴァくんのお話になります。
「なあ、ミラもどっか行くのか?」
エルヴァがそんなことを聞いてきたのは、俺のこしらえた昼食を二人で食べた後、魔法書を読み始めて30分ほど経った頃だった。
現在家の中には俺とエルヴァの二人しか居らず、ミストは朝から、シルヴィアは俺の水魔法を堪能してから、各々の用事に出ていた。
「うーん。もしかしたらこの後修練場行くかも」
スク水を着せられるというアクシデントこそあったものの、午前の間にD級魔法の練習を満足に出来たので、いっそ暇なうちにC級魔法も練習してやろうと考えていた。
とりあえず向こうで魔法書を見るには使用料がもったいないので、少しでも効率よく進めようと、今こうしてC級魔法でいくつかピックアップして頭に叩き込んでいるのだ。
「そうか。暇だし俺もついて行っていいか?」
そんな予想のしていなかった言葉を聞いた俺は少し驚いて顔を上げた。
魔法修練場は、魔法を主に戦闘に関わる職業を除けば無料で同伴できる。
エルヴァは無職なのでお金はかからないが、そういった職に就いているか、あるいは強い憧れを持っているかでもしなければつまらないはずである。
まあ、別に断る理由もないのだが。
「いいけど。つまんないかもよ?」
「どうせ一人で家に居てもつまんねえよ」
なるほど。確かに言われてみればその通りだ。
そういえばここに来て1週間が経ったが、エルヴァとの外出は実は初めてじゃないか。
思えばパーティメンバーで今一番関わりが薄いのがエルヴァである。
そう考えると、エルヴァとの外出も少し楽しみになってきた。
* * *
結局俺とエルヴァが家を出たのはおやつ時である。
お互い本当に何の予定もなく、夜までに帰れる時間ならいいや、とグダグダした結果こんな時間になっていた。
と言っても、俺はひたすら魔法書を読んでいたし、エルヴァも筋トレをしたりで全く時間を無駄にしていた訳でもないが。
「にしてもお前って案外ボーイッシュな服装するんだな」
二人で修練場への道を歩いていると、話題を探していたエルヴァがそんなことを言ってきた。
現在の俺の服装は、何日か前にシルヴィアに止められたセットである。
シルヴィアが居ない時くらい、“女の子”から逃れさせてもらおうということだ。
「ボーイッシュというか、あんまり興味なくて」
「へえ。アイツとは正反対だな」
アイツとはもしかしなくてもシルヴィアのことだろう。
まあ、元がオシャレに興味ない系男子だった俺なので、正反対なのも無理はない。
「てかお前さ、前にアイツと服買いに行ってなかったか?」
「知ってたの?」
「散々はしゃいでたからな。ミラちゃんに合う可愛い服探すんだって」
そ、そうなのか。なにか今の服装にすごく罪悪感を感じてきた。
そんなに張り切って選んでもらったのに、俺は今その気持ちを無下にしているのか……。
「……とんだ裏切り者だね」
「着替えるか? それくらい待つぞ」
頬をポリポリ掻きながら、バツ悪く答えた俺にエルヴァがそんな提案をしてきた。
しかしもう既に家を出てそこそこ歩いている。今引き返すと、さすがに時間が怪しい。
「そうしたいけど、今から戻ったら時間が……。はあ、今度からちゃんと着ようかな」
シルヴィアに心の中で謝りながらそう返したが、エルヴァは『何を言っているんだ?』とでも言いたげな顔をしている。そんなに変なことを言っただろうか?
「お前、ポーチに一切服入れてないのか?」
エルヴァが驚きながら放ったその一言で、さっきの表情の意味が理解できた。
元の世界だと当たり前のように家に置いていたので気が付かなかったが、この世界には《ポーチ》という便利な魔法がある。そのおかげで、ほとんどの荷物は常に持ち運んでいるのだ。
「そ、そっか。じゃあどこかのトイレで……」
「行かなくてもいいだろ。端によって光耐性のディスペルフォースでも張っときゃ見えねえって」
「ほ、ほんとだ……」
ディスペルフォースにはそんな使い方もあるのか。
音耐性しか使っていなかったので、全く発想として出てこなかった。
俺は改めて魔法というものに感動を覚えながら、建物の間に入り込んでディスペルフォースを使う。
そうして作られた闇を壁に、シルヴィアに見繕ってもらった可愛らしい服へと着替えていった。
人物No.5
名 前:シルヴィア
性別・年齢:女・14
誕 生 日:12/24
職 業:無職
ミラの所見:
多分俺よりも魔法に強い憧れを持つ女の子。
自分で言うのもなんだが、強い信頼を置かれている気がする。
けど、あくまで女の子としてなんだよな……。
魔法好きと同時にコスプレ好きかってくらい色んな服を持っていて、俺のオカズを頻繁に減らしてくるのだが、さすがにやめて欲しい。