百合キス(げきから)
キスの日と聞いて。一時間クオリティ。
「皐月ー! 今日はキスの日だって! だからチューしよ……ってえええっ!?」
「なんです府美。騒々しい」
「騒々しくもなるよ! なんだよそのタラコ唇はッ!」
◇ ◆ ◇
あたしこと府美と友人の皐月は、ルームシェアをしている大学生。あたしは皐月が大好きで、皐月のほうもクールぶってるけど、案外まんざらでもないご様子。
皐月は美人だけど、今はその美人ぶりが台無しなほど唇が真っ赤に腫れている。顔もピンクだし、目はうるうるだし。
その皐月があくまですましたようすで応えた。
「急に激辛カレーが食べたくなっただけです。お気になさらず」
「お気になさるっての! 皐月が激辛好きなんて初耳なんだけど!」
「そんなことないです。辛いものには目がないのです」
「涙目で何か言ってるよ……」
あたしは呆れ果てたが、皐月が慌てふためきながら「もう寝ます。お休みなさい」とベッドに逃げ込もうとするので、その身体を問答無用で引っ掴んだ。
「待ちな! 寝るにはまだ早い時間でしょうが!」
「知りません。今日は眠いのです。何が何でも寝かせてもらいます」
聞き分けのない皐月をあたしは容赦なく反転させ、何の予告も無しに唇を重ねた。
「んっ……!」
小さく震え、皐月はあたしの身体を引き剥がそうとする。顔は、普段のクールぶりが嘘のような動揺ぶり。
「何をするんですか府美! カレー食べた後なのですよ。口の中激辛なのですよ。火傷してもいいのですか」
「ははーん。なるほど……」
皐月の奇行に、あたしは納得した。今日がキスの日であることを既に知っていて、あたしにキスされたくないから、わざわざ激辛カレーなんか食べて難を逃れようとしたわけか。馬鹿者め。せっかくの記念日を激辛カレー如きでしのげると思うたか! うちの身体はカレーよりもホットなんじゃい!
「だ、ダメです府美! 口内には無数のバイ菌が存在していて……んぁっ」
皐月の弁解を聞き流して、あたしは口づけを再開した。やれやれ、それで病気になるならうちらはとっくに死滅してるんだけど!
あたしは、せいぜい色っぽく、うろたえる皐月にささやきかけた。
「ここ、すっごくびんびん……。あたしが鎮めてあげるよ……。あむっ、れろっ」
「んうぅッ! ふ、ふみ……」
膨れ上がった唇に舌を這わせ、皐月が身悶える。
「舌も火傷してるかもね。ほら、出してよ」
「だ、ダメぇ……ふみ……」
「ダメなわけないじゃん。もしかしたら口の中もアツアツなんでしょ? ちゃんと冷まさないと……」
「や、やめてください。そんなことされたら私っ! んッ!? んんううぅぅううっ!!」
◇ ◆ ◇
サイコーにホットな夜を迎えた後、あたしは皐月に尋ねた。
「なんで、あんなにキスを嫌がるのさ? あたし、傷つくな」
「は、恥ずかしいからに決まってるじゃないですか……」
「あたしとキスするのは、いや?」
「そ、それは……そんなことは、ありませんけど……」