『村長、逆鱗に触れる。』
翌朝のアッシュは物凄いキレの良い目覚めだった。
昨晩は浅い眠りを繰り返していが、いつの間にか眠っていた様だ。
いつもより体が軽い気がする。
歯を磨き、顔を洗い、鏡を見るといつもより肌艶が良い。
(何だコレは………………???)
今まで感じた事の無い身の軽さとツヤツヤ感に奇妙さを感じながらリビングへ向かう。
「ただいま~っ!」
アルメリアが朝市の買い物から帰って来る。
「か、母さん!俺何か、へん……………………えぇっ!!??母さん何その荷物!!」
アルメリアはいつもの3倍はあろうかという荷物を軽々と持っていた。
「しかも、ツヤッツヤ!!」
「そうなの、母さん今日は朝から何だか調子が良くって。い~っぱいお買い物しちゃったわ。」
(ちょ、調子が良いとかいうレベルでは無い。)
「何だか村の皆も今日は随分張り切ってるみたいだったわよ。」
「え!?」
アッシュはアルメリアの横をすり抜け、ドアから外へ出る。
外を見て驚いた。
まだ朝も早いというのに、村のほとんどの人が起きて行動していた。
「ヨッ、アッシュ。お早うさん。」
大工のグリフだった。
「今日は何だか調子が良くてなぁ。朝から南門の改修工事よ。」
そう言ったグリフは肩に四角に切り出した大きな岩を担ぎ、お肌ツヤッツヤだった。
「えぇっ!?それいつも、2~3人で運んでるやつ!!」
「おぅよ、今日は何故か一人でも余裕だぜ。何か、他のヤツらも調子良いみたいでよ。工事がどんどん進むぜ。南門の改修は今日で終わっちまいそうな勢いだぜ。じゃあな。」
ガハハハハハ……………………。
笑いながらグリフはズシズシ南門へと歩いて行った。
「ドラゴンの肉ぢゃな。」
「うっわ!びっくりした。何だ、村長か。いつからそこに。脅かさないで下さいよ。……………………、てか、村長も何だかツヤツヤ、ムキムキじゃないですか。」
(正直、ツヤツヤの老人は何だか気持ち悪いが言わない事にした。)
「アッシュや、お前さんに言うとかねばならん事がある。」
村長がいつになく真剣でツヤツヤな表情で言った。
「実はな、先日お前さんが撃退したドラゴンは厳密に言うと、ドラゴンでは無いのぢゃ。」
「ドラゴンじゃない?」
「ドラゴン亜種。」
「ドラゴンアシュ??」
「そうぢゃ。お前さんの撃退したドラゴンはドラゴンにはやや劣る種族。故にドラゴンとしては最も弱い部類。本当にドラゴンが襲って来たのであれば、今のお前さんでは到底太刀打ちできんかっただろう。」
「本当のドラゴン。」
アッシュは想像しようとしたが、出来なかった。
「わしも聞いた話しか知らんのだが、この世界には来魔で発生するモンスターとは別に、古くからドラゴンの種族が存在すると言う。豊富な知識と強大な力を持つとされている。だが、人前には滅多に姿を現さんらしい。来魔の時期を除いては。」
「ドラゴンの出現は来魔と何か関係が?」
「分からん。だが、ドラゴンは何も人間と敵対する存在とは限らんらしい。一説にはその昔、ドラゴンと共に来魔を静めた人間もおったらしい。」
「俺の先祖でしょうか?」
「さぁな。そうかも知れんし、そういう仲間がおったのかも知れん。」
「でも、モンスター図鑑には誰もドラゴンについて記述している人は居ませんでしたよ?」
「単に出会わなかっただけかも知れんな。」
「でも村長はドラゴンの事知ってるじゃないですか。」
「わしも長く生きてるからな。人よりは多くの噂話を知っとるだけぢゃて。ところでお前さん、旅に出ると言っておったがどこへ向かうつもりぢゃ?」
「分かりません。だけど、とりあえずここから一番近い村か町へ行こうと思います。世界には来魔や親父の情報を知っている人達が居るかも知れませんから。」
「一番近いとなれば、メバンニ村ぢゃな。あとで地図をやろう。」
「有難うございます。助かります。」
「あと、コレもやろう。」
そう言って村長が鍵を取り出し、アッシュに手渡す。
「…………鍵?何のですか?」
「まぁやるとは言ったが、わしがザウスから預かっていた物だ。返すと言った方が正しいがな。その鍵はな、ザウスの隠し蔵の鍵ぢゃ。」
「親父の隠し蔵…………ってまさか、俺んちの庭のあの蔵のか?」
「ま、まぁ、そうぢゃな。丸見えで全然隠れてないがな。」
村長は苦笑いしながら言う。
アッシュは小さい頃から庭の蔵の中身がずっと気になっていた。
何度かザウスが夜中に蔵から出てくるところを見た事はあるが、入れてくれる事は無かった。
「村長、俺が開けても良いんかな?」
「ワシには分からん。が、ザウスに何かあった場合はその鍵をお前さんに渡す様に頼まれとった。………………まぁ、つまりはそういう事なんじゃないのかのぅ。何が入っとるのかはワシにも分からんがの。」
「ありがと、村長。俺、開けてみるわ。」
「ホッホ、そうか、好きにせい。ワシはメバンニ村の地図を取ってきてやろうかの。」
そう言って二人は各々の家へと戻る事にした。
アッシュが鍵を握りしめたまま蔵の前に立尽くす事数十分、早く開けたい気持ちとは裏腹に戸惑いも有った。
(親父が隠し続けてきた蔵の中身、何が出てくるか。俺の知らない親父の部分。見たい様な、見てはいけない様な……………………。)
「いや、親父がこの鍵を俺に託したんだ。何か意味がある。」
そんな独り言を言いながら、アッシュは再度鍵を強く握り締める。
興奮を抑えながら、鍵を重たい南京錠の鍵穴へと差し込む。
ゆっくり回してみる。
カチリ。
(開いた。)
閂に掛かっていた錠を外し、地面へ置いた。
ドウゥンッ。
ドラゴンの肉のお陰で軽く感じていたのか、地面からは持った感じよりも重たい音がした。
閂も外し、蔵の壁に立て掛ける。
多分、親父も同じ所に立て掛けていたのだろう。
アッシュが立て掛けたのと同じ所に窪みができていた。
その窪みの深さから閂の重量も相当なものだと伺える。
(親父はこれを一人で……………………。)
重厚感のある観音扉を片方だけ開け………………
開け………………
「んぎぎぎ、ぐぐぐ。」
ギィィィィ。
開ける。
「ハァハァ、なんちゅう扉だ。鍵要らなくね?」
蔵には窓が一つも無かったが、中は明るかった。
その疑問はすぐに解決した。
蔵の中央に飾られた台座に光を放つ球体が据え置いてあった。
(何だこれは????)
それは、石の様にも金属の様にも見えた。
火や外からの光等、光源になる様な物が見当たらない。
球体自体が発光している。
蔵の壁には棚が据え付けてあり、様々な武器や道具書物等が陳列されている。
アッシュは差し当たり入口近くの棚から見て回る。
液体に漬けられたモンスターの体の一部だろうか、色とりどりの瓶が並べてある。
その隣には鉢植えが並べてあった。
どれもアッシュが見たことの無い植物ばかりだ。
中にはドクドクと脈打っている物もある。
(何だか気持ち悪いな。)
次の棚は本棚だった。
適当に1冊手にして、パラパラとめくってみる。
……………………、まるで読めない。
知らない文字ばかりだった。
試しに何冊か開いたが、どれもアッシュには理解不能だった。
奥のスペースには、装備品が無造作に置いてある。
物凄い爪痕の入った鎧、右上部が破損した兜、黒焦げの盾、刃先の折れた剣………………、装備品は他にも色々あったが、まともな状態の物は見当たらなかった。
その中でも、一振りだけ異彩を放つ剣が有った。
吸い込まれそうな漆黒の鞘には文字の様な模様が書かれており、淡い赤色に光っている。
よく見ると漆黒の鞘の中に白や青、銀色に瞬く星の様な物が見える。
鞘自体がまるで宇宙の一部かの様だ。
鞘には天使の翼を広げた様なデザインの柄が差し込まれていた。
柄尻には太陽をそのまま閉じ込めた様な水晶がはめ込まれ、鞘の宇宙から力を吸い取っているかの様だった。
見た目にも破損は無く、アッシュはこれならと思い手に取る。
「え?」
アッシュはその異常な軽さに声が漏れた。
見た目から想定した重量感より遥かに軽いのだ。
(一体何の素材で出来てるんだ??)
アッシュは柄に手をかけ、剣を鞘から引き抜こうとした。
…………………………………………っ!!!
抜けない。
「何だ?錆びてんのか??」
両手持ちで思い切り振って遠心力で鞘を飛ばそうとしても、床に叩き付けても、翼のデザインの鍔部に両足をかけて踏ん張っても抜けなかった。
(もしや、見た目だけの飾り物か??)
(異常に軽かったし、刀身が無いのでは??)
(他の装備品もガラクタみたいなもんだし、これも使えないからここに置いてあるのか???)
色々考えた結果、アッシュはその剣を放置した。
はてさて、蔵の中にはアイテムが沢山有るのに、使えそうな物が見当たらない。
アッシュは辺りを見回す。
すると、奥の棚に木箱を見つけた。
アッシュは吸い寄せられる様に手を延ばし、蓋を開けてみる。
中を覗くとダイヤ型の水晶の様な物が入っていた。
「ん?」
アッシュは奇妙な感覚に捕らわれる。
箱を倒すと、中の水晶がスーッと出てきた。
「う、浮いてる?」
リリアの顔を伺う。
「浮いてるわね。」
リリアも同じ回答だった。
目の前で物体が自然の法則に逆らい、浮いている。
不思議な光景だった。
(…………………………………いや、だから何だと言うのか。)
アッシュは思う。
確かに不思議な物体だが、これがこの先の旅に役立つとは思えない。
「ダメだな。役に立ちそうな物が見当たらない。と言うか、有ったとしても使い方が分からない物ばかりだ。」
アッシュは溜め息をつく。
そこへ、村長が現れた。
「ほぅ。この蔵は珍しいものばかりぢゃな。」
「村長!そうだ村長、この中で何か使えそうな物分からないか?」
「さてな、初めて見る物ばかりぢゃからな。」
言いながら蔵の中を見回す。
暫くぐるぐると棚を見ていた村長の視線がふと、止まった。
村長は視線の先の棚にゆっくり近付くと、何かを手に取った。
それは拳程の赤茶色の塊だった。
「村長、それは?」
………………、
暫く間が有った後、村長がぼそりと言った。
「逆鱗。」
「え?」
アッシュは聞き返す。
「ゲキリンぢゃよ。」
「ゲキリン?」
「龍やドラゴンと言った種族は体が鱗で覆われておる。だが、その中に一枚だけ他の鱗とは逆向きに付いている鱗が有るのぢゃ。それを逆鱗と呼ぶ。」
「で、何でその逆鱗がこんな所に?」
「理由分からんが、その逆鱗を手にした者はそのドラゴンと契約し、従える事が出来ると聞く。ぢゃが、その逆鱗を手に入れるのは非常に困難を極める。」
「困難て、どんな?」
「見て分かる通り、逆鱗は他の鱗と比べ非常に小さい。ドラゴンの巨体を覆う無数の鱗の中からこのサイズを見つけ出すのがまず困難。その上、逆鱗の生える場所は不特定という困難。そして何よりも、生えている逆鱗に触れるとドラゴンは激昂し暴れ狂うという困難。」
「親父はどうやってこの逆鱗を手に入れたんだろうか?」
「はて、ワシにには見当も付かんのぉ。」
二人は黙ったまま、暫く逆鱗を見つめていた。
「あぁ、そうぢゃった。ほれ、メバンニ村までの地図ぢゃ。とりあえず向かってみると良い。」
「ありがと、村長。」
「では、ワシは帰るでな。」
そう言うと村長は蔵の外へと消えていった。
アッシュも暫く蔵の中で役立ちそうな物を探してみたが、結局どれもこれも理解不能な物ばかりなので、逆鱗だけ持ち出した。
その晩ドラゴンの肉の効果が切れたのか、筋肉痛に悩まされる村人の呻き声が一晩中響いたとか響かなかったとか………………………………。
『後書き』
最近、なかなか暇を見付けられず続きが書けていない状況ですがコツコツいきます。
さて、世の中には楽しい娯楽、手軽で面白い時間潰しがいくらでも有るので私みたいな者の書いた物を読むのに誰が時間を割くんだと思いつつ、でも何人かは見て頂いてる方もいる様なのでその方達の貴重なお時間が少しでも無駄にならない様に努力はしたいと思います。
如何せん文章の書き方など勉強もした事ないので、期待に添えない場合が多いでしょうが(;´д`)
その辺も含め、私がなかな続きを書けない間に作品を気に入って頂いてる方、嫌いな方、色々な方面からの感想を頂けると幸いです。
あと、こうしたら良くなる、面白くなるよ的な技があればご教授頂けると………………とは思いながらやはり独自の技は教えたくないのも確かかと思います。
書けない間もそれらを励みにマイペースで行きますので宜しくお願い致します。
あ、あとタイトルが「鋭意製作中」のは未完ですので読んでも構いませんが中途半端感が凄いです。
ストレスフリーで読みたい方はタイトルが付いてから御覧になって下さい。
………………まぁ、文章自体が未熟でストレス溜まるのは否めませんが、何卒広い心で(-_-)ゝ