第1話 剣と魔法の異世界 ①
みなさんは女の子になったらどうしますか?
やっぱり、身体検査とかしちゃいますか?
「ようこそ、我がパーティへ。歓迎するよ」
一通りの自己紹介を終えたところで、このパーティのリーダーであるミストという男に、改めて歓迎の言葉をもらった。
俺は「ありがとう」と慣れない微笑を浮かべながら、ミストの差し出された手を握る。
「にしてもミスト。よくこんな子見つけたな。これほどの容姿の魔法使い、なかなか居ねえぞ」
「いや、僕も驚いたよ。なんでも、今日ギルドインしたところでね」
ギルドイン。文字通り、ギルドに所属することを指す。
この世界にはモンスターを狩って生計を立てる仕事がある。人々はそれを一括して《冒険者》と呼んでいるそうだ。
その冒険者を統括するのがギルドと呼ばれる機関。冒険者になりたければ、まずはギルドの運営する施設へ行き、身体測定を経て適正確認後、職業を選べば晴れて冒険者となることができる。
職業は、基本職7つと上級職が5つの合計12。上級職は基本職からの進化みたいな感じになっているらしく、それ以外での転職は一切不可だそう。
ちなみに俺は基本職の1つである《魔法使い》にしている。
他の11の職業は……長くなるので、おいおい説明することにしよう。
それよりも俺は、一刻も早く一人になりたい。一人になって、とにかく色々と確認したいことがある。
するとイケてるリーダーのミストが俺の様子を察してか、楽しそうに会話をしていたエルヴァから俺へと視線を移した。
「あ、ごめんね。ついつい夢中になって話しちゃってたよ。今日は疲れてるよね。シルヴィ、部屋に案内してあげて」
「オッケー! じゃ、行こっか。私たちの部屋は2階だよ」
このパーティのメンバーである女の子・シルヴィアに連れられ、二人楽しそうに話す男を居間に置き、階段を上がっていった。
「ここが2階。お風呂とトイレ、それから私たちの2つの部屋がある、って感じかな」
案内されながら2階の廊下を歩く。風呂とトイレが2階にしかないというのは少し妙な間取りだが、この世界では案外普通らしい。やはり、しばらくは常識の違いに戸惑いそうだ。
「で、こっちが私の部屋だね。だからそっちの部屋ね。自由に使っていいよ。ベッドだけは備え付けてあるから」
「分かった、ありがと」
「じゃ、私は下に戻ってるから! 何かあったら言ってね。おやすみ!」
元気に言ったシルヴィアという少女は、また男二人の居る1階へと戻っていった。
さて、俺も一人になれたことだし、目的を達成させてもらうとしよう。
言われた部屋に入ってみると、確かにベッドだけが備え付けられており、それ以外は本当に何も無い。ここに何を置くも自由ってことだろう。
部屋の奥には小窓があり、そこから爽やかな夜風が開いた扉へと吹き抜けていき、俺の長くサラサラした髪を揺らしている。
俺は魔法で作った異次元空間の入り口を開き、そしてその中へローブを放り込む。そして中から寝間着を取り出し、ようやく股下の開放感から逃れる。
ちなみに今使った魔法は《ポーチ》。
これは最低限の魔力があれば作れる、名前の通りポーチのようなもので、これがあればリュックなどを持たずともそれなりのものを持ち運びできるらしい。
ちなみに容量は魔力によって上下するらしく、例えば俺みたいな《魔法使い》は基本容量が大きいのだ。
しかし使用量に応じて最大魔力が常に落ちるので、いかに容量が大きいといえども、戦闘中になんでも持ってけばいいって問題でもない。
ただ、“ポーチ”と言うには明らかに大きい容量だが、きっと気にしたら負けなのだろう。この世界ではこの量でポーチと言うに違いない。
強引に納得した俺は窓を閉め、これからすることに備えて防音魔法を室内に張っていく。
防音魔法と言っても結局は《ディスペルフォース》の魔法であるのだが。
ディスペルフォースというのは防御系魔法の一種で、一言にいえば攻撃の威力を弱めることが出来る魔法だ。
もちろん弱点があり、戦士系の物理的攻撃には効果がない。例えばいくらディスペルフォースを張ろうとも、殴られれば全く軽減などできないという話である。
後は、発動時にチョイスした効果しかない。
というのは、例えば水系魔法に注げば、水の類は全て防御できるが、風魔法や炎の魔法だったりには全く効果がないという具合だ。
選べる効果の数は魔力次第だが、他の魔法を使うことも考えれば、上級職の《大魔導師》でもなければ一つしか無理だろう。
俺はそれを音系の効果で張り、防音効果に応用している。
これならば、例え中でバンド演奏をしようとも、部屋の外の人に聞こえることはないというわけだ。
さて、と。
元より叫んだりするつもりは無いが、こうしておくことで万一にも外に声が漏れることはない。
万全の体制を整えた俺は、ほんのり膨らんだ胸に目を下ろした。
……どうせならもうちょっとおっきくしろよ。
まあ今はそれはいい。目的は胸ではなく、首からかかるペンダント。
それを首から外し、手のひらの上に乗せてはそれへ語りかける。
「おい。落ち着いたことだしそろそろ説明しろ、セイン」
もちろん俺はペンダントに語りかけるなんていうぼっちを極めたような悲しい趣味はない。
この中には女神の弟子と呼ばれる存在がいる。次期女神候補なのだそうで、俺へのアシスト役として共に地上に降りてきた。
しかしさすがにそのままの姿じゃやばいとのことで、このペンダントにその身を収めているという。
『えーっと……どこから説明すればいいですか?』
話しかけて少し経ってから間の抜けた声が聞こえてくる。おそらく、俺以外の誰しもがコイツが次期女神候補だなんて信じられないだろう。
俺だって半信半疑。いや、三信七疑……一信九疑……?
とにかくそれよりもだ。何より解説が欲しいことがある。
「なんで、俺は女になってんだよ」
そう。俺は今、女なのだ。
何を言っているか分からないって? 俺も何を言っているか分からない。
とりあえず俺は死んじゃったらしい。そしてよくあるお決まりパターンのようで、異世界に転生して魔王を倒してください、と頼まれた。
正直もうこの時点で訳が分からない。あんなもの小説や漫画の世界だけだと思っていたのだ。が、とりあえずここは理解したことにして話を進めよう。
なんやかんやあって結局受諾することになり、俺は異世界への門を潜り抜けた。
するとなんとびっくり。俺は女の子になっていました。
どうだ、訳が分からないだろう。
『いやぁ、女の子の方が魔力高くしやすかったんですよね』
「舐めてんのか」
『まあまあいいじゃないですか。満更でもなさそうですし』
コイツ、今すぐ魔法でぶっ壊してやろうか。
相変わらずの残念な説明で流された上に、微妙に心理を突いてくるのはやめていただきたい。
ああ、クソ。男の性だから仕方なくもあるが、ちょっと満更でもない俺を引っぱたいてやりたい。
この次期女神のくせに小学生並みの知能しか持たない奴に頼るしかない俺も情けない話なのだが、「俺、異世界から転生したら女の子になっちゃったの。実は男なの」なんて相談をすれば、さすがにあの優しさの塊であるミストですら引きつった顔を見せるだろう。既に違和感なく想像ができている。
……はぁ。
『なんですか! その不満そうな顔は! どーせその内夜中にハァハァやって「俺、女の子でよかったわ!」とか言い出すんでしょう! 私には見えてますからね!』
「バカ! そ、そんなことするわけねえだろ! 何言ってんだよ!」
謎に動揺してしまった俺は、男口調の女の子の声で反論する。自分で聞いて思わず突っ込みたくなりそうだ。
『……女の子の身体って、男の子とは比べ物にならないくらい気持ちいいらしいですよ』
「えっ」
気になる情報に思わず素で返してしまう。
というかマジで煽るのはやめてくれ。ちょっと試したくなってきた。
そんな俺の様子を見たセインはさらに調子に乗っていく。
『あっれ。気になっちゃいました? せっかく防音のディスペルフォースも張ったことですし、今やっちゃいますか?』
「くっそ、言いたい放題だな! ポンコツ女神予備軍のくせにさっきからなんなんだよ! お前こそ毎晩ハァハァやってんじゃねえのか!」
たまらず反撃に出た俺に、ポンコツ予備軍が声色を変える。
『はぁぁぁ!!? そ、そんなことやってるわけないじゃないですか! なんですか! 女の子のくせにそんなはしたない事言って! ミラちゃん嫌われちゃいますよ!』
「み、ミラちゃん言うなアホ! てかなんで名前まで勝手に決まってんだよ! そもそもが俺かて女になりたくてなったわけじゃねえ! この身体のせいで大変だったんだからな!」
『ていうか誰がポンコツですかぁぁぁ!!』
ちくしょう。どうしてこうなった。
なんで俺は魔王退治を受諾したんだ。
クソ、可愛い本物の女神に鼻の下伸ばして受けていた俺のことをぶん殴ってやりたい。
俺は女としての一日を振り返りながら、ポンコツ女神予備軍との言い争いを続けた。
人物No.1
名 前:ミラ
性別・年齢:女・16
誕 生 日:5/10
職 業:魔法使い
ミラの所見:俺は男だ!!!