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アナザー 人魚姫 人魚姫の恋した王子様

作者: 一年卯月

 私はその日夢を見た。

 その前に私の事を話そうと思う。私はごく普通の家に生まれた。自分で言うのもあれだけれど、容姿端麗、秀麗眉目。教師たちからの信頼も厚く品行方正でとおっている。そんな私の隣の家には同い年の男の子が住んでいる。子供の頃からずっと一緒にいてよく他の男子たちにからからかわれていたけれど、当の本人はあっけらかんとしていて気にしていなかったから私も変に意識することなくそのその関係を今でも続けている。

 それじゃあ、夢の話といきましょうか。


 目が眩むほどのコメット・ブルー。雲一つない青空の下に私はいた。夢の中で私はこの国の王子様だった。

 毎日のようにくるお見合いの催促に私は、ほとほと嫌気がさし飼い犬の散歩と称し屋敷から抜け出して浜辺に来ていた。両腕を枕にして浜辺に寝転ぶと愛犬が上に乗ってじゃれてくる。普段なら重たくてかなわないが今は、男の姿だからさほど重さなど気にならない。頭と首の下を撫でてあげると、もっともっとといわんばかりに顔を舐めてきた。ペットを飼ったことがないから良さはわからなかったけれど、案外、犬もいいなぁと思った。

 遠くから呼ぶ声が聞こえてきて、私は返事をした。声の主は、夢の中での私の弟。つまり第2王子。第2王子だけどそれは名ばかりで王座の座は第1王子である私が持っている為、現在は私の従者みたいな事をやっている。

 この国は、治安も良いし空気もおいしいし海も澄んでいてきれい。だけど、この国の王になりたいとは思えなかった。たった数年、先に生まれたか後に生まれたかだけで人生が決められてしまうなんてバカらしかった。もっとほかにやりたいことがあるがそれがなんなのか喉まで出かかっているのに出てこない感じだ。

「ここにいたんですね。いい加減ご自分の立場を考えてください」

「わかっているよ。でもたまには息抜きをさせてくれ」

そう言いながら服についた砂を払い落とすとまだなにか言いたげな弟の顔を見た。その視線に気が付くとなにか?と聞いてきた。

「いや。これからの予定は船での巡察だっけ?」

「はい。その予定となっております」

「じゃあ。急いで支度しなきゃ。行くぞ」

と言って愛犬に声を掛け屋敷に向かって駆け出した。後ろを振り返ってみると弟が慌てて付いてきた。いつもそうだ。弟は、先に駆け出す私の後を必ず付いてくる。もっと、自分のやりたいことをやっていいのに。


 船上での巡察は主に他国との領域の偵察だったり漁の事だったり話の仲裁に入ったりする事。

 私は、甲板に乗って望遠鏡を覗き込みなにか異変がないか見ていた。視線の端になにか動いた気がしてよく見てみようとしたときに誰かに押された気がした。

 そして、私はバランスを崩し海へと真っ逆さまに落ちてしまった。

 海面に背中を激しく打ちつけられた私は意識を失った。


 なにか声が聞こえるがうまく聞き取れない。誰かの泣き出しそうな声に大丈夫だよと言ってあげたいのに体が石のように重く動かせなかった。

 少しして聞きなれた声が聞こえてきた。あぁ。そうだ、この声は弟の声だ。頬を軽く叩かれて私は目を開けた。私の顔を心配そうに覗き込んでいる。

「大丈夫ですか?」

「……。あぁ。大丈夫だ」

そう言って、立ち上がろうとしたが、ふらついてしまった。私は弟に支えられて屋敷に戻った。

 私は、ベッドでしばらく休養を取っていた。考えることは、あの時、助けてくれた子の事ばかり。どこかで会った気もするけれどどこだったか。あごに手を当てて考えてみても思いせない。

 ようやく、ベッドから出る許可も出て、私は軽い運動もかねて愛犬を連れてあの浜辺に行くことにした。ここに来ればあの子に会えるかもしれない。根拠もないのになぜかそんな気がしていた。

 久々の散歩なのか嬉しそうに先に駆け出す愛犬のあとに続くと浜辺に何かあることに気が付いた。流木だろうか。だが、近づいてみるとそれは同い年くらいの女の子だった。海で遭難したのだろうか。、でも。なぜだろうを服を着ていない。自分の裸なら見慣れているのに私は他の女の子の裸を見てしまったことに恥ずかしくなり着ていた上着を掛けた。手を口元に当ててみるとかすかだが息をしていた。誰か呼びに行こうか。でも他の誰かきてつれていかれたりあまつさえ売られたりしたら厄介だから私は彼女が起きるまで待つことにした。

 愛犬は彼女に遊んでほしいのか顔をしきりに舐めていた。やがて、彼女は目をさまし起き上がった事により、掛けていた私の上着が落ちまた、肌があらわになった。ふいに見てしまった事により私は咄嗟に目を背けた。

 彼女は、口をパクパクとさせるだけでなにも話そうとしない。もしかして話せないのか。私がそう聞くと彼女はしきりに首をに縦に振った。どこから来たのか聞いてみると首を横に振った。どうやら記憶喪失のようだ。このまま放っておくわけにもいかず私は屋敷に来ないかと提案した。すると、彼女は喜び私に抱きついた。裸足だったから足を怪我するといけないと思い私は彼女を抱えて屋敷に戻った。

 私が、なにも服を着ていない女の子を連れてきたことにみんなは驚いていたが客人に喜んだのか大勢でお風呂に入れてあげたり、髪の毛をきれいにセットさせられたりしていた。

 よほどなれないことをされたのかベッドに横になっている彼女に私は謝るとベッドから起き上がり首を振った。

 明日、夜会があることを話すと彼女は嬉しそうにした。彼女が嬉しそうにしていると私も嬉しい。そんな気持ちにさせてくれる女の子だった。


「王子!本当にあの女性も夜会に参加させるのですか?」

客人のリストを見ていると弟が部屋に入ってくるなりそう言った。

「あぁ。客人なのだから問題ないと思うけど」

「どこの馬の骨のわからない女性なんて私は反対だと言っているんです」

そう言う弟に私は、もう休むからと言って無理矢理追い出した。

 次の日、彼女はまたメイドたちに囲まれて着飾ったことを弟から聞かされた。うんざりしている彼女の顔が目に浮かび笑ってしまいそうなのを咳払いでごまかした。

 夜会では私に次々に挨拶に来る客人たちの相手で彼女に近づくことすら出来なかったが当の彼女は隅の方で料理を食べていた。視界の片隅に入れていた彼女は少し足元がおぼつかない様子で大広間から出ていった。そんな彼女のことが気にかかり私はこっそりと抜け出して彼女の後を追った。

 ノックをして少し待ってからドアを開けてみるとベッドに横になっている彼女がいた。具合が悪くなったのかと思って彼女に聞いた見たら彼女は首を振った。口元に顔を近づけてみるとかすかにアルコールの匂いがした。私はそのまま彼女の隣に横になって、大広間からこっそり抜け出したことを伝えると彼女は笑った。

「いつも隣にいるのは、弟なんだ」

私はなぜか彼女にそう言っていた。

「本当はもっと好きなことをしてほしいと思っているんだけれど上手くいかなくてね。毎回来る見合いの催促にもいい加減うんざりしている。自分の相手なんて自分で見つけたいんだけどね。少し前に船から落ちたときに助けてくれた子にもう一度会いたいんだ……」

私は、そう話すとなぜだか涙をこぼしていた彼女の涙をそっと手の甲で拭った。

 彼女話せないのだから無理もないのだけれど、急に沈黙してしまい時間だけが流れた。吐息がかかりそうなほど顔が近い。ノックが聞こえてきて、夜会が終わるから挨拶をしてくださいと弟が迎えに来た。私は分かったと声を掛けて起き上がり乱れた衣類を直してドアと彼女の顔を見た。悩んだ結果、彼女の額に口づけをして部屋から出ていった。

 部屋から出ていくと自分のやったことなのに恥ずかしくなり顔が真っ赤になったことを弟に指摘された。

 客人への挨拶を済ませた私は彼女に会うことの気まずさからそのまま自室に戻った。あり得ない話なのかもしれないがあの時、助けてくれた子が彼女ならどんなにいいかそんなことを考えていた。そんなことを考えているうちにいつしか私は眠りについていた。

 眠りについた私は、なにか乗ってきた存在に気がつき目を覚ました。ぼんやりとなりながらも彼女の存在を認識して眠れないのかと声を掛けると彼女が馬乗りになってなにかを振りかざしている。そして彼女の手から短刀が落ち、そこで私は、すべてを悟った―――。

 この短刀で私の事を殺せと弟が命じたに違いない。第2王子である弟は自分がこの国の王になれないとわかってから私の命を狙ってきた。船から突き落としたのは他ならぬ弟だったのだ。自分でくだすのは止めて私が気を許している彼女に頼むことで確実に殺すことを狙ったのだろう。だが彼女の私を殺すことができないという想いの方が強かったのだろう。

 私は落ちた短刀をベッドサイドの棚に置き、なにも言わずに彼女の頭を撫でると涙を流し部屋から飛び出す彼女の腕を掴んだが振りほどかれた。

 私も部屋から出て、待ってと必死に叫んだが待ってくれず、走りながら振り向きなにか言いたげな彼女を追い駆けついに崖まで追い詰め、彼女がなにか呟くと海へと飛び込んだ。

 あの時に助けてくれたのが彼女じゃなくても、もう離したくない。自然と私も彼女の後を追って海に飛び込んでいた。海の底に沈んでいく彼女を見つけ手を伸ばす。今度は離さない。最後に見たのが泣き顔なんてそんなのは悲しすぎる。

 私は、びしょ濡れになった彼女を連れて屋敷に帰った。

 彼女を連れ帰って、気を失っているらしく目を覚まさなかったが規則的に息をしていることに安心しメイドたちに彼女の面倒を頼みひとしきり体を乾かした後、弟の部屋に行った。

 彼女にあんなことをさせた腹立たしさに扉を叩く力が強くなるのをなんとかこらえ私はノックした。寝ているかもしれないがそんなことは構っていられなかった。返事が聞こえ中に入った。

「お前に王座をやるからもう構うな」

「王子、なにをおっしゃっておられるのですか?」

「お前のやっていることは全部わかっている。今まで命を落としかけてきたことは全部お前がやってきたことなんだろう?」

弟は顔を青ざめさせてなにも言わなかった。その沈黙が了承だと受け取った私は王座を弟に譲り彼女を連れて村はずれで暮らした。その暮らしは今までの暮らしとは違って決して裕福とは言えなかったけれど彼女が隣にいるだけで幸せに満ち足りていた。なにも話せないけれど彼女が笑うと私も嬉しかった。私はこの笑顔、知っている。初めて見たときから初めて見るはずなのにどこか懐かしさを覚えていた。そうだ。この笑顔は―――。


 翌朝、私は目を覚ました。しばらくぼうっとしていたけれど軽く両頬を叩いて、伸びをして制服に着替えた。カーテンを開けて隣に住んでいる幼馴染みの部屋を見てみたがまだカーテンは閉まっている。また起こしに行ってやるか。顔を洗ってから用意された朝食を食べ幼馴染みの家に行く。おばさんに歩きながらでも食べられるおにぎりを作ってもらうようにお願いした。ドアを開けると気持ち良さそうに眠っている。このまま眠らせてあげたいけれど遅刻するしなーと思って、しばらく見てみたが一向に起きる気配がなかったから少し手荒だが馬乗りになって頭から外れていた枕で幼馴染みの顔に押し付けてみた。

 少し経って払いのけられた。呆れ気味に何やってんの?と聞かれたから、

「死んだように眠っているからとどめを刺そうと思って」

と照れながらそう言うと益々、呆られてしまった。

「早く用意しないと遅刻するよ」

そう声を掛けて部屋から出ていき、用意してもらったおにぎりを受け取った。いつもごめんねと言われたが、慣れていますからと返した。玄関で靴を履き待っているが足音から慌てている様子はない。なにをのんびりしているんだ。

「あ、枝毛だ」

手持ちぶさたから毛先をいじっていると髪の毛の先に枝毛を見つけてしまった。帰ったら処理しなきゃ。

 あくびをしながらお待たせと幼馴染みがやってきた。髪の毛をとかしてないな。寝癖が付いたままになっている。

 私たちは台所にいるおばさんに聞こえるように行ってきますと言って学校へ向かった。

 私たちの学校は歩いて行ける距離にある。道すがら作ってもらったおにぎりを渡した。

 おにぎりを受けとると無表情に食べている姿を盗み見た。

 普段から目立ったことはしないけれど実は影で人気があるらしく幼馴染みである私はうらやましがられた事がある。そんなことを言っても調子に乗るだけだから一度も話したことはないけれど。

「なぁ。人魚姫の最後ってどんな話だっけ?」

そんなことを急に聞いてきた。今朝、見たばかりの夢の事が思い出されて私はドキリとしたが平然を装い、

「何よ、突然。人魚姫ってあの?」

と聞き返した。なんでこんなことを聞いてくるんだろうと不思議に思ったが、ありのままの話オチじゃつまらないと、

「たした、最後って。人魚姫と一緒になれなかった王子様は第2王子に王座を譲り()()()()()()()()()と村はずれで慎ましく暮らしたじゃなかったっけ?」

と夢の話をした。

私がそう笑って言うと幼馴染みもつられて笑った。


今朝、見た夢の彼女が幼馴染みに似ていたことは私とあなたたちだけのないしょね。


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