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2話 質問攻め

「なるほど、違う世界か」

「やっぱりおかしな話ですよね……」


 かなり突拍子もないことだというのは自分でもわかってる。

 もし私が逆の立場なら、なにこの人大丈夫かな、って思うかも。

 でも幸いなことに、ランさんは納得してくれたみたいだ。


「おかしくないよ。外敵もこの世界のものじゃない……って噂があるくらいだし。あ、これ内緒ね?」

「あっはい……でも、その外敵っていうのも知らなくて」

「そっか、じゃあ私がいろいろ教えてあげるよ!」


 いわく、外敵というのは、突如この世界に攻めてきた飛行物体。

 で、それから人々を守るのがランさんたちのような『守護者』で、羽を二枚か四枚持っている。

 で、私みたいに六枚持ってるのが救世主で、数十年に一度生まれるんだって。

 数枚多いだけで大げさな……なんて思ったけど、あらゆる性能で何倍も上らしい。

 誰よりも速く飛び、強く、美しく、みんなの憧れ、それが救世主。

 ……荷が重すぎない?


「本当に私がその救世主なんですか? そもそもここにきたばかりなのに」

「うーん、でもさすがに六枚なのを見間違えることはないと思うけどなぁ」

「六枚ってそんなに珍しいんですか? 羽がなんなのかもよくわかってないですけど」

「そうだね、私たちがどれだけ頑張っても六枚出すことはできないよ。もっと言えば、四枚出せるかも人によるんだ」

「そうなんですか」


 正直言って、全くすごさがわからない。

 そもそも自分の羽を見たのは倒れる直前だし、飛んだことすらないから実感がわかない。

 でも、ランさんがやたら熱く語るから、つい引きこまれてしまう。


「今までの救世主ってどんな人がいたんですか? もしかしたら、私みたいに異世界から来てたり」

「歴史上にそういう人はいないはずだけど……あ、ならカノンはもっと特別かもしれないね」

「特別、ですか」

「うん、実は何かすっごいことができたりして!」

「あはは、何かってなんですか」


 …………でも、もし。

 もし本当に、私にそんな力があるのなら、なってみるのもいいかもしれない。

 ちょっと飛んでもみたいしね。

 空を駆け、敵を倒し、みんなを守るって、なんかの主人公みたいでかっこいい。

 それに私がなれるかもしれないと思うと、少しわくわくしてくる。


 それからまた、ランさんの話をしばらく聞いていた。

 歴史、規則、地理……などなど。

 どれも私には新鮮で面白くて、違う世界に来たという実感が徐々に不安から期待へと変わりつつあった。

 そして、気がついたら太陽が沈んで月が二つ出ていた。

 ってあれ、月が二つ?

 ああそっか、地球じゃないなら一つとは限らないのか。

 なんか違和感すごいなぁ。


「おっと、もうこんな時間。お腹すいたよね? あ、体は大丈夫?」

「大丈夫です」

「じゃあこれ外しちゃうよ……はい、ちょっと抑えててね。血が止まったら食堂行こっか」


 言われた通り点滴の跡を抑えていると、着替えを持ってきてくれた。

 丈の長いクリーム色のワンピースで、ここでの制服らしい。

 ランさんもいつの間にか白衣じゃなくて、同じものを着ていた。

 そういえば、さっきの女の子たちもこんな感じのだったなぁ。

 ふと気になって自分の格好を見ると、グレーの無地のシャツにジャージだった。

 我ながらすっごくダサいし地味……いや、部屋着だし仕方ない仕方ない。

 とはいえ、こんなのでも一人だけ違ったりしたら目立つよね、着替えてから行こう。


「ありがとうございます」

「うん、終わったら呼んでね」


 この世界で初めての服は、構造が全く違って着方がわからない……なんてことはなく、普通に着られた。

 生地の肌触りも良いし、肩とかの動きにくさもない。

 シンプルなデザインだけど、結構お高そう。

 ただ、どう見ても必要なさそうな箇所にいくつかボタンがあるのが気になる。

 飾りかと思ったけど普通に外せるし、かといって脱ぎやすくなるわけでもなかった。

 なんなんだろうこれ……ま、着られればいいか。

 もしかしたら、こういうのがおしゃれなのかもしれないし。


「終わりましたー」

「はーい……あ、いいね、似合ってるよ!」

「そ、そうですか? 変なところとかないですか?」

「大丈夫、可愛いよ……さて! じゃあ行こっか」


 ランさんについて医務室を出たけど、道中誰にも出会わなかった。

 そして食堂は結構近かったから、心の準備ができる前に着いてしまった。

 ドアの向こうはかなり騒がしくて、何かの話題で盛り上がってるみたい。

 ……まあ、さっきの女の子たちを思い出せばだいたい予想はつくけど。

 自意識過剰なだけだといいなぁ。

 深呼吸とため息の中間をして、ランさんと一緒に入った。


「ねぇ、救世主様ってどんな人だった!?」

「だから、ずっと言ってるじゃん! 小さくて可愛らしい黒髪の」

「ちっちゃいなんて言ったら気を悪くするかもよ」

「私これ食べたらちょっと医務室行ってくるわ」


 学校の食堂でもこんなにうるさかったことはない。

 そして予想通りというか、数秒に一回は『救世主』って誰かが言ってる。

 でもみんな会話に夢中で、誰もこっちに気がついていない。

 もしかしてこのままこっそり食事して帰れるのでは……?

 とまあそんな考えは甘くて、ランさんが声をかけてしまった。


「みんなー」

「ランさん来た! ランさん、救世主様は……ってその子は」


 静寂の波が駆け巡る。

 部屋中の視線が私に突き刺さった。

 そして、誰も身動き一つしなくて私も固まってしまう。

 でもとりあえず挨拶しなきゃ、と思ってたらランさんがきっかけをくれた。


「みんな、この子が救世主様、カノンだよ」

「よ、よろしくおねが」


 全部言い切る前に、自分の声が聞こえなくなるくらいの歓声に包まれた。

 そしてあっという間に囲まれて、怒涛の質問攻め。

 みんな一斉にしゃべるから、誰がなんて言ってるか全く聞き取れない。

 あと、髪の毛がやたらカラフルで目にもうるさい。

 私の周りの輪はどんどん縮んでいって今にも押しつぶされそう。

 やっ、今誰か胸を……。


「はいはい離れて離れて。いろいろ聞きたいのはわかるけど、答えられない事情があるんだ。ねっ?」

「は、はい。あの、実は私、記憶がなくて……」


 ここに来る前にランさんと話し合って、私は記憶喪失だということにしておいた。

 そう言っておけば、この世界のことを知らないのもごまかせるはず。

 ついでにこの質問攻めが落ち着けば……と思ったけど、それは叶わずむしろ勢いを増してきた。

 もう一回ランさんに助けを、ってランさんまでもみくちゃにされてるし。

 このままだと本当に潰されちゃいそう──────


「何を騒いでいる!!」


 自分の声もかき消されるこの喧騒の中で、はっきりと聞こえた。

 途端にみんな焦った顔で私から離れていく。

 解放されて一息ついてると、厳めしい顔のおばさんと苦笑いしているおばさんが近づいてきた。


「うるさくてすまない。みんな君が来るのを楽しみにしすぎててな。体はもう大丈夫なのか?」

「は、はい、大丈夫です。その、心配おかけしました」

「あはは、丁寧な子だねぇ。それにしても、生きてるうちに救世主様をこの目で拝めるとはねぇ」

「ああ、しかもまさか第二線のうちに来るとはな。まあそれはさておき、私はこのメールナー基地の隊長、リーアだ。よろしく」

「あたしは副隊長、シィナだよ」

「た、隊長……えっと、私は花音です。よろしくお願いします」


 隊長ってことは、ここで一番偉い人たちってことだよね。

 副隊長はともかく、隊長がどう見ても怖い人だ。

 知らない間に失礼なことしてたらどうしよう……。

 テーブルマナーみたいなのも教わっておいた方がいいのかなぁ。


「じゃあカノン、早速君の実力を見たいのだが、今から」

「あ、隊長待って! カノンのことで話があるんだ」


 私の代わりに質問攻めにあっていたランさんが、周りを振りほどいてこっちに来た。

 離れたところから集団を見てみると、年齢層が結構幅広いんだなぁ。

 私より年下っぽい子からおばさんまでいて、若い子の方が多い。

 あと、こっちに来なくて普通に食事をしてる人もちらほらいる。

 目だけはしっかりとこっちを見てるけど。

 そして、なぜか女性しかいない。

 男の人は守護者になれなかったりするのかな。


「話ってなんだ?」

「あー、ここじゃゆっくり話せなさそうだから隊長室行こう」

「あたしも行ったほうがいいかね」

「そうだね。あ、カノン、食事はあそこにいる人に言えばもらえるから、先に食べててね」


 そう言って、ランさんたち三人は食堂を出ていってしまった。

 取り残される私。

 まだまだ物足りない様子のみんな。


 あっ、これやばいやつだ。


 じりじり迫る人の塊。

 それに合わせて下がるけど、あっという間に壁際に追い詰められてしまった。

 そして再び、質問の渦に飲み込まれた。

 私もついていけばよかったあああぁぁぁ───

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